【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
上 下
44 / 98

44 帰宅

しおりを挟む
 私も確かにハミルトンの事は気になっているけれど、今すぐ結婚とか言われても返事に困ってしまう。

 そんな私の心を知ってか知らずか、ハミルトンがスッと私に手を差し出してくる。

「さあ、フェリシアに馬車までエスコートしてあげるよ」

 そんなハミルトンに負けじとユージーン、もといお兄様までもが私に手を差し伸べる。

「いやいや、まだハミルトンに可愛い妹は任せられないな。さあ、フェリシア。僕がエスコートしてあげよう」

 またしても二人に手を差し伸べられて私はどうしていいかわからなくなってしまう。

 ここはやはりさっきと同じように二人の手を取る方が無難かしらね。

 私がそれぞれの手を取ると、二人共、ホッとしたような、がっかりしたような顔をしている。

「お二人共、そんな顔をされるんでしたらもう手を繋ぎませんよ」

 そう告げると二人共慌てたように笑顔を見せて私をエスコートしてくれた。

 馬車へは真っ先に私が乗り込んで席の真ん中に陣取り、ハミルトンとお兄様を反対側に並んで座らせた。

「「ええー、そんなー」」

 二人は声を合わせて私に抗議をするけれど、私はニッコリと笑って言った。

「ほんの少しの辛抱ですよ。我慢してくださいね」

 二人共同じような仕草でがっくりしていたけれど、私は素知らぬ顔で外の景色に目をやった。

 やがて馬車は公爵家の門を通り過ぎて玄関先へと到着する。

 扉が開くとお兄様とハミルトンはそそくさと馬車から降りて、スッと私に向けて手を差し伸べる。

 …これくらいはいいわね。

 二人に手を取られて馬車を降りると、モーガンが出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ。旦那様が応接室でお待ちです」

 モーガンの後をついて応接室に向かうと、車椅子に座ったままのお祖父様が出迎えてくれた。

「おかえり、フェリシア。その顔を見るとどうやらフェリシアはエリックの娘だったみたいだな」

 お祖父様の言葉に私はコクリと頷いてお祖父様の隣のソファーに腰掛けた。

 お兄様とハミルトンは私達の向かいに並んで座ってまたもやブーブー言っている。

「うるさいぞ、お前達。一緒に座るのが嫌なら出て行け!」

 お祖父様に一喝されると二人は黙ってしまった。

 最初から大人しく座っていればいいのにね。

 喧嘩するほど仲が良いって言うから、あれは喧嘩じゃなくてじゃれ合っているだけなのかもね。

「魔道具にお父様と一緒に触れたらすべての魔石が光りだしました、明日には王宮に行かなくてはいけません」

「そうだろうな。エリックはアイリスが居なくなってしばらく気落ちしていたからな。あのまま王宮に留めなかっただけましだな」

 お祖父様への報告が終わるとお兄様は王宮へと戻って行った。

 何だかんだ理由をつけて公爵家に泊まろうとしていたけど、お祖父様にひと睨みされたらスゴスゴと引き下がったわ。

 自室に戻るお祖父様を見送ると私もそのまま、自分の部屋へと戻る事にした。

 ハミルトンが何か言いたそうにしていたけれど、気付かないフリをした。

 

 夕食の時間になって食堂に向かう際に、私はジェシカの髪の毛とお骨が入った箱を持っていく事にした。

 いずれジェシカの身内に会えたら渡そうと思っていたけれど、こんなに早く出会えるとは思っていなかった。

 夕食後のお茶を飲む頃、私はお祖父様にそっとその箱を手渡した。

「お祖父様。この箱にジェシカの髪の毛とお骨が入っています。お墓は孤児院の墓地にありますから、もしこちらのお墓に移されるのならこちらも入れてあげてください」

 お祖父様は箱を開けてジェシカの髪の毛を見て軽く頷いた。

「これはダグラスとまったく同じ色の髪だな。フェリシアも似たような色だが、少し濃すぎると思っていたんだ」

 お祖父様は何処となく私がこの家の娘ではないかもしれないと感じ取っていたのね。

 どちらにしても遺髪と遺骨を渡す事が出来て肩の荷が下りたわ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...