【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
上 下
18 / 98

18 お祖父様のお見舞い

しおりを挟む
 馬車に揺られているとやがて公爵邸の門が見えて来たが、そこで私は今日はまだお祖父様のお見舞いに行っていない事を思い出した。

「…あ…」

 ハミルトンに聞こえないくらいの声を発したと思っていたが、ハミルトンは耳聡く私の声に気付いたようだ。

「どうした? 何かあったのか?」

 …何でそんなに反応がいいのかしら?

 きっと私が何かしでかさないように神経を尖らせていたんでしょうね。

 ハミルトンに問われた以上、知らん顔も出来ないので、私は素直に答えておく。

「すみません、今日はまだお祖父様のお見舞いに行っていない事を思い出したんです」

 ペコリと頭を下げるとハミルトンはホッとしたように息を吐いた。

 もっととんでもない事を言い出すかと思っていたようね。

「ああ、お祖父様のお見舞いか。屋敷に戻ったら僕と一緒に行こう」

 別にハミルトンに付き合って貰わなくてもいいんだけれど、私を監視している以上、そうはいかないんでしょうね。

 そんな事をしなくてもお祖父様に危害を加えたりはしないけれど、昨日会ったばかりの私が信用ないのは仕方がないわね。

 いつの間にか馬車は公爵邸の門を抜けて屋敷に近付いていた。

 程なくして馬車が止まり、玄関の外で待ち構えていた使用人によって扉が開かれる。

 ハミルトンが先に降りて私に向かって手を差し出して来た。

 一人でも降りられるんだけど、仲睦まじく見せる事は大事だわ。

 玄関を入ると執事のモーガンが私達を出迎えた。

「モーガン、お祖父様のお見舞いに行こうと思うが、行っても大丈夫かい?」

「はい。お二人が戻られたら顔を出すようにと言いつかっております」 

 どうやらお祖父様は私達が戻るのを今か今かと待ち構えていたようね。

 私とハミルトンはモーガンに先導されてお祖父様の部屋へと向かった。

 ポロック商会に車椅子を注文しているけれど、流石に昨日の今日では出来ては来ないだろう。

 モーガンがお祖父様の部屋の扉をノックすると、すぐにお祖父様から返事があった。

「ジェシカが戻ったのか? 入っていいぞ」 

 扉が開かれて部屋の中が見えた瞬間、ハミルトンが驚いたような声をあげる。

「カーテンが開いている。お祖父様、カーテンを開けても大丈夫なのですか?」

 どうやらハミルトンはお祖父様の部屋のカーテンが開いている事を知らなかったようだ。

 お祖父様はベッドに起き上がって枕を背にもたれかかっている。

「おや、ハミルトンは知らなかったな。昨日、ジェシカがカーテンを開けるように進言してくれたんだ。お陰で随分と気分が良くなったよ。それに私のために車椅子と言う物を作らせてくれているんだ」

「車椅子? 何ですか、それは?」

「ジェシカが私のために考えてくれたんだ。それがあると椅子に座ったままで移動出来るようになるそうだ」

 ハミルトンが何か言いたそうに私を見つめるけれど、別にハミルトンの地位を脅かすつもりはないわよ。

 何か言い訳をしようかと口を開くより先にお祖父様が側の椅子を指差した。

「ジェシカ、こっちに座りなさい。…おや、随分と可愛らしいネックレスを着けているな。ジェシカに良く似合っているぞ」

 お祖父様にネックレスを褒められて私はまんざらでもなかった。

 それにハミルトンが選んでくれたのがたまらなく嬉しい…って、そんな感情を持ってはいけないわよね。

「ありがとうございます。先程お兄様に買っていただきました」

「ほう、ハミルトンはなかなかセンスがあるな。それに二人が仲が良いようで私も嬉しいぞ」

 ハミルトンもお祖父様に褒められて嬉しいのか、やけにニコニコしている。

 …やっぱり、そうやって笑っているほうが好きだわ…

「ありがとうございます、お祖父様。ジェシカは美人で、何でも似合うので選びがいがありますよ」

 …うわー、何か胡散臭いわ…

 でも、ここは嬉しそうに笑っていないとダメよね。

 あまりお祖父様の側にいて疲れさせてもいけないと言う事で、私とハミルトンは退室する事にした。

 お祖父様の部屋から廊下に出ると、ハミルトンはさっさと先に行ってしまう。

 そういつまでも私と一緒に居たいとは思わないんでしょうね。

 私も自室に戻り、昼食に呼ばれるまで本を読んで過ごした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...