111 / 124
本編10
110アンジュの想い
しおりを挟む「えっ?僕が逃げない様にってどういう事だ??」
「くっくっ…………今日は両親も居ませんし、僕達は2人っきりの夜ですね」
僕の質問に対してアンジュからの返事は無かったけれどアンジュは笑顔のままで僕をベッドに押し倒してきた。
「ちょっアンジュ、何をするんだ!!」
「…………」
アンジュは僕の両手首を掴んだまま、僕にキスをしようとしてくる……そうか。……アンジュはまだ僕を自分のパートナーにする事を諦めて無かったんだ。それで強引な行動を僕に取ろうとしているのか。
「駄目だアンジュ。そんな強引な方法では僕もアンジュも幸せにはなれない!!ちゃんと話し合おう!!」
「…………」
アンジュの唇が迫った時、咄嗟に顔を横向きに避けたのでアンジュの唇は僕の耳に当たった。それをハムっと甘噛みしてからペロッと舐めている。
そこで僕は諦めて決心した。
僕の手首もずっと強く握り全く離す様子がないのも確認して、僕は心の中でアンジュに怪我をするかもしれないからと謝っておく。
「フーッ」
そして一度息を吐いてから、アンジュの顔に頭突きを食らわせると一気に形勢逆転させてアンジュの両手を背中に回し脱臼寸前まで痛みを与えた。
「ギャアーー!!……い、痛い!!痛い!!兄上痛いよ!!」
「アンジュ甘いよ。昔僕とキスした時の事は覚えているかい?あの時はエディを抱き締めていたから手が離せなかったんだよ。でもあの時もアンジュじゃなければエディを逃してすぐ対処できたんだ。それでなくても僕はいつでも王子の盾になれる様に訓練して来たから」
「うえっ……うううえっ……うわぁぁぁーー」
逃げない様にしたまま両手の締めを和らげてあげると今度は大泣きしてしまったので逆に泣いた時の対処には困ってしまう。
…………考えた末に結局背中に回していた両手を離して、アンジュが落ち着くまで背中や頭を撫でてあげる事にした。
「兄上……御免なさい。僕は兄上の自由な意思と将来の幸せを望んでいた筈なのに僕が今やった事は兄上の意思を無視した行動でした……」
随分と長く泣いた後はアンジュはそれ以上騒ぐ事は無く暫く沈黙していたけれど……少し落ち着いたらしいアンジュは僕に謝って来た。
「うん、そうだね……。アンジュの行動はよく無かったと思うよ。だけどどうしてそんな行動をしたの?僕はアンジュからの話を聞きたいよ」
とにかく落ち着かせようとできるだけ優しく語りかけてみた。それがアンジュにも伝わったのかアンジュがポツポツと話始めてくれる。
「僕は本当に兄上が大好きでした」
それは何故かアンジュが小さい頃からの話で……僕と一緒にもっと遊びたかった事から始まり、昔話にも花が咲いてどうにも2人で笑ってしまったり、同じ出来事を覚えていても全然違う認識をしていた事に驚いたり、とにかく2人で溢れる程の話が尽きなくなってしまい長い時間話し込んでしまった。
こんなにアンジュとおしゃべりしたのは一度も無かったのかも知れない。
アンジュも小さかった頃から僕がどういう風に感じて生活していたかを知りたがったので覚えている事を思い出して話し始めると、興味深そうに聞いてくれて時折驚いたり、僕も寂しいと思った事があるし、アンジュともっと話したかった事を伝えるととても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
知っていたけどアンジュは本当に優しい子だった。兄の僕の事が心配でずっと守ろうとしてくれて大事に想っていた事は凄く伝わってきたよ。
「アンジュに心配ばかりかけていたなんて不甲斐ない兄でごめんね。でも心配いらないよ。僕自身も例え王子と結婚しなかった場合は騎士になろうと思っていたんだよ。こう見えて学校でも騎士団長の息子の次の次くらいには剣術の成績が良いんだよ。ふふっ」
「僕は兄上が幸せになれるなら……もう僕は良いんです。ただあの王子と一緒にいて兄上が本当に幸せになれるのか不安なんです。兄上は王子の何処に惹かれたのですか?」
