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初老の男性side
1誘拐事件
しおりを挟む初老の男性であるウェイは王であるジンの側近の1人だった頃、1人の準王族が行方不明になった。
事の発端は王の信頼する臣下に嫁いだ王の溺愛する妹のイーランが宮廷で里帰り出産する事になった事からである。
王のジンの父はこの国の前王で身体も大きく、黒髪、黒の瞳のこの国を代表するような美丈夫だった。そして母は隣国の王女でこの国には馴染みのない輝く金の髪にエメラルドの瞳の極上の宝石が動いている女神の様なお姿の方だった。
その姿に前王は一目惚れをして何度も何度も求婚し、貢物を隣国に捧げ続けてようやく手に入れた正妃様だった為、大変溺愛しておられた。
その正妃様は順調に長男であるジンと長女であるイーランを産み落とす。
長男のジンは姿、顔立ちは父に似たが、瞳だけは母と同じでエメラルドだった事が本人はとても自慢に思っていた。
その一方で妹は姿や顔立ちは母によく似ており、髪は金色だったか瞳は茶色だった。
父も母もジンとイーランをとても可愛いがっていた。
ジンとイーランは血の繋がった兄妹なのに余り
似ては居なかったが、2人ともとても美しい兄妹として有名で、特にジンの方は妹のイーランを溺愛していた。
とても仲が良かった王族の家族だったが、母はイーランを産んでからは産後の経過が思わしくなく床に伏せがちになり、とうとうイーランが5歳になったばかりの頃に亡くなってしまった。
溺愛していた正妃をなくしてしまったジンの父は憔悴してしまい、あれだけ美丈夫だった身体もやせ細り、間も無く後を追うように亡くなってしまった。
そのまま王太子だったジンは父の後を継いで王になり、両親を無くしてからは執着に近い程、妹を溺愛していった。
母の姿に似た美しいイーランは兄にとってとても自慢で、イーランが結婚するまではよくお2人でお忍びで出歩いたりしたものだ。
しかし妹のイーランはジンの臣下の1人と恋仲になり、自分と幼馴染みの臣下との恋仲には嫉妬もしつつもジンは妹の幸せを願って降嫁を許した。
それから穏やかな日々が過ぎて、妹にとうとう子供が生まれる事になり、ジンは自分の臣下である夫を差し置いて、妹を宮廷に呼び寄せ里帰り出産をさせるという横暴をしたのだ。
妹の夫は臣下の為ジン本人には何も言えず、妹のイーランもジンの横暴には呆れたが、宮廷で出産した方が安全だと押し切られて里帰りをした訳である。
イーランは素晴らしく可愛らしい赤ん坊を出産した。
髪の色は金色に輝き、瞳はエメラルドだったのだ。まるで亡くなった母の生き写しのようなお姿に、特に兄であるジンは「自分の瞳の色と同じだ」と叫んで自分の子供が産まれたかの様に大喜びだった。
しかし、それから思わぬ出来事が立て続けに起こった。
イーランが子供を出産した直後に容体が急変して医師やらお付きの官女の動きが慌ただしくなり、ジンも妹の事が心配で気が気じゃなくなっていた。
皆が妹の容態の急変で気を取られている時にイーランの赤ん坊が盗まれたのだ。
その事が分かったのが、妹が亡くなって暫く経ってからだった。イーランの呼吸がなくなってからもまた息を吹き返さないかと宮廷医師を総動員して蘇生をしていたが、残念ながら生き返る事はなかった。
部屋が悲しみで包まれて暫く経った時、ジンが産まれた赤ん坊を亡くなった妹の傍に居させてやろうと呼び寄せたが、慌てて来たのは顔が青くなった側近の夫と夫の臣下だけで赤ん坊は居なくなっていたのだ。
誘拐された事が分かってから王はすぐ手を打った。
そもそも宮殿にはジンが信頼する幾つかの家の者と臣下しかいないし、特にイーランの出産時には王家と、信頼する側近の2人の家の一族の者達しかいなかったのだ。
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