【完結】王子様の婚約者になった僕の話

うらひと

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本編10

111僕の弟

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   僕が結婚してから数年後、侯爵家の侯爵代理としてバタバタしていたアンジュが久しぶりに王宮に遊びに来てくれた。

「兄上~相変わらず涼しくて良い場所ですよね、ここ。この中庭って何だか昔を思い出しますけどね」


「そうだね。あの時はこの中庭で3人でお茶会をしたよね。僕はエドワード王子もアンジュも泣いてしまって困っちゃったんだよ。途中でお茶会もお開きになるし。ふふっ思い出したらおかしくなってきたよ」


 アンジュはまだ学生の身でありながら貴族との交流もしっかりしており、若き侯爵家代理として世間の評価も上々だ。学校でも物凄くモテるみたい。それはそうだよね。仕事ができて今や大金持ちの次期侯爵が確約されてるし、本人の見た目もあざと可愛いとなればモテない訳がないか。


「ねぇねぇアンジュ兄たま、これ僕たべたいなあ。」


 さっきからずっとテーブルに乗っている色々なお菓子を物色していた小さな手が、とうとうその中の1つを選び指を差した。


「アンリエール、このビスケットが食べたいんだね!!どれ、お兄ちゃんがとってあげよう」

    アンジュはその小さな手では届かないお皿に乗っているビスケットを何枚か子皿に取り分けてあげている。

 この小さな手の子はアンリエール。何と父上と母上が僕達の年の離れた兄弟をもう1人産んだのだった。

   母上の妊娠が分かった時のアンジュは「僕に侯爵家の仕事を押し付けて自分達は楽しくやっていたなんて酷すぎる!!」とぷんぷん怒っていたけれど、生まれたアンリエールはそれはそれは可愛いくて、すぐにアンジュはデレデレになってしまった。


「アンジュってブラコンだよねぇ……」


「どうとでも言って下さいよ。将来はアンリエールを僕のパートナーに育て上げる事も考えているんですよ~冗談ですけど」


「あ……はははっ……」


    そんな冗談もアンジュが言うと半分本気なんじゃないかと思ってしまう自分は悪くないと思う。

 もしゃもしゃと美味しそうにお菓子を食べているアンリエールをニマニマしながら嬉しそうに眺めているアンジュ。たまに僕の方を向いてまたニマニマして……僕にアンリエールを自慢しに来たみたいだよねアンジュは……。


「アンドル兄たまは僕とかみのけと目のいろがいっちょですねぇ」

 アンリエールが口いっぱいにお菓子を入れたまま僕に話しかけてくれた。
    そうなんだ。
    アンリエールは僕と一緒で侯爵家伝統の髪の色と瞳の色をして生まれて来てくれた。

    呪いを解決したから……きっとアンがアンディに輪廻の流れの中で再会してもうこの姿で生まれても不幸にはならないわよと伝えてくれたんだと思う。


「そうだね。アンリエールは僕と髪の色と瞳の色が一緒でとても嬉しいよ」


「僕もアンドル兄たまといっちょでうれしいです」


 僕とアンリエールの2人でニコっと笑い合っていると、アンジュが除け者みたいになってむぅっと不貞腐れてしまうかと思ったけれど、僕達をみてもニマニマしっぱなしで「天使達の微笑み」と独り事を言っていた。

 うん……アンジュは自分の好きな者同士……僕とアンリエールの仲が良いのは嬉しいみたいだ。そしてブラコンだ。


「それにしても未だに信じられませんよ。まさか侯爵家の後ろ盾があったにしてもまさかねー、僕にとって生理的に無理な王子がこの国の国王になってしまうなんて世も末……ゲホンゲホンッ失礼……今でも世の中の不思議の1つですよ」



