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本編8
95兄の頼み
しおりを挟む突然のエドの兄と名乗る方からの謝罪に何とお返事をすれば良いのか分からなかった。
だってきっと僕がする返事は侯爵家代表の返事になると思ったから。自分の優しさだけで「はい、分かりました。許します」とはならないだろう。
アンやアンディが呪いで殺された……侯爵家が飢饉にあった事ももしかしたら王族の呪いが関係しているかも知れない。
「それなのに……こんなお願いをするのはいけない事だと分かっています。でも……アンドルさんにお願いします。ほんの少しで良い。魔石にアンドルさんのエネルギーを……与えてくれませんか……」
「えっ!!」
この人は本気で言っているのか!!ずっとの王族に呪いをかけていた張本人の魂を解放させようといているんだぞ!!
「私は……王族を呪っていたエドも解放してあげたいのです。魔石の中に入ったエドにほんの少しだけエネルギーがあれば魔石から出られるんじゃないかと……」
「それは……ちょっと……」
アンは僕に魔石には近づいては駄目だと言っていたし、僕だってあんなに身体の力が無くなる経験は2度としたくはない。それにエドが恐いんだ……。
でも……実際エドの魔石はこの世界でどうなるのだろうか……僕の世界にまた戻って来る可能性だってある。
またエドの様に誰かを呪いたい王族が今後この魔石を見つけてしまう可能性だってある。
「どうすれば……」
だからって僕がエネルギーを分けたらどうなるのか……本当に僕のエネルギーは少しだけしか吸い取られないのだろうか……エドが何をしでかすか不安しかないが……でも……。
「ほんの少しと言いながら魔石に沢山のエネルギーを取られそうだけど……はは……今此処にアンが居たらこの決断は怒るだろうな」
「アンドルさん……それでは!!」
僕がゆっくり頷くとエドの兄は跪いて何度も何度もお礼を言ってくれるから、僕の方がどうして良いか分からなくなって逆に顔を上げて貰うのに必死になってしまった。
濡れたエディを優しく撫でながら、僕はこの選択が自分でもバカなお人好しだと思ってしまう。
エディが僕を必死な思いで助けてくれたと言うのに、僕はまた自分を危険にさせようとしているんだもの。
でも……もうあの魔石は王族の手にも誰の手にも入れては駄目なんだ。
それにエドも……あの魔石を手に入れなければもっと違った将来があったかも分からないのに。
エドの魂も魔石から救うのが本当の意味での呪いを解く事になると思う。王族も侯爵家も、もう魔石や呪いで不安な気持ちにならない様に!!
僕は意を決して一瞬だけ、一瞬だけ、一瞬だけだよと唱えながら手を魔石に一瞬だけ触れた。
ピシッ……パリンッ!!
「えっ!!!」
僕の力が少しだけ抜けた感覚がした後、魔石が砕けるのはあっという間の出来事だった。
そこから黒い影が僕を包み込んだ!!ああ……僕は失敗した。呪いの完全な解決を望んだつもりが、またエドに力を与えてしまったんだ……だが……
「っ!!……この記憶は……」
誰かの記憶が僕の中に入ってくる。
部屋で寝ている僕がいた。これは意識を失った僕!!そして今見ているのはアンディの姿をしたエドの記憶みたいだ。
僕のお尻に指をいれていたが、全然奥まで入らなくて樹液を取りに行く途中、アンの声とドアの叩く音が聞こえてきた場面で映像は途切れた。
「アンドル……魔石から……出してくれて有難う……君を犯してないよ……それだけ伝えたくて……アンドルは全然濡れなかったんだもの……流石に無理だから木の樹液を取りに行こうとしたら、アンに見つかっちゃったんだ。でもそれで良かった……ごめんね……じゃあ……」
黒い影から声だけが聞こえてきて……それからフワッと影は消えてしまった。
「今のは……アンディ……のエド……」
僕がそう呟くとエドのお兄さんも消えかかっていて、沢山のシワが入った顔を涙でクシャクシャにさせながら「有難う」と言って消えていった。
そしてエディを抱き締めた僕は1人取り残された部屋が真っ暗になると、その空間がグルグルと回り始めた。
これは魔法陣に取り込まれた時と同じ渦の感覚だ!!
確証はなくても僕はその感覚で元の世界に帰れると確信し、今度は自ら進んでその回っている空間の中に取り込まれに入った。
ーーーーーーーーーー
「やった!!やっと戻って来た!!」
渦の中に吸い込まれたと思ったら一瞬で自分の部屋だった。
抱きかかえていたエディも弱っているが、ちゃんと帰って自分の腕の中にいる!!
「エディ!!戻ってきたよ!!君のお陰で僕達は無事だったんだ!!」
エディは静かに息はしているが、反応は無くうずくまったままでいるので、直ぐに手当てに取り掛かる。
身体からの血が全体に及んでいる為に、手触りの良いガーゼを濡らしてエディの汚れた身体を清潔にさせていく。
何度かガーゼを洗い直して拭いていくと、ようやく綺麗になったところで、怪我の具合を診ていくけれど……外見の大きな怪我というのは何もなかった。
やはりエドマイヤ様がおっしゃっていた通り、エディの身体全体に負担がかかったんだろう……。
「しっかり看護するからエディはしっかりと身体を休めるんだよ」
「……」
「大丈夫、僕がずっと付いているから心配しないでゆっくり休んで」
「……ゴロ…」
今のは……エディからの反応!!
ちゃんと意識が戻ったんだ!!
「エディが返事をした!!エディ良かった!!」
それからの僕はエディが心配なのでお世話をし、ミルクを飲ませて出来る限りの看護を続けた。
魔法陣で本から戻った時は何日も経っていると思っていたのに、逆に全く時間が経過してない事には驚いたけど……。
本を確認してみれば、魔法陣のページは最初から何も書いていなかったかの様に真っ白に消えてしまっている。
これもまた直系の王族の方かもしくは……陛下に直接聞いてみないと分からない。
後日、家にある王族名鑑で「エドマイヤ」と言う名前を探してみたけれどどこにも見当たらなかった。ただ、成人してない王族は亡くなると黒い丸のみで表示しているので、もしかしたらエドマイヤ様は若かったし成人してなかったんだろう。
王族名鑑を眺めつつ黒い丸を探すと意外な事に王族は成人する前に亡くなっている人がかなり多かった。兄弟がいてもその中の1人は必ず亡くなっている……今の国王の兄弟にも黒い丸が表示されてあった。
「へえー、今の陛下にも兄弟がいたんだ。知らなかった」
それかからの僕はエディの看護とお世話以外は毎日同じ日常生活に戻ったけれど、前以上に勉強に励む。だってエドワード王子はずっと留学中も王家の使命を全うする為に頑張っているんだ。
僕だっていつかエドワード王子とお会いした時にはずかしくない知識を身につけていたい。
エディは怪我をしている最中でも学校へ行きたがるので肌身離さず一緒に連れていくと真面目に授業を受けているwふふっそんな姿を見ると可愛い。
暫く経つとそんなエディの身体の方も少しずつまた毛並みがモフモフしてきて一度は小さくなってしまった身体もまた大きくなってきた。羽根も立派に成長している。
ーーーーーーー
明日も投稿予定です。
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