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ジェシカが息を引き取った後、しばらくはその手を握ったまま私は動けなかった。
…本当に一人きりになってしまった…
先程まで温かかったジェシカの手は徐々に冷たくなっていった。
私はジェシカの手をそっと布団の中に入れると立ち上がって部屋を出た。
ジェシカの葬儀をしなければいけないけれど、どういう手続きをすればいいのかわからない。
私は孤児院に向かうと院長先生を訪ねた。
「あら、フェリシア、一人なの? ジェシカはどうしたの?」
優しく笑いかけてくれる院長先生に縋り付くと私は声を上げて泣き出した。
「院長先生、ジェシカが!」
それだけで院長先生は何があったのかを察してくれた。
院長先生の手配でジェシカのお葬式を孤児院で執り行い、孤児院のみんなでジェシカにお別れをした。
孤児院を出て半年も経たないうちに亡くなってしまったジェシカに皆は悲しみの声を上げる。
お葬式の後、ジェシカの身体は荼毘に付され孤児院の奥にあるお墓へと埋葬された。
今、私の手の中にある小箱には切り取ったジェシカの髪と小さな骨が入れられている。
葬儀を終えて一人部屋に戻った私は、ガランとした部屋の中でその小箱を抱きしめて泣いた。
「ジェシカ! ジェシカ!」
初めて出会った日から今日までの思い出が走馬燈のように頭の中を駆け巡る。
これからもずっと一緒に生きていけると思っていたのに、その輝かしい未来は突然に閉ざされてしまった。
ジェシカが亡くなってぼんやりと過ごしていたが、いつまでもこんな事はしていられなかった。
働かなければ生きては行けない。
私は気を取り直してまた仕事に出かけた。
仕事をして身体を動かしていれば何も考えずに済んだからだ。
だけど、仕事を終えて部屋に戻ると一気に寂しさが押し寄せてくる。
帰って来ても誰も出迎えてくれる人のいない部屋。
一人になったからいつまでもこの広い部屋に住んでいるわけにはいかなかった。
ジェシカが亡くなって二週間が経った頃、引っ越しの為に部屋を片付けていると、扉を叩く音がした。
扉を開けようとしてここが貧民街である事を思い出した。
むやみに扉を開けて襲われないとも限らない。
前世みたいにチェーンがあったら扉を全開にしなくても確認出来るのにね。
だが、そんな事を思いついてもそれを商品化するすべも販売する手腕も持っていない。
私は一つため息をつくと誰が訪ねて来たのかを確かめるべく声をかけた。
「どちら様?」
扉を開けずに問うと聞き慣れない男の人の声が返ってきた。
「弁護士のベイルと申します。ジェシカ・オーデンさんのお部屋はこちらですか?」
…弁護士?
そんな立場の人物がこんな貧民街を訪ねて来るなんてにわかには信じられなかったが、恐る恐る扉を開けた。
扉を開けた先には身なりの立派な紳士がにこやかな笑顔で立っている。
顔を出した私を目にしたベイルさんは、目を瞬いたのち、破顔した。
「おお、あなたがジェシカ様ですね。ダグラス様に良く似ていらっしゃる。お迎えに参りました。あなたのお祖父様がお待ちですよ」
ダグラス様?
ジェシカの父親の名前? それともお祖父様の名前かしら?
