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3 出発
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私は何も気付かないフリをしてベイルさんを部屋の中に招き入れた。
「確かに私がジェシカですが、弁護士さんが私に何の用ですか?」
応接室なんてこの部屋にはないから、キッチンのテーブルにベイルさんを案内した。
「これは失礼しました。私はあなたのお祖父様であるハワード様に頼まれて、ダグラス様とケイティの行方を捜しておりました。そこでお二人が既に亡くなられてジェシカ様が孤児院に入れられた事を突き止めたのです。孤児院でお話を伺ったところ、こちらにお住まいだと教えられて来たのです」
…あれ?
今、ジェシカのお母さんの名前を呼び捨てにした?
聞き間違えたのかしら?
それよりも、ベイルさんの話を聞いていて私は不思議に思った。
院長先生はジェシカが亡くなった事を知っているはずなのにどうしてここの事を教えたのかしら?
…そう言えば…
他の先生が言っていたけれど、最近院長先生は時々会話が噛み合わない事があると言っていた。
日にちを間違えたり、さっき終わらせた事をまだやっていないと言ったりするとか。
きっと高齢のため認知症かアルツハイマーを患っているのかもしれないわ。
そうでなければ弁護士さんも私をジェシカだと勘違いしたりはしないだろう。
「私にお祖父様がいるのですか? 父も母もそんな事は話してくれなかったのでびっくりしました。私には駆け落ちをしてきたとしか言ってくれなかったので…」
両手で口を覆って少しオーバーに驚いてみせるとベイルさんは少し曖昧な笑顔を見せた。
「…まあ、そうでしょうね。ところでジェシカ様、あなたがよろしければこれからお祖父様の所へ行ってそちらで生活をしていただきたいと思うのですがよろしいですか?」
…やっぱりそう来るのね…
ジェシカのお祖父様がどれほどのお金持ちか興味があるし、直接お祖父様にジェシカの恨み言をぶつけてやりたいものね。
ここは大人しく付いて行ってあげましょうか。
「私もぜひお祖父様に会ってみたいです。連れて行ってもらえますか?」
ウルウルと目を潤ませてみせればベイルさんはうんうんと頷いた。
「それでは参りますか。とりあえず必要な物だけをお持ちください。残りの荷物は他の者に運ばせます」
私は手早く荷物をまとめた。
わずかばかりのお金と着替えとジェシカの髪と骨が入った小さな小箱。
私は部屋でその小箱を抱きしめると小さな声で囁いた。
「ジェシカ、あなたのお祖父様に会いに行くわ。あなたの悔しい思いをお祖父様にぶつけてあげる」
小さな鞄に荷物をまとめると私はベイルさんの所へ戻った。
「お待たせしました」
ベイルさんは私が持っている荷物を見て少し目を見張ったが、すぐに何でもない顔に戻った。
「それでは行きましょうか」
部屋を出てアパートの外に出るとそこには立派な馬車が待っていた。
…まさか、これに乗って行くの?
私とベイルさんが馬車に近付くと御者が馬車の扉を開けてくれた。
ベイルさんが乗り込むと御者が私に向かって手を差し出してきた。
咄嗟の事でどうしていいのか躊躇っていると御者は私に向かってニコリと微笑んだ。
「どうぞこの手にお掴まりください」
どうやら私が馬車に乗るのに補助をしてくれるようだ。
…まるでお姫様になった気分だわ…
私はその手に掴まって馬車の中へと入ったのだが、そこでも驚きのあまり目を見張った。
外装も豪華な造りだったが、内装も相当お金がかかっているものだった。
こんな綺麗な馬車をこんな薄汚れた服で乗ってもいいのかしら。
恐る恐る腰を下ろしたが、その座面の柔らかさにまたもやびっくりさせられた。
前世でもこんな座り心地のいいソファーなんて座った事がないわ。
よく馬車に揺られるとお尻が痛いって聞くけれど、この馬車ならそんな事にはならないわね。
私が座ったのを確認するとベイルさんは御者に馬車を出すように伝えた。
ゆっくりと馬車が走り出して、馬の蹄の音が聞こえてくる。
歩くより少し高い位置から見下ろす町並みは、いつもと違って見える。
馬車は王都の外れから中心地へと向かって走り出した。
「確かに私がジェシカですが、弁護士さんが私に何の用ですか?」
応接室なんてこの部屋にはないから、キッチンのテーブルにベイルさんを案内した。
「これは失礼しました。私はあなたのお祖父様であるハワード様に頼まれて、ダグラス様とケイティの行方を捜しておりました。そこでお二人が既に亡くなられてジェシカ様が孤児院に入れられた事を突き止めたのです。孤児院でお話を伺ったところ、こちらにお住まいだと教えられて来たのです」
…あれ?
