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本編10
109アンジュの質問
しおりを挟む王家から僕が王宮に住む要請だなんて……侯爵家の強い影響力が本当に欲しいのもあるだろうけど、でも心当たりというかもしかして原因は僕かもしれない。
ははは……僕がまだ王子妃教育が遅れているせいなのかも……。元々教育をスタートしたのが遅かったから仕方がない事なんだけど流石に凹むなぁ。
「アンドルや、急がせてしまって申し訳ないが、アンドル自身はエドワード王子との婚約をどうしたいと思っているのか素直な気持ちを聞かせて欲しい」
僕の気持ち……僕の素直な気持ちは今迄家族にも親友にも話して来なかった気がする。それは僕自身も分からなかったのも大きいかもしれないけれど、僕は侯爵家の一員としてやるべき事をやっていただけで貴族なら誰だってそうだと思っていた。
だけど家族は僕の気持ちを尊重できる様にずっと動いてくれていた。だから僕も素直な気持ちを家族に伝えなければ。
「王家に借金を完済してまで僕の自由を守って下さって本当に感謝してます。ですが、僕はこのままエドワード王子の婚約者であり続けようと思っております」
そう言うとアンジュが驚いて僕を睨んできた。
「なっ何言ってるんですか兄上っ!!はあ??やっと兄上は自由になれるんですよ!!自分の気持ちを優先して良いって事ですよっ!!それも王家の奴ら王宮に住めだなんて、王宮に行ったら兄上はもう結婚しても良いっていう事とおんなじですよっ!!ちゃんと話を聞いてましたか??」
「……アンジュ話は聞いているよ。」
「だったら何故っ!!」
「勿論エドワード王子と婚約を継続する事は侯爵家にもメリットがあると思っている。だけどそれを考えなくても僕は……エドワード王子にずっと忠誠も誓っているけれど……純粋に彼の力になってあげたいと思っているんだ。苦労なら一緒に分かち合いたいとも思っている。僕は彼の事がどうやら……好きみたいなんだ」
いつかアンジュには君のパートナーにはなれない事、それに自分の気持ちを言わなければならないと思っていた。今は両親がいる前でアンジュからパートナーの提案されたなんて知れたら不味いだろう。だから僕が今思っている精一杯の気持ちを伝えたつもりだけど、アンジュには伝わっただろうか……?アンジュを見ると、アンジュは本当に驚いている様で言葉を失っている。
「そ……そんなっ?僕があの王子に負ける……?あ、兄上はあんな王子のどこを好きになったと言うのですか?脅されたり脅迫とか……」
「アンジュアンジュ!!もうやめなさい!!今アンドルの気持ちを聞いただろう?今はそれで十分だからそれ以上はアンドルの選んだ王子を侮辱した事になり、アンドルをも侮辱した事になるんだぞっ!!」
アンジュが信じられないといった表情で次々と質問を投げかけていた時、痺れを切らした父上は止めに入ってくれた。
それで一旦アンジュはやめてくれたが、まだその表情は納得してないみたいなままだった。
「アンドル……王宮に行く覚悟があるのね……本当に良いのね……?」
心配そうな母上は僕の意思確認を再度してくれた。
「はい。正式な要請を頂きましたら王宮に住む事をお受けしようと思います」
母上には申し訳ないと思っている。僕がこの選択をしたら母上にとって何の為に借金を完済したのかとショックを受けてしまうと思ったから。
申し訳ない気持ちのまま……母上をみると意外にも母上は落ち着いていて少し考えてから返事をしてくれた。
「そう……分かったわ」
「アンドル、そうか。とりあえずお前の意思を確認できてよかった。今日はもう時間がない為、マリアと私は伯爵に会いに行かなければならないから行ってくるよ。詳しい話はまた追って話し合おう」
そういって父上と母上は急いで伯爵家に行ってしまった。それでも僕の気持ちをしっかり聞いてくれて、僕も自分の素直な気持ちを言えたのは本当に良かったと思う。母上も時間が無い中でも僕の事を気にかけてくれたのはとても嬉しかった。
ただ、僕の答えは少し意外だったと思ったのだろう。それに僕が王子と婚約を続けるならば最初から借金は返済しなくても良かったかもしれないのだしその点は本当に申し訳ない気持ちになった。
でも自分の気持ちがはっきりしたのは本当につい最近の事で……また父上と時間がある時にしっかり伝えよう。僕も何年か前だったら違う答えを言っていたかも知れないのだから。
「兄上……今日の話は本当の事だったんですか……?」
アンジュも先にリビングから出たし、僕も自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていた途中でアンジュに呼び止められた。
「あれ?アンジュはまだ自分の部屋に戻って無かったんだな。うん、今日言った事は僕が最近になってようやく感じた僕の素直な気持ちなんだよ。だからアンジュとはパートナーにはなれないと思っている。折角アンジュが提案してくれたのに申し訳ない」
アンジュにはもっと色々な事を話し合った方がいいのではないかと思っているけれど、とりあえずパートナーにはなれない事をはっきりと伝えないとと思い、それだけは伝えた。
「僕はまだよく状況を飲み込めていないんです。兄上、僕の部屋でどうか詳しく話してくれませんか……」
アンジュは先程の驚いた勢いは無く本当に僕が王子の事が好きだと言う事を理解できていないみたいだった。
アンジュは王子の事があんまり好きじゃないからかも知れない。
僕が王子を好きというのをどうやって理解して貰ったら良いのか……上手く言葉にして説明ができないと思うのだけれど、詳しくと言われたらできる限り納得して貰いたいしと思い、アンジュに誘われるがままアンジュの部屋に入って行った。
ガチャッ……ガチャンッ……
あれっ?この2回ガチャガチャとした音は……部屋に入ると背後でアンジュがドアを二重の鍵をかけたのかな……と思った。
「アンジュ?今ドアを二重に施錠したの??」
どうしてわざわざ……鍵をかけるだけならいつもする事だけど、二重に鍵をする時は殆どあまりない。使用人達の中に不審人物がいるかも知れない時くらい。今はそんな心配はないし僕は二重になんか今迄もした事が無かったのに……。
アンジュはそんな僕の疑問にもにっこりと笑って答えた。
「ええ……そうです。兄上が逃げない様に」
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次の投稿は8月27日の予定です。
宜しくお願い致します。
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