ベイルさんの言葉を聞きながら、私はあの日ジェシカから聞いた話を思い出していた。
『フェリシア、聞いて。私にはお金持ちのお祖父様がいるらしいの。私の両親は結婚を反対されて駆け落ちしたんですって。だけど段々と貧しくなってお祖父様に援助を求める為にあの日、王都に向かう馬車に乗っていたの』
だが、馬車が盗賊に襲われ、両親はジェシカを庇って殺されてしまったそうだ。
一人生き残ったジェシカだったが、王都の何処に向かうのかは聞かされていなかった。
それで私がいる孤児院へと送られてきたのだった。
『私は今更お祖父様に会いたいとは思わないわ。だけどもし私を捜して訪ねて来たらこう言ってやるの。“もっと早く私達を捜してくれたらお父さん達が死ぬ事はなかったのに”ってね』
だけどジェシカはもういない。
だったら私がジェシカの代わりにお祖父様に恨み言を言ってやるわ。
そう決意した私は勘違いしているベイルさんを正す事もなく、ジェシカのふりをする事にした。
…本当に一人きりになってしまった…
先程まで温かかったジェシカの手は徐々に冷たくなっていった。
私はジェシカの手をそっと布団の中に入れると立ち上がって部屋を出た。
ジェシカの葬儀をしなければいけないけれど、どういう手続きをすればいいのかわからない。
私は孤児院に向かうと院長先生を訪ねた。
「あら、フェリシア、一人なの? ジェシカはどうしたの?」
優しく笑いかけてくれる院長先生に縋り付くと私は声を上げて泣き出した。
「院長先生、ジェシカが!」
それだけで院長先生は何があったのかを察してくれた。
院長先生の手配でジェシカのお葬式を孤児院で執り行い、孤児院のみんなでジェシカにお別れをした。
孤児院を出て半年も経たないうちに亡くなってしまったジェシカに皆は悲しみの声を上げる。
お葬式の後、ジェシカの身体は荼毘に付され孤児院の奥にあるお墓へと埋葬された。
今、私の手の中にある小箱には切り取ったジェシカの髪と小さな骨が入れられている。
葬儀を終えて一人部屋に戻った私は、ガランとした部屋の中でその小箱を抱きしめて泣いた。
「ジェシカ! ジェシカ!」
初めて出会った日から今日までの思い出が走馬燈のように頭の中を駆け巡る。
これからもずっと一緒に生きていけると思っていたのに、その輝かしい未来は突然に閉ざされてしまった。
ジェシカが亡くなってぼんやりと過ごしていたが、いつまでもこんな事はしていられなかった。
働かなければ生きては行けない。
私は気を取り直してまた仕事に出かけた。
仕事をして身体を動かしていれば何も考えずに済んだからだ。
だけど、仕事を終えて部屋に戻ると一気に寂しさが押し寄せてくる。
帰って来ても誰も出迎えてくれる人のいない部屋。
一人になったからいつまでもこの広い部屋に住んでいるわけにはいかなかった。
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扉を開けようとしてここが貧民街である事を思い出した。
むやみに扉を開けて襲われないとも限らない。
前世みたいにチェーンがあったら扉を全開にしなくても確認出来るのにね。
だが、そんな事を思いついてもそれを商品化するすべも販売する手腕も持っていない。
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「どちら様?」
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「弁護士のベイルと申します。ジェシカ・オーデンさんのお部屋はこちらですか?」
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扉を開けた先には身なりの立派な紳士がにこやかな笑顔で立っている。
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「おお、あなたがジェシカ様ですね。ダグラス様に良く似ていらっしゃる。お迎えに参りました。あなたのお祖父様がお待ちですよ」
ダグラス様?
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ベイルさんの言葉を聞きながら、私はあの日ジェシカから聞いた話を思い出していた。
『フェリシア、聞いて。私にはお金持ちのお祖父様がいるらしいの。私の両親は結婚を反対されて駆け落ちしたんですって。だけど段々と貧しくなってお祖父様に援助を求める為にあの日、王都に向かう馬車に乗っていたの』
だが、馬車が盗賊に襲われ、両親はジェシカを庇って殺されてしまったそうだ。
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『私は今更お祖父様に会いたいとは思わないわ。だけどもし私を捜して訪ねて来たらこう言ってやるの。“もっと早く私達を捜してくれたらお父さん達が死ぬ事はなかったのに”ってね』
だけどジェシカはもういない。
だったら私がジェシカの代わりにお祖父様に恨み言を言ってやるわ。
そう決意した私は勘違いしているベイルさんを正す事もなく、ジェシカのふりをする事にした。
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