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孤児
1醜い孤児
しおりを挟む「おーいタダ!!ヒック……ちょっとお酒を買って来てくれねえかーヒック……」
「ねえファン爺ちゃん、そんなに朝から飲んでたら身体壊しちゃうよ」
「お前、俺に口答えするのかー?ちゃんと小遣い渡せば買って来るんだろう?早く行け!!」
「う、うん分かったよ……ったくしょーがないなあ」
ファン爺ちゃんからお酒の代金と少しの小遣いを投げつけられ、それを拾ってから酒屋に買いに行く。
俺はタダ。いつも自分の事を俺と言っているけどれっきとした孤児の男だ。
働きたくてもまだ一人前の大きさになっていない9か10歳位の男の子供というのが俺の世間での認識。
実際には自分の歳なんか知らない。だって孤児だから。
俺の父と母はどんな人かよく分からない。気がついたら小さな町角に捨てられたらしいが、それも本当の事なのかも今では分からない。
孤児というのは世の中では最弱の立場だ。
そういう子供達は珍しくもなく、性別が女性であると特に犯罪に巻き込まれやすいし、よく攫われる事も頻繁に起こる事だ。
しかし突然人攫いにあったとしても誰も気にかけてくれやしない。
きっと何処か優しい人に貰われて良かったねえ位にしか思われないから誘拐も沢山ある。
小さい男の子も誘拐や性犯罪の被害者になる事もあるが、やはり女性というだけで犯罪に巻き込まれる可能性は格段に高くなるのだ。
俺は男だけど女顔らしくてよく女に間違われるから……なるべく話方や態度を男に見せるようにしている。
俺は酒屋に行ってファン爺ちゃんのお酒を買ってから近くの駄菓子屋に寄って、貰ったお小遣いの一部を何個か飴玉に変える。
「タダ、お前はいつ見ても醜い髪の色と目をしているのう」
「!!……だからなんだよっ」
駄菓子屋さんの婆さんが俺の顔と髪を見て残念そうに言うので、俺はムスッとしてしまった。
この世の中は真っ黒で艶やかで沢山ある黒髪と言うのが大変美しいと言われている。瞳もそうだ。真っ黒で黒真珠の様な瞳は素晴らしい。
それに比べて俺は色素が誰よりも薄い。
髪は茶色く、日に当たるともっと薄くなる。肌の色も白くて身体は痩せている。
目も何故か翡翠みたいな色をしていた。翡翠の色だからって素晴らしくも綺麗とも言われた事はない。
それどころか気味悪がられたり、死んだおばあさんが死ぬ前に目が見えなくなって同じ色の瞳になったとかで心配される事のほうが多く、「その目は病気か?見えているのか?」とよく聞かれていた。
医者みたいなお金のかかる所には見せた事はなかったから、病気かもしれないけれど取り敢えず普通には見えているし何処も痛くないからそのままにしている。
俺がもっと小さい時は物乞いの様な事をして生きてきた。
そのまま拾って俺を育ててくれる優しい人もいなかったけれど、町の人達が店の残り物や余った野菜をくれたり、頼まれれば子守りもしたりしていたので町の人もそれなりに邪魔者扱いされずこの村で何となく育てられた。
そして、少し大きくなると町の人達から「タダ」と呼ばれるようになった。
「タダ」というのは無料という意味があるらしい。
タダで何かを貰って、簡単な頼み事ならタダでやってくれるからだって。
そうして少しずつ大きくなってきた時、日が暮れて薄暗くなると、いつも子守りを頼まれる料理屋のご主人から「タダ、美味しいご飯をあげるからこっちにおいで」と呼ばれた。
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