【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
上 下
13 / 98

13 妹の存在(ハミルトン視点)

しおりを挟む
 僕の名前はハミルトン。
 アシェトン公爵家の長男でもうじき十七歳の誕生日を迎える。

 僕の家に父上はいない。

 祖父母と母上だけが僕の家族だ。

 小さい頃は疑問にも思っていなかったが、大きくなるにつれて他の家庭には父親という存在がある事を知った。

(どうして僕の家には父上がいないのだろう?) 

 そんな質問も祖父母や母上にするのは何故か躊躇われた。

 そのうちに参加したパーティーで噂好きの貴族から僕の父上が他の女と駆け落ちしたという話を聞かされた。

 それも面と向かって言われたわけではなく、たまたま噂話が耳に入って来ただけの事だ。
 
 話をしていた人達もまさか僕が聞いていたとは露ほども思っていなかっただろう。

 だけど、その時の僕にとってはかなり衝撃的な話だった。

 まさか他の女と駆け落ちをするなんて…。

 まだ死んでくれていたほうがよっぽどマシだ。

 そのせいもあるのかどうかはわからないが、僕に関しては特に婚約者を決められる事はなかった。

 勿論、たとえ婚約者を決められても僕はその人を蔑ろにするつもりはなかった。

 それでもあの男の血を引いているから、一概に大丈夫とは言えないだろう。

 父上の顔は肖像画でしか知らないが、僕とはあまり似ていなかった。

 それでも何処か可愛らしい印象を受ける顔付きだった。

 父上の話を聞いた後もいつもと変わらない毎日を過ごしていたが、徐々にお祖母様の体調が悪くなっていった。

 やがて寝込む事が多くなり、ついには起き上がれなくなってしまった。

 お見舞いに行ってもお祖母様は次第に「ダグラスに会いたい」と言うようになった。

 そこでようやくお祖父様は父上を捜す決意をしたようだ。

 人を雇い、父上の足取りを追った結果、随分と前に盗賊に襲われて亡くなっていた事が判明した。

 だが、流石にそんな報告をお祖母様にするわけにはいかなかった。

 父上と女は亡くなっていたが、娘が一人いた事がわかり、捜しているうちにお祖母様は亡くなってしまった。

 お祖父様もお祖母様を亡くした心労から、お祖母様と同じように寝込んでしまった。

 二人は政略結婚とはいえ、仲睦まじかったから余計にお祖母様の死が堪えたに違いない。

 そのお祖父様の要望もあって、残された娘を我が家で引き取る事になった。

 お祖父様が決めた事だから否は唱えたくないが、内心いい気持ちはしなかった。

 次期当主はこの僕だ。

 せいぜい僕の役に立って貰おう。

 そう思い、その娘ジェシカが連れてこられた日、一目顔を見てやろうと待ち構えていた。

 階段の上から玄関の扉が開いて入って来たジェシカを見た途端、何故か僕は心を奪われてしまった。

 小綺麗ではあるが安物のワンピースに身を包んだ彼女から目が離せなかった。

(どうした、ハミルトン!)

(相手は半分とはいえ、血の繋がった妹だぞ!)

 僕は心に喝を入れて階段を降りていった。

 目の前のジェシカを睨みつけるようにして口を開いたが、思っている事とはまるで反対の言葉が口から溢れる。

「こいつが泥棒猫の娘か。こんな女と血が繋がっているなんて反吐が出る!」

(違う! こんな事を言いたいんじゃないのに…) 

 だけど口からはどんどんジェシカを傷つけるような言葉が吐き出される。

 そうでもしないと僕はジェシカを抱きしめてしまいそうだったから…。

 妹だと知らずに会っていたらきっと好きになっていたに違いない。

 そう、僕はジェシカに一目惚れしてしまったんだ。

 クルリと背を向けて階段を上がって行ったが、本当はすぐにでも引き返して抱きしめたかった。

 部屋に戻ると僕はベッドに倒れ込んで思い切り布団に拳を叩き込んだ。

 この時ほど父上を恨んだ事はない。

 あの男が駆け落ちなんてしなければ、ジェシカが生まれてくる事なんてなかったのに…。

 だが、その反面、ジェシカに出会えた喜びに打ち震える自分がいた。

 
 そして、夕食の時、食堂に入って来たジェシカの美しさに僕は目を瞠った。

 何処に出しても恥ずかしくない貴族令嬢がそこにいた。

 出来ればずっと手元に置いておきたいが、そうもいかないだろう。

 社交界に出ればきっと数多の令息がジェシカの虜になるに違いない。

 だが、ジェシカは何処にも嫁にはやらないからな。

 ずっと僕と一緒に公爵家で暮らして行くんだ。

 そう固く心に決めて僕は食事を続ける。

 明日からどう口実をつけてジェシカに接触しようかと考えを巡らせながら。 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

処理中です...