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教室のドアをノックして開けると、ニコル先生だけがいた。
先生が此方を振り向いて俺と分かると珍しく焦り出し、すぐにドアの方に駆けつけてくれた。

「エネ、よく来てくれたね!昨日はすまなっ!!えっメ、メガネが!メ、メガネをかけてるの?!」

「ニコル先生……あ、そうなんです。このメガネは度が入っていないんですけど、遮光機能があって眩しく無いです。それにメガネをかけると自分じゃない自分に少し変われるような気持ちにもなります。何か変な所はありますか?」

「ううん!!とても……とても良く似合っているよ!!」

「ははは……褒めて下さってありがとう御座います。今日はニコル先生に昨日の事で謝りたくて伺ったんです。昨日は先生のご家族の方に嫌われてしまって、食事の途中で退席してしまいすみませんでした……」

「エネが謝る必要はないよ……その事なんだが先にどうしてあんな事になったのか、私の方からエネに説明させて欲しいんだ。どうか……座って欲しい」

先生に促されて席に着いた。先生も俺と向かい合うような位置に椅子を移動させて席に着く。

「先ずエネに私の家族が非礼をした事を謝りたい。本当に昨日は申し訳なかった……許して欲しい」

「ニコル先生……俺は別に先生のご家族にも、ニコル先生にも怒っていません。ただ俺が先生に甘え過ぎていたんだろうなと反省しています」

「エネ……甘えて貰って良かったんだよ。エネは何も間違っていないからね。私がエネに沢山高価なプレゼントを送っていると私の家族が大きな誤解をしていたんだ。昨日は家族にしっかりと説明したし誤解が解けたから心配しないで欲しい。家族も君に謝りたいと言っていたよ」

先生は穏やかな表情で昨日の家族との出来事を詳しく話してくれた。俺も何故あんなに先生のご家族の態度が俺に厳しいのか知れて良かったが、初対面で早々嫌われたイメージが強烈すぎて……後から誤解だったと言う事で払拭するのは今の俺には難しかった。

「私が先生に沢山のパンを頂いたのは事実ですし、シュワルツ様から「貰ったよね?」と聞かれてすぐに思い出せなかったのも事実です……その上図々しく先生のお宅にお邪魔し先生のご家族と食事をしてしまいました」

「エネ!!……私の家族はね、沢山プレゼントしたのがパンだとは知らなかったんだよ。もっと高価な贈り物をしているんだろうと疑っていてね、勝手に俺が騙されているんじゃないかと思っていたんだ。昨日はその事で家族にはしっかり説明しておいたから……エネは何も悪く無かったし家族にはキツく言っておいたよ。昨日のエネの服はとっても似合っていたよ。それと、エネのプレゼント……とても嬉しかった!!」

そう言ったニコル先生はポケットから透明の袋に入ったハンカチを取り出して俺に見せた。

「これは……俺が昨日お渡ししたハンカチ……」

「そうなんだ!まだ勿体無くて使えなくてね、愛でる為にこうして袋に入れてポケットにしまってあるよ」

先生は俺の様子を伺うように話しながらもニコっと笑ってくれた。先生は本当に優しい。優しいからこそ、俺は甘えてはいけなかったんだと思う。その線引きが今迄の俺には分からなかった。

「先生、喜んでくれて良かったです。昨日は俺も先生の期待に少しは応えられたと思って嬉しく思いました。
でも、先生は優しすぎて俺はつい甘えたくなってしまったかも知れません。これからは先生の優しさに付け入る事が無いように頑張りますね。昨日はそう言った意味でとても勉強になりました」

「エネ、甘えてくれて良いんだよ!!昨日の私の家族がおかしかったんだ!家族には昨日誤解を解いて謝罪を受けている。エネにも謝罪したいと言っていたが、エネが嫌なら一生会わなくても良いようにするから」

先生がすがるような目で俺を見ている。先生はどんな状況でも綺麗だなあぁと話とは全く関係ない事を考えてしまった。それにしてもサラっと俺が嫌なら家族と一生会わない状況にするって……先生と家族の関係も俺のせいでおかしくなってしまいそうだ。

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