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本編9
102猫の後遺症
しおりを挟むドキドキしながらそう聞くと王子は何も言わなかった。表情は変わらないから何を考えているのかは読み取れなかったけれど……しかし暫くして汗をかきながら苦しそうな表情に変わった王子が口を開いた。
「猫の本能だ」
「猫の本能?!」
「ああ……全ては呪いと猫の本能のせいだ。アンドルが沢山私のお世話をしてくれたので、猫なりの感謝の気持ちを表現していたんだがそうは受け取ってもらえなかったか?」
猫!!そっそうかっ!!そうなのか!!
猫の本能だったのか。しかも猫として僕に感謝を伝えていたとは。
いやらしい思いを巡らせていた僕は恥ずかしくなってしまい、途端に王子に対して申し訳なくて僕がこんな質問をした思いを正直に伝える事にした。
「王子……大変申し訳ありませんでした。エディだった時、もしかして王子がいやらしい事を考えて行動していたんじゃないかと……不敬な事を一瞬でも考えてしまいました。どうかお許し下さい」
何考えていたんだ僕はっ!!黒猫のエディだって王子だったんだぞ。王子がそんないやらしい事を考えて行動をする訳ないじゃ無いかっ!!
バツが悪いと思いつつ王子の方をみると勉学でお疲れの王子は随分と額から汗が流れ落ちていたのに、涼しげな表情のまま優しく微笑んて僕を見つめていた。
「いやアンドル大丈夫だよ。あんな事やこんな事をしていたんだ。そう思わせてしまったのは当然だよ。じゃあ少しは……いやらしい事を考えてもアンドルは許してくれるのかな?」
「はっ!!あっ……許すも何も僕達は婚約者同士ですし、お互い思春期でそういう事を考えるのも自然の流れだとは思っております」
学校では仲の良い者同士がデートしたり恋人になってキスをしたりしている学生達もいるんだし、本来なら婚約者同士の僕達だって2人だけの交流をして仲を深める時間も大事な事だと思っている。
だからそう返事をした。その後どちらが話し出す事も無かったけれど、お互い見つめ合えば微笑み合う優しい時間が流れていった。
たまにそよ風が吹いて中庭の木々がサラサラと心地良い音を立てていく静かな時間。
王子もそよ風の心地良さを感じながらお疲れで流れていた額の汗も引いてきたみたい。
そして暫く穏やかな時間が経過した後、先に口を開いたのは王子だった。
「そうか……アンドルそろそろ帰る時間になってしまったね。馬車迄送っていくよ」
「あ……ありがとうございます」
あっという間のお茶会だった。王子に促されて僕も立ち上がる。それから王子はそっと僕の腰に手を当てて一緒に歩くと思っていたら突然そのまま抱き締められてしまった。
「あっ!」
「アンドル、少しだけ抱き締めさせてくれ。アンドルに沢山触れていた猫の本能がずっと残っているんだ。ああ猫のせいだ」
「そんなっ!!猫の本能がまだ残っているのですか?」
「……そうなんだ。猫がずっと私を支配する事がある」
「えっ猫が王子を支配!!そんなっ!!」
王子は呪いの後遺症があり猫の本能を未だ引きずっているなんて……外見に現れない後遺症は他の人々には辛さが理解されにくい。
それに猫になったのを知っているのは多分、陛下と王族の直系であるエドワード王子の兄上様達、そして……僕だけだ!!
誰にも言えずほとんど理解されない世界で王子は1人必死に戦っていただなんて……随分と苦しかっただろう。
それなのに周りには全く気付かれず王子の……誰にも打ち明けられない孤独な苦しみはこれっぽっちも出さずに、王子としてのやるべき事をしっかりこなして生活していたなんて信じられない。僕では到底考えが及ばない程凄い人だ。
でも抱き締められた身体はエディじゃなく大きくなった王子の姿な訳で……僕も細いなりにも背が伸びているというのに、王子の身体の中にすっぽり入ってしまった。
ぎゅうっと少し強めに抱き締められて、何か安心感に包まれている様な気分……王子の胸元の匂いがほのかにエディの匂いが漂っている気がして思わずクンクンしてしまった。
「アンドル、何か匂うか?」
「何となくエディがいる様な匂いが……」
「そうか。じゃあこれはどうだ?」
笑ってそう言った王子はそのまま僕の唇にキスをしてきた。
「んっ!!」
これはエディじゃないっエドワード王子の唇っ!!
周りは護衛もどこかで控えていると思うけどもう特別離されたりはしない。
僕達はもう学生になり長い間婚約者同士なんだ。キスをするのは当然の流れで非常に健全な交際だと思う。
エディだった王子とは沢山していたから初めてじゃ無いけれど、王子の姿でのキスは初めてなので僕がドキドキしているのを王子に気づかれてしまっていないだろうか。
ーーーーーーー
明日も投稿予定です。
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