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39 出発
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「さあ、フェリシア。父上が待っている。僕と一緒に王宮に帰ろう」
手を差し出してくるユージーンから私を隠すように、ハミルトンが私の前に立ちはだかる。
「まだ、フェリシアがユージーンの妹だと確定したわけじゃない。もし違っていたらすぐにこの屋敷に連れて帰るからな」
「おや? 君の妹のジェシカではないとわかったのに、まだこの屋敷に置くつもりかい?」
ハミルトンの宣言にユージーンがからかうような口調で聞き返している。
確かに私がジェシカでないとわかったのに、どうしてまだこの屋敷に留めようと思うのだろう?
「そ、それは…。その…」
どうしたのかしら?
妙にハミルトンの歯切れが悪いわ。
「フェリシアは私の為に車椅子を考案してくれた。それに亡くなったジェシカの友人でもある。ジェシカもきっとフェリシアがこの屋敷にいる事を望んでいるはずだ」
お祖父様が私の手をぎゅっと握りしめてくる。
「…お祖父様」
思わずそう呼んでしまったけれど、私にそんな資格なんてあるのかしら?
「私だってせっかく何でも話せる娘が出来たと思っていたのよ。それを手放すなんて出来ないわ」
お義母様までもがユージーンを咎めるような物言いをする。
この家族にこんなにも受け入れられていたなんて、ものすごく嬉しい。
だけど、自分がどこの誰かなのかをちゃんと知りたいと思う。
本当に私だってを産んだ母親が国王と恋人だったのならば、母親がどこの誰かなのかを知る事が出来る。
万が一、違っていたらその時は私はただの平民の娘に過ぎないということだ。
私は立ち上がるとハミルトンの腕にそっと触れた。
ハミルトンがピクリと身体を震わせて労るような目で私を見つめる。
「お兄様、いえ、ハミルトン様。私はユージーン様と一緒に王宮に向かいます。私の母が何処の誰なのかを知りたいと思います」
きっぱりとハミルトンに告げると彼はフッと口を緩めると私に微笑んだ。
「わかった。フェリシアがそう言うのなら王宮に行くといい。だけど僕もついて行くからね。ユージーンの言う事が本当かどうかこの目で確かめたい」
ハミルトンに見つめられて思わず頬を赤らめてしまうなんて、私ったらどうしちゃったのかしら。
見つめ合ったまま動かない私達に業を煮やしたのか、「エヘン」とわざとらしい咳払いが聞こえた。
ハッと我に返る私にユージーンがニヤニヤと口元を緩める。
「二人の世界に入っているところを悪いけれど、すぐに王宮に向かうよ。父上も僕が戻るのを今か今かと待っているだろうからね」
玄関ホールに向かおうとするとお祖父様が私を引き止めた。
「私もついて行きたいが、車椅子を馬車に乗せる事が出来ないし、体調も万全ではないからね。今日は断念するよ。たとえ陛下の娘だと判明してもすぐに王宮に留まらずに一度こちらに戻って来るんだよ」
お祖父様にそんなふうに懇願されては嫌とは言えない。
私だってこのまま「はい、さようなら」なんて恩知らずな事はしたくない。
それにカバンに詰めて持ってきたジェシカの髪の毛とお骨が入った箱をお祖父様に渡してあげないとね。
「ありがとうございます、お祖父様。必ずまたここに戻って来ますね」
ユージーンはそんな私達のやり取りを見つめて肩をすくめているけど、話を止めようとはしない。
やがて玄関先にユージーンが乗ってきた馬車が到着する。
最初にユージーンが乗り込み、その後でハミルトンがユージーンの向かいに座った。
私が乗り込もうとすると、ユージーンとハミルトンが競り合うように私に向かって手を差し出してくる。
この場合はどちらの手を取るのが正解なのかしら?
