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本編10
110アンジュの想い
しおりを挟む「えっ?僕が逃げない様にってどういう事だ??」
「くっくっ…………今日は両親も居ませんし、僕達は2人っきりの夜ですね」
僕の質問に対してアンジュからの返事は無かったけれどアンジュは笑顔のままで僕をベッドに押し倒してきた。
「ちょっアンジュ、何をするんだ!!」
「…………」
アンジュは僕の両手首を掴んだまま、僕にキスをしようとしてくる……そうか。……アンジュはまだ僕を自分のパートナーにする事を諦めて無かったんだ。それで強引な行動を僕に取ろうとしているのか。
「駄目だアンジュ。そんな強引な方法では僕もアンジュも幸せにはなれない!!ちゃんと話し合おう!!」
「…………」
アンジュの唇が迫った時、咄嗟に顔を横向きに避けたのでアンジュの唇は僕の耳に当たった。それをハムっと甘噛みしてからペロッと舐めている。
そこで僕は諦めて決心した。
僕の手首もずっと強く握り全く離す様子がないのも確認して、僕は心の中でアンジュに怪我をするかもしれないからと謝っておく。
「フーッ」
そして一度息を吐いてから、アンジュの顔に頭突きを食らわせると一気に形勢逆転させてアンジュの両手を背中に回し脱臼寸前まで痛みを与えた。
「ギャアーー!!……い、痛い!!痛い!!兄上痛いよ!!」
「アンジュ甘いよ。昔僕とキスした時の事は覚えているかい?あの時はエディを抱き締めていたから手が離せなかったんだよ。でもあの時もアンジュじゃなければエディを逃してすぐ対処できたんだ。それでなくても僕はいつでも王子の盾になれる様に訓練して来たから」
「うえっ……うううえっ……うわぁぁぁーー」
逃げない様にしたまま両手の締めを和らげてあげると今度は大泣きしてしまったので逆に泣いた時の対処には困ってしまう。
…………考えた末に結局背中に回していた両手を離して、アンジュが落ち着くまで背中や頭を撫でてあげる事にした。
「兄上……御免なさい。僕は兄上の自由な意思と将来の幸せを望んでいた筈なのに僕が今やった事は兄上の意思を無視した行動でした……」
随分と長く泣いた後はアンジュはそれ以上騒ぐ事は無く暫く沈黙していたけれど……少し落ち着いたらしいアンジュは僕に謝って来た。
「うん、そうだね……。アンジュの行動はよく無かったと思うよ。だけどどうしてそんな行動をしたの?僕はアンジュからの話を聞きたいよ」
とにかく落ち着かせようとできるだけ優しく語りかけてみた。それがアンジュにも伝わったのかアンジュがポツポツと話始めてくれる。
「僕は本当に兄上が大好きでした」
それは何故かアンジュが小さい頃からの話で……僕と一緒にもっと遊びたかった事から始まり、昔話にも花が咲いてどうにも2人で笑ってしまったり、同じ出来事を覚えていても全然違う認識をしていた事に驚いたり、とにかく2人で溢れる程の話が尽きなくなってしまい長い時間話し込んでしまった。
こんなにアンジュとおしゃべりしたのは一度も無かったのかも知れない。
アンジュも小さかった頃から僕がどういう風に感じて生活していたかを知りたがったので覚えている事を思い出して話し始めると、興味深そうに聞いてくれて時折驚いたり、僕も寂しいと思った事があるし、アンジュともっと話したかった事を伝えるととても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
知っていたけどアンジュは本当に優しい子だった。兄の僕の事が心配でずっと守ろうとしてくれて大事に想っていた事は凄く伝わってきたよ。
「アンジュに心配ばかりかけていたなんて不甲斐ない兄でごめんね。でも心配いらないよ。僕自身も例え王子と結婚しなかった場合は騎士になろうと思っていたんだよ。こう見えて学校でも騎士団長の息子の次の次くらいには剣術の成績が良いんだよ。ふふっ」
「僕は兄上が幸せになれるなら……もう僕は良いんです。ただあの王子と一緒にいて兄上が本当に幸せになれるのか不安なんです。兄上は王子の何処に惹かれたのですか?」
僕とアンジュは多分会話が必要だったと思う。2人ともそれなりに大きくなってから気づくなんて、遅くなってしまったけれどそれでも今迄会話できなかった時間を取り戻すかの如く、お互いの言いたい事がようやく言い合えてとてもスッキリした。
そしてアンジュはもう僕をパートナにしようとは言わなくなった。だけど王子の事についてはまだ思う所があるみたいだ。
「う……ん僕も何がとは言えないけれど、王子は……僕が婚約者として決まってからずっと他の人にも目もくれず僕に真摯に接してくれていて……自分で言うのも少し気が引けるけど王子は多分……僕の事がずっと好きだったと思うんだ。その一途さに惹かれたのかな……」
「ええ……っと、ああ……ま、まぁそれは確かにそうでしょうけど……あれは何ていうか変態的なものが入っているっていうか……兄上に対して気持ち悪いって言うか……見かけは王子らしく振る舞うから一見分からないんでしょうけど……」
「えっ??」
王子が自分の事をずっと好きだったと確認もしないで言ってしまった自意識過剰な自分に恥ずかしくなり、ははっと自虐笑いをしてみたらアンジュは逆に死んだ魚の目みたいな濁った目になったのには僕には理解できなかった。
「あ、いえ……兄上、何でもないです。よく考えたらまあ一途ですね。執着心が強すぎる一途な王子ではありますし……婚約者として真面目に過ごし、世間に疎くなってしまった兄上とはある意味お互い裏切る事はしないでしょうしね……。お似合いと言ったらお似合いではありました。僕も応援しても良いですよ。その代わり……お願いがあります」
アンジュの口調がいつものアンジュに戻って来た。そしていつもみたいに誉めているだか、誉めていないんだか分からないような……でも結局誉めてくれている事を言ってくれてる。ふふっそんなアンジュが僕と嫌いな王子の応援までしてくれるのか。
「その代わりって何だい??」
ーー
こうして僕はアンジュにも僕と王子との仲を応援して貰える事になった。アンジュは応援する代わりに僕に頼み事をしたんだけど、それは僕が王宮に住む事になるまで毎日夜に2人でお喋りをする時間を作る事。
お喋りと言っても実際はお喋りだけじゃなくて、小さい頃に母上から貰った絵本を2人でもう一度読んだり、ボードゲームやカードゲームをしたりして楽しんでいる。
そう、僕達は小さい頃に兄弟で余り遊んで居なかったんだと思い知らされる事になってしまったんだ。
だけど遅ればせながら今その時間を思いがけなく取り戻す事ができてアンジュも凄く満足してくれたし、僕もアンジュには感謝している。
その後、正式に王家からの要請で僕は王宮に行く事になり、アンジュにはギャンギャン泣かれながら見送られてしまった。
でも次の日にはお泊まり道具を持って王宮へ遊びに来て、エドワード王子とアンジュのどちらが僕と一緒のベッドに寝るか口げんかする羽目になったけれど……。
それからの僕は……本当に目まぐるしく毎日が過ぎていった。
王宮で生活を始めた早々エドワード王子に夜這いされ深い仲になってしまい、それからは毎日一緒に寝る事になってしまったし、貴族学校卒業の次の日にはエドワード王子と結婚するという、はっきり言って父上が言っていた侯爵家の強い影響力を取り込みたいという王家の思惑に完全にはまってしまったのある。
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明日も投稿予定です。
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