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奴隷で人気のない男娼
2恐怖を擦り込まれる
しおりを挟む「おい、やっぱり10番のやつは性病を持ってやがったぞ」
部屋の外から閨の教育係の2人が話しているのが聞こえる。
その1人が吐き捨てるようにそう呟いた。
「やっぱりなあー最後にあいつとやったお客さんが怒鳴り込んで来たもんな!!ここであいつを買ったらちんちんが腫れたって」
「あいつをここの娼館に勧誘したのはお前だろう?責任取れよ!!」
「そんな事言うなよー。まさか病気持ちなんてここに来る時は分からなかったし、お前だって賛成してたじゃないか!!」
最近よく10番の部屋を与えられる男娼は少し前まで2番か3番の部屋を与えられていた人気の男娼だった。他の店から高待遇でここの娼館にやって来たと楽しそうにしていた事を思い出す。
教育係の2人が口論しながらも10番の部屋に入って行く。
部屋のドアは開けっぱなしにされていたから2人の声が筒抜けになって聞こえてきた。
「お前はもう用済みだ。良かったな!!店から出られるぞ!!ハッハッハッ!!」
そう聞こえて教育係が10番の部屋から男娼を放り出した。
男娼同士は話した事はなかったけれど、どんな姿の男娼なのかは毎日自分の部屋から廊下が見えるし、声も聞こえるのでよく知っていた。
長くて艶やかな黒髪の愛嬌のある男娼だった。
しかし、今のその男娼は肌もあざ黒く、目は窪み、髪が抜け落ちていていて少し前の姿とは比べ物のならない程似ても似つかない姿に驚愕する。
高待遇でこの娼館に来たのに、教育係は自分達が気に食わなかったりすると、経営者である小太りのご主人様には気づかれないように男娼に対して意地悪をする事があるのでこの2人には逆らってはいけない。
だけど、この男娼は他店から来て間もない頃に反抗的な態度をしている事があった。
もしかしてそれで教育係は医者に診せなかったんだろうか。
今からでも医者に診せたら助かるかもしれないのに、あの姿のままこの店から放り出されたら死ぬしかないじゃないか。
そのまま10番の部屋から放り出されて倒れた男娼の姿を教育係は隠そうともせずに廊下で晒し者にしていた。
部屋の中にいる男娼達にわざと見せつけて恐怖を植え付けているのだ。
教育係には逆らってはいけない。
それを見て教育係の思惑通りになってしまうのが嫌だったのに、恐怖は確実に自分の心の奥底に沈み込んでいく。
そしてそれでも死にたくないと何とかここで生にしがみついて一生懸命働くしかなかった。
それにいつか健康のままこの店から出られても、その後はどうやって生きていけばいいのかもう俺には分からない。
この店に来てからの俺は店の外には出た事はなかった。
男娼の中にはお客様と一緒に外に行って何かを買って貰ったり、食べ物を食べたりしている様だ。お客様も美しい男娼と一緒に出歩く事は一種のステータスにもなっているようだった。
俺はやはりこの珍しい髪色と瞳の色は気持ちが悪いとよく言われた。
お客様から誘われた事はないし、奴隷だからお金も持っていない。
教育係も最初こそ俺の見た目の物珍しさから人気が出るかもと思っていたが、目論みが外れたと残念そうに話しているのを何度も聞いた事がある。
この娼館から出る方法は……身請けのお金を支払ってくれる他の娼館のご主人様から勧誘してくる場合か、それこそ愛妾として愛したいというお客様がいる場合だ。
後はどうしようもない病気か死んだ時。
ただ身請けされたって戻ってくる場合もあったり、そのまま何処かに売り飛ばされたりする事も良くあると聞いた。
結局、ここにいても、外に出る事になったとしてもずっと楽しい事なんてないのだ。
俺はなんで生きているんだろうな。
楽しかった思い出を思い出す……あんまりないけど、料理屋の奥さんから頼まれた子守りで俺に向けてくれた赤ん坊の無邪気な笑顔と、たまに買った飴玉を口の中い入れた時、口いっぱいに広がる甘さに幸せを感じた事を思い出した。
できるなら誰か俺に笑顔を向けて欲しい。
俺に温もりを分けて欲しい。
誰か……少しでもいいから。
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