たとえ私の兄だとしても、まだはっきりしていない以上、ユージーンの手を取るわけにはいかないわね。
私はハミルトンの手を取ると、そのまま馬車に乗り込んでハミルトンの隣に座った。
ハミルトンの隣に座ったのはいいけれど、妙に距離が近すぎて何だか恥ずかしい。
ユージーンの目がからかうような色を含んでいるのは気の所為かしら。
馬車の扉が閉められ、王宮に向かってゆっくりと馬車が走り出した。
手を差し出してくるユージーンから私を隠すように、ハミルトンが私の前に立ちはだかる。
「まだ、フェリシアがユージーンの妹だと確定したわけじゃない。もし違っていたらすぐにこの屋敷に連れて帰るからな」
「おや? 君の妹のジェシカではないとわかったのに、まだこの屋敷に置くつもりかい?」
ハミルトンの宣言にユージーンがからかうような口調で聞き返している。
確かに私がジェシカでないとわかったのに、どうしてまだこの屋敷に留めようと思うのだろう?
「そ、それは…。その…」
どうしたのかしら?
妙にハミルトンの歯切れが悪いわ。
「フェリシアは私の為に車椅子を考案してくれた。それに亡くなったジェシカの友人でもある。ジェシカもきっとフェリシアがこの屋敷にいる事を望んでいるはずだ」
お祖父様が私の手をぎゅっと握りしめてくる。
「…お祖父様」
思わずそう呼んでしまったけれど、私にそんな資格なんてあるのかしら?
「私だってせっかく何でも話せる娘が出来たと思っていたのよ。それを手放すなんて出来ないわ」
お義母様までもがユージーンを咎めるような物言いをする。
この家族にこんなにも受け入れられていたなんて、ものすごく嬉しい。
だけど、自分がどこの誰かなのかをちゃんと知りたいと思う。
本当に私だってを産んだ母親が国王と恋人だったのならば、母親がどこの誰かなのかを知る事が出来る。
万が一、違っていたらその時は私はただの平民の娘に過ぎないということだ。
私は立ち上がるとハミルトンの腕にそっと触れた。
ハミルトンがピクリと身体を震わせて労るような目で私を見つめる。
「お兄様、いえ、ハミルトン様。私はユージーン様と一緒に王宮に向かいます。私の母が何処の誰なのかを知りたいと思います」
きっぱりとハミルトンに告げると彼はフッと口を緩めると私に微笑んだ。
「わかった。フェリシアがそう言うのなら王宮に行くといい。だけど僕もついて行くからね。ユージーンの言う事が本当かどうかこの目で確かめたい」
ハミルトンに見つめられて思わず頬を赤らめてしまうなんて、私ったらどうしちゃったのかしら。
見つめ合ったまま動かない私達に業を煮やしたのか、「エヘン」とわざとらしい咳払いが聞こえた。
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玄関ホールに向かおうとするとお祖父様が私を引き止めた。
「私もついて行きたいが、車椅子を馬車に乗せる事が出来ないし、体調も万全ではないからね。今日は断念するよ。たとえ陛下の娘だと判明してもすぐに王宮に留まらずに一度こちらに戻って来るんだよ」
お祖父様にそんなふうに懇願されては嫌とは言えない。
私だってこのまま「はい、さようなら」なんて恩知らずな事はしたくない。
それにカバンに詰めて持ってきたジェシカの髪の毛とお骨が入った箱をお祖父様に渡してあげないとね。
「ありがとうございます、お祖父様。必ずまたここに戻って来ますね」
ユージーンはそんな私達のやり取りを見つめて肩をすくめているけど、話を止めようとはしない。
やがて玄関先にユージーンが乗ってきた馬車が到着する。
最初にユージーンが乗り込み、その後でハミルトンがユージーンの向かいに座った。
私が乗り込もうとすると、ユージーンとハミルトンが競り合うように私に向かって手を差し出してくる。
この場合はどちらの手を取るのが正解なのかしら?
たとえ私の兄だとしても、まだはっきりしていない以上、ユージーンの手を取るわけにはいかないわね。
私はハミルトンの手を取ると、そのまま馬車に乗り込んでハミルトンの隣に座った。
ハミルトンの隣に座ったのはいいけれど、妙に距離が近すぎて何だか恥ずかしい。
ユージーンの目がからかうような色を含んでいるのは気の所為かしら。
馬車の扉が閉められ、王宮に向かってゆっくりと馬車が走り出した。
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