【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
上 下
25 / 98

25 夕食の席

しおりを挟む
 夕食の時間になり、アンナに連れられて食堂に向かうと、既にお義母様が席に着いていた。

「あら、ハミルトンはまだなの? あの子が遅れて来るなんて珍しいわね」

 私だけが入ってきたのを見てお義母様が首を傾げる。

 私に聞かれても一緒に行動しているわけじゃないんだから、答えようがないんだけど…。

 最もお義母様にしても私に答えを求めていたわけじゃないみたいだしね。

 それほど待たされる事もなく、バタバタと足音が近付いて来て食堂の扉が開けられ、お兄様が入って来た。

「母上、お待たせして申し訳ありません」

 素早くお義母様の隣に腰掛けたお兄様は向かいに座る私にニコリと微笑みかけてきた。

 その笑顔の破壊力に胸の動悸が止まらない。

 …やだ、なんでそんな笑顔を向けてくるの?

 お兄様の顔を直視出来ずに、少し視線を逸らしながら食事に取り掛かる。

 チラチラとお兄様の様子を伺うけれど、明らかにさっきのポロック商会と会っていた時の態度とは違っている。

 そういえば何処かに出かけていたみたいだけれど、外出先で何かあったのかしら?

 やけに機嫌が良いみたいに見えるんだけれど、気の所為じゃないわよね。

 昨日知り合ったばかりのハミルトンの機嫌の良し悪しがわかるのもおかしな話ではあるけれどね。

 食事が終わって食後のお茶を飲んでいると、お義母様が私に話しかけてきた。

「そういえばジェシカのカトラリーの使い方はとても慣れているわね。平民ではあまりテーブルマナーは良くないと聞いていたけれど、ダグラスに教わったのかしら?」

 …ギク!

 昨日、何も言われなかったからその質問はされないと思っていたのに、まさか今日になって聞いてくるとは思わなかったわ。

 確かに孤児院での他の子供達のテーブルマナーはあまり良いとは言えなかったわね。

 先生方や私が注意してもあまり改善されなかったし…。

 悪目立ちしないように気を付けて食事をしたのだけれど、逆に注目されてしまったかしら?

 それでもそこでジェシカの母親の名前を出さない辺りは、お義母様も多少は思う所があるのかしら?

 確かにジェシカは所作が綺麗だったわ。

 やはり平民の暮らしをしていても長年染み付いた貴族としての所作は抜けなかったようで、ジェシカもそれなりに躾けられていたみたい。

 孤児院に来た時からジェシカの洗練された動きに驚かされたもの。

 なんでこんな良家の子女みたいな子が孤児院に来たのかとびっくりしたわ。

 だからジェシカの父親の実家が公爵家だと聞いて、何処か納得した覚えがある。

「はい、父も母も食事のマナーには厳しかったので…」

 少し目を伏せて返事をすれば、お義母様は納得したように頷いた。

「確かにダグラスは食事のマナーにはうるさかったわね。でもそのお陰でこうして公爵家に来ても恥をかかなくて済んだのだから良かったわね」

 そんなふうにねぎらわらて、私は少し困惑しながら「ありがとうございます」と返事をする。

 …どうもこの二人には調子を狂わされるわ。

 普通なさぬ仲の関係であれば、もうちょっとギクシャクしたものになりそうなのにね。

 まあ、ハミルトンは多少なりとも私に警戒心を抱いているみたいだけれどね。

 それにしても、さっきからハミルトンの態度が気になって仕方がないわ。

 一体外出先でどんな良い事があったのかしら?

 …まさか?

 孤児院に行って私が本物のジェシカでは無いことに気付いたんじゃないでしょうね。

 ありえない事じゃないわ。

 院長は認知症みたいな症状をみせているけれど、時々は普通に会話ができるもの。

 ハミルトンにジェシカが死んでいる事を伝えてもおかしくはないわ。

 つまり、ハミルトンは私をこの屋敷から追い出す口実を手に入れた事になるわ。
 
 だからあんなふうに機嫌がいいんだわ。

 私はいつハミルトンに正体を明かされるのかとビクビクしながらお茶を飲んだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...