今、ジェシカのお母さんの名前を呼び捨てにした?
聞き間違えたのかしら?
それよりも、ベイルさんの話を聞いていて私は不思議に思った。
院長先生はジェシカが亡くなった事を知っているはずなのにどうしてここの事を教えたのかしら?
…そう言えば…
他の先生が言っていたけれど、最近院長先生は時々会話が噛み合わない事があると言っていた。
日にちを間違えたり、さっき終わらせた事をまだやっていないと言ったりするとか。
きっと高齢のため認知症かアルツハイマーを患っているのかもしれないわ。
そうでなければ弁護士さんも私をジェシカだと勘違いしたりはしないだろう。
「私にお祖父様がいるのですか? 父も母もそんな事は話してくれなかったのでびっくりしました。私には駆け落ちをしてきたとしか言ってくれなかったので…」
両手で口を覆って少しオーバーに驚いてみせるとベイルさんは少し曖昧な笑顔を見せた。
「…まあ、そうでしょうね。ところでジェシカ様、あなたがよろしければこれからお祖父様の所へ行ってそちらで生活をしていただきたいと思うのですがよろしいですか?」
…やっぱりそう来るのね…
ジェシカのお祖父様がどれほどのお金持ちか興味があるし、直接お祖父様にジェシカの恨み言をぶつけてやりたいものね。
ここは大人しく付いて行ってあげましょうか。
「私もぜひお祖父様に会ってみたいです。連れて行ってもらえますか?」
ウルウルと目を潤ませてみせればベイルさんはうんうんと頷いた。
「それでは参りますか。とりあえず必要な物だけをお持ちください。残りの荷物は他の者に運ばせます」
私は手早く荷物をまとめた。
わずかばかりのお金と着替えとジェシカの髪と骨が入った小さな小箱。
私は部屋でその小箱を抱きしめると小さな声で囁いた。
「ジェシカ、あなたのお祖父様に会いに行くわ。あなたの悔しい思いをお祖父様にぶつけてあげる」
小さな鞄に荷物をまとめると私はベイルさんの所へ戻った。
「お待たせしました」
ベイルさんは私が持っている荷物を見て少し目を見張ったが、すぐに何でもない顔に戻った。
「それでは行きましょうか」
部屋を出てアパートの外に出るとそこには立派な馬車が待っていた。
…まさか、これに乗って行くの?
私とベイルさんが馬車に近付くと御者が馬車の扉を開けてくれた。
ベイルさんが乗り込むと御者が私に向かって手を差し出してきた。
咄嗟の事でどうしていいのか躊躇っていると御者は私に向かってニコリと微笑んだ。
「どうぞこの手にお掴まりください」
どうやら私が馬車に乗るのに補助をしてくれるようだ。
…まるでお姫様になった気分だわ…
私はその手に掴まって馬車の中へと入ったのだが、そこでも驚きのあまり目を見張った。
外装も豪華な造りだったが、内装も相当お金がかかっているものだった。
こんな綺麗な馬車をこんな薄汚れた服で乗ってもいいのかしら。
恐る恐る腰を下ろしたが、その座面の柔らかさにまたもやびっくりさせられた。
前世でもこんな座り心地のいいソファーなんて座った事がないわ。
よく馬車に揺られるとお尻が痛いって聞くけれど、この馬車ならそんな事にはならないわね。
私が座ったのを確認するとベイルさんは御者に馬車を出すように伝えた。
ゆっくりと馬車が走り出して、馬の蹄の音が聞こえてくる。
歩くより少し高い位置から見下ろす町並みは、いつもと違って見える。
馬車は王都の外れから中心地へと向かって走り出した。
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