僕とアンジュは多分会話が必要だったと思う。2人ともそれなりに大きくなってから気づくなんて、遅くなってしまったけれどそれでも今迄会話できなかった時間を取り戻すかの如く、お互いの言いたい事がようやく言い合えてとてもスッキリした。
そしてアンジュはもう僕をパートナにしようとは言わなくなった。だけど王子の事についてはまだ思う所があるみたいだ。
「う……ん僕も何がとは言えないけれど、王子は……僕が婚約者として決まってからずっと他の人にも目もくれず僕に真摯に接してくれていて……自分で言うのも少し気が引けるけど王子は多分……僕の事がずっと好きだったと思うんだ。その一途さに惹かれたのかな……」
「ええ……っと、ああ……ま、まぁそれは確かにそうでしょうけど……あれは何ていうか変態的なものが入っているっていうか……兄上に対して気持ち悪いって言うか……見かけは王子らしく振る舞うから一見分からないんでしょうけど……」
「えっ??」
王子が自分の事をずっと好きだったと確認もしないで言ってしまった自意識過剰な自分に恥ずかしくなり、ははっと自虐笑いをしてみたらアンジュは逆に死んだ魚の目みたいな濁った目になったのには僕には理解できなかった。
「あ、いえ……兄上、何でもないです。よく考えたらまあ一途ですね。執着心が強すぎる一途な王子ではありますし……婚約者として真面目に過ごし、世間に疎くなってしまった兄上とはある意味お互い裏切る事はしないでしょうしね……。お似合いと言ったらお似合いではありました。僕も応援しても良いですよ。その代わり……お願いがあります」
アンジュの口調がいつものアンジュに戻って来た。そしていつもみたいに誉めているだか、誉めていないんだか分からないような……でも結局誉めてくれている事を言ってくれてる。ふふっそんなアンジュが僕と嫌いな王子の応援までしてくれるのか。
「その代わりって何だい??」
ーー
こうして僕はアンジュにも僕と王子との仲を応援して貰える事になった。アンジュは応援する代わりに僕に頼み事をしたんだけど、それは僕が王宮に住む事になるまで毎日夜に2人でお喋りをする時間を作る事。
お喋りと言っても実際はお喋りだけじゃなくて、小さい頃に母上から貰った絵本を2人でもう一度読んだり、ボードゲームやカードゲームをしたりして楽しんでいる。
そう、僕達は小さい頃に兄弟で余り遊んで居なかったんだと思い知らされる事になってしまったんだ。
だけど遅ればせながら今その時間を思いがけなく取り戻す事ができてアンジュも凄く満足してくれたし、僕もアンジュには感謝している。
その後、正式に王家からの要請で僕は王宮に行く事になり、アンジュにはギャンギャン泣かれながら見送られてしまった。
でも次の日にはお泊まり道具を持って王宮へ遊びに来て、エドワード王子とアンジュのどちらが僕と一緒のベッドに寝るか口げんかする羽目になったけれど……。
それからの僕は……本当に目まぐるしく毎日が過ぎていった。
王宮で生活を始めた早々エドワード王子に夜這いされ深い仲になってしまい、それからは毎日一緒に寝る事になってしまったし、貴族学校卒業の次の日にはエドワード王子と結婚するという、はっきり言って父上が言っていた侯爵家の強い影響力を取り込みたいという王家の思惑に完全にはまってしまったのある。
ーーーーーーーー
明日も投稿予定です。
13
お気に入りに追加
715
あなたにおすすめの小説
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

俺の婚約者は悪役令息ですか?
SEKISUI
BL
結婚まで後1年
女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン
ウルフローレンをこよなく愛する婚約者
ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい
そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる