【完結】幼馴染みが今日もうるさい

うらひと

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勉強を続けてとうとう薬剤師試験に臨んだ。

回答欄は全部埋めるには埋めたが、答えが合っているかは正直自信はない。
薬剤師試験の合格率は約50%が例年の平均で去年はこの学園から8人受けて5人が合格だったから薬剤師の豊作の年と言われていたらしい。

合否は後日学園に直接届くようになっており、今日はその結果を聞く為に学習室に集まる事になっていた。
この学習室も試験迄は毎日来ていたのに、試験後は1度も訪れていなかった。
試験から2週間しか経っていないのに、何だか教室の机とか匂いとか懐かしく感じる。


俺が教室に到着した時にはモニカとミーシャとトーイは既にいて、ニコル先生を待つばかりだった。
心なしか皆顔が青白い気がする。

緊張していたが先生が中々来ないので、モニカがミーシャにいつかの恋バナの続きを話しかけた。

「ミーシャ、前に言ってたわよね?今日合格したら、騎士団候補生のリーアスに告白するって。今日するの?」

「そのつもりよ。でも…正直全く自信がないわ…モニカは試験の手応えはあった?」

「そうね、はっきりと手応えがあったとは言えないけれど、私は去年不合格だったから背水の陣のつもりでこれ以上ない程勉強したわ……だからこれで落ちたらもう諦めようと思うの」

モニカとミーシャが話ている途中でトーイも会話に混じる。

「僕もモニカと同じだよ。モニカともう1人の3人で落ちちゃって、しかも去年は薬剤師の豊作の年とか言われてたから余計精神的に辛くてさ……僕の家族は僕に気を使って恐いくらい優しくなるし……その優しさが逆に辛かったよ。
だから今年は何が何でも受かっていて欲しい」

そうか……モニカとトーイが去年落ちたのは知っていたけど、2人とも今年は相当強い気持ちで挑んだんだ。

去年不合格だったもう1人は更に1年間勉強を続ける事に耐えられず、結局薬剤師の道を諦めたとモニカが言っていた。

でも気持ちだけなら俺だって負けない。俺だって一生懸命勉強したんだ。
試験は難しいが薬剤師になれば、どの街に行っても雇って貰えるし、自分でお店を開く事もできる。

それだけ需要が高い資格なのだ。
俺は騎士のようなエリートになる才能は無かったけれど、安定した職について母さんを安心させてやりたい。

「みんな!!待たせちゃってごめんね~」

やっとニコル先生がやってきたので、お喋りしていた会話が一瞬でシーンとなる。
そりゃそうだよね。この結果次第で自分達の今後が決まるのだから……。

「はははっそんなに緊張しなくても~と言いたいところだけど、緊張するよね。実は合否を伝える私も緊張してしまうんだよ……今年の合格者は3名だ!!」


『!!!!』

3名と聞いて、何も食べていないのに何か飲み込んだ。
ここの教室にいる4人中3人が合格という事は1人だけ不合格なのか……
緊張で手から汗が出てきたのでズボンに手の平を擦り付けてやり過ごす。

「じゃあ、合格者を発表するので呼ばれたら合格証書をとりに前に来てね。
1人目の合格者は……モニカ!」

呼ばれた途端モニカは顔を両手で覆い、震えていた。
みんながモニカにおめでとうと言うと、顔を両手で覆ったまま何度も頷いて、フラフラしながら先生から合格証書を貰っていた。

「2人目の合格者は……トーイ!」

トーイは呼ばれた途端大きな息を「フーーー」とはいた。そして緊張から解き離れたような笑顔になり合格証書を受け取りながら小さなガッツポーズをしていた。

小さいガッツポーズはまだ名前を呼ばれていない俺とミーシャへの配慮だろう。
後は俺かミーシャのどちらかしか先生から呼ばれず、どちらかが落ちているのだから。
トーイにもおめでとうと言ったが、もう自分の合否がチラついて、気が気じゃない。


「最後の合格者は………エネ!」


「!!!」

「うわあああーーっん!!」


やったーー!!
俺合格したんだ。それと同時にミーシャが不合格という事が決まった…名前が呼ばれなかったミーシャは顔を机に突っ伏して大きな声をあげて泣いた。
一緒に勉強してきた仲間だから気持ちが痛いほど伝わって辛い。

モニカとトーイは小さな声でおめでとうと言ってくれたので俺も小さな声でありがとうと返事をした。

先生に合格証書を貰い、先生にも小さく「有難うございました」と言うと大きく頷いてくれた。


それから先生は
「今回の合格者はおめでとう。ミーシャ……今回は残念だったね。今後の進路について相談に乗るからミーシャはこのまま教室に残ってね。合格者は改めて連絡するから今日は解散だよ」
と言って、合格者を返した。

その時モニカが
「先生……私も先生とミーシャが良ければ、ミーシャと教室に残っても良いでしょうか?私は去年試験に落ちたから……モニカの気持ちが痛い程分かるわ。何か良いアドバイスもできるかも知れないし……」

と提案してくれたのを聞いてモニカは更に泣き出してしまった。

「うう……モニカぁー…うっうっ…ありがとう…先生、モニカと一緒に教室に残りたいです」

「そうか。じゃあモニカにも残って貰って、トーイとエネはホッとしただろうから、今日はゆっくり休んでね。2人共本当におめでとう」

「ありがとうごさいました。先生、モニカ、ミーシャさようなら」
「さようなら」

とトーイと2人で部屋から退出した。
2人共合格した喜びを分かち合える人が居なかったので、これから一緒にご飯を食べに行こうとなった。

俺は恥ずかしながら、自分のお小遣いに余裕がない事を伝えると、トーイは「大丈夫だよ」と言って、アットホームなレストランに連れていってくれた。
ここはトーイの知り合いの老夫婦が営んでいて、トーイの事を「坊っちゃん」と呼んでいる。

トーイは老夫婦に何かを言うと、老夫婦が驚いた表情で
「それはめでたい!!坊っちゃんとお友達の方!薬剤師の合格ようございました!!今日は全メニューを無料ににさせて頂きますよ!」
とサービスしてくれた。えっ!?無料!!

トーイって凄い!

「坊っちゃん」とか言われているけど何者なんだろうか?
今まで必死で勉強してきて、一緒の勉強仲間がどんな人物なのか何て考えた事もなかった。

メニュー表を見ても何を頼んだら良いのか迷っていたら、トーイが「食べれない物がなければ、ここのお勧めを適当に頼んであげようか?」と言うので、何度も頷いてお願いした。

出てきた料理はどれも美味しいくて感動してしまった。つい勢いよく食べてしまい、ドン引きされただろうか……とトーイを見ると、俺の食べる様子を嬉しそうに見ていたのでちょっとホッとする。

「トーイって凄いんだね!坊っちゃんとか言われてもしかして貴族だった?俺君の事何も知らなくて今まで普通に話していたけれど、失礼な事だったら今までごめんね」

「はははっエネ!僕は貴族なんかじゃないから安心してね。だから今まで通りの普通に接して欲しい。俺の家はね、薬局を何店舗か経営しているんだ。1つ星が目印のワンスター薬局って名前知ってる?」

「ワンスター?勿論知ってるどころか、よく買いに行くよ。あそこのポーションと虫刺されの軟膏は凄く効き目があって好きなんだ。えっ?ワンスター……もしかしてトーイの苗字って…確か…」

「そうっ僕の名前はトーイ・ワンスターだよ。皆、僕の家族がワンスター薬局を経営してるって当然知ってると思っていたから改めて自分の自己紹介するのはちょっと照れるね。うちは家族全員が薬剤師の資格を持っていて、僕は今年の試験に落ちても合格するまで勉強させられる運命だったから、今回合格できて本当に嬉しいよ」

ワンスター薬局って王都だけて20店舗以上ある大きな薬局じゃないか……トーイは貴族じゃないけど、半端な貴族よりよっぽど力がある家の人だ。
俺みたいな田舎者の貧乏学生と一緒にご飯を食べるような人じゃなかったけど、今日くらいは良いのかな…

「本当に俺なんかと一緒にご飯なんてトーイは良かった?俺、生活費を切り詰めているような貧乏学生なんだよ」

「エネ!!そんな事ないよ。試験までは勉強の邪魔にならないようにお互い頑張って、ミーシャの告白じゃないけど、僕も合格したらエネともっと仲良くしようと思って勉強を頑張ってきたんだよ。
念願かなって合格して、こうしてご飯を一緒にできてとても嬉しいんだ。
だからエネもいつも通りのエネでいてくれない?」

トーイはお坊ちゃんなのに顔を真っ赤にさせて言うので、一生懸命なトーイに俺も嬉しくなる。

「トーイありがとう。今まで知らなくてごめんね。此方こそ仲良くしてください」


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