 アンジュの言うのも無理はない。僕の旦那様が国王だなんて。



「本当に……僕自身もそう思うんだ」


 
 だって第3王子だったんだもの。それにエドワード王子自身も全くこの国の国王になるつもりなんか微塵も無かったんだ。


「アンジュ……彼はずっと権力に固執していない人だったんだよ。だからその彼がまさか権力の中心なってしまうなんて……彼にとってそれで幸せになったんだろうかと未だに悩むんだ」


 それを考えると少し落ち込んでしまう。結局結婚した僕が強い影響力のある侯爵家出身だった事でエドワード王子の評価が更に高まってしまった。
 その頃丁度王太子争いをしていた第一王子と第二王子の側近、貴族達が不審な死を遂げてしまったりと不穏な空気が広がり、みんな疑心暗鬼になっていたんだと思う。
 中立を保っていたエドワード王子やその側近達も僕も身の危険を感じながら生活していた。

 しかしその問題は呆気なく解決してしまう。

 何と侯爵家が完済したお金を取り戻さんと王家と何度も交渉した結果、その莫大な資金を元手に王家と侯爵家で新しい事業の共同開発をする事になった。
   そこで侯爵家は思い切って王太子争いでの中立を辞めて、中立を通していたエドワード王子の後ろ盾になると宣言した所、陛下直属の勢力も同調し、第一、第二王子の勢力からも次々と寝返り、あっという間にエドワード王子の勢力が拡大してしまい今に至る……。

 結局エドワード王子は2人の兄達とも仲が良いので、第一王子は第二王子が王太子になる事という最悪の結末にだけはなりたくなく、第二王子も第一王子が王太子になる事だけは阻止したい思惑から、トントン拍子にエドワード王子が王太子に決定してしまったんだ。

 王太子に決まってからは国王から引継ぎの毎日……最低でも一年を通して国王と王太子は一緒に行動する筈なのに、半年で国王は退位しエドワード王太子が新国王になってしまった。

 エドワード王子のお父様もずっと長い期間国王だったからようやく国王から退位できて、今では新国王の相談役をしながら毎日のんびりと趣味の読書と猫を飼い始めて暮らしている。

「はあ?あの新国王様が幸せじゃないかもしれないだって?兄上はバカですか?幸せに決まっているじゃないですか!!
 あいつは……失礼……あの方は権力には固執しませんけど唯一兄上だけには異常に固執していたんですから、今その固執していた物が手に入っているんだから国1番の幸せ者ですって。なあ~アンリエール!!お前もそう思うだろう?」


「???……んねぇ~アンジュ兄たま!!」


 急にアンジュから同意を求められたアンリエールは今の話を全く理解してないのにも関わらず条件反射でアンジュと意気投合している。


「もうっ可愛いアンリエールまで!!アンジュ、アンリエールに変な事を教えないでくれよ」


 そう言いつつも僕はアンジュには感謝していた。僕の悩みを聞いてくれて憎まれ口を買いながらも僕を安心させる言葉を選んで伝えてくれるから、僕にとって数少ない心許せる僕の大切な人だよ。

 アンリエールはお腹がいっぱいなのか今度は少しウトウトし始めてしまい、アンジュが抱っこしてあげている。

「アンリエールがもう眠いみたい。じゃあ兄上、この辺でお茶会もお開きにしますか」


「そうだね。馬車まで送っていくよ。アンジュも忙しい身なのに今日は王宮まで来てくれて有難う。会えて嬉しかったよ。また手紙を出すからね。」


 今度は僕がアンリエールを抱っこさせてもらって馬車までアンジュと一緒に行く。昔はこの道をアンジュと手を繋いで歩いた事もあったな。そんな事を思い出していたら直ぐ馬車まで来てしまった。


「僕も兄上に会えてとても嬉しかったですよ。また来ます。あっアンリエールもちゃんと連れて来ますよ。王宮でも小さいうちから顔を売っといて損はありませんから」


「ふふっアンジュらしいね。僕もアンリエールに会えるのを楽しみにしてるから…………じゃあ……またね」




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明日も投稿予定です。

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