【完結】王子様の婚約者になった僕の話

うらひと

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本編7

79エディside1

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(まあまあ暗い話ばかりしてないで、エドワードをみんなで歓迎しようじゃないか!!おいっマスター!!もっと飲み物と食べ物を持って来てくれよ!!)


 私の周りに集まっている黒猫の1人がマスターに注文していた。マスターはずっとせっせいと働いていたが、注文を聞いて奥の小さな部屋に入って行った。


(黒猫の皆さんが私を歓迎して下さるのは大変嬉しいのですが、話によると私のアンドルが今にも危険な目にあっている可能性が高いのです。それを考えるといてもたってもいられず、とても歓迎を受け止める気持ちにはなれていません。申し訳ない)

(いやいいんだ。……そうだよなぁ、エドワードの愛する婚約者が今にも危険な目にあっているかもしれないと言うのに済まなかった。私達はずっと無制限に此処にいたから時間の感覚がマヒしている者達になってしまっているんだ……)


(…………)


 黒猫達はシーンと静かになった。彼らも好きでこの空間に閉じ込められている訳では無いし、今迄色々な事を試してきた上で何も出来なかったのだろう。


(私達黒猫にとってもこの上なく絶好のチャンスが舞い込んだんだ。とにかくアンドルがいる所に行く方法を考えよう)


(考えようったって、此処にいる黒猫達はそれはもう何万通りと此処から解放される手段を試して来たんだものだからこれ以上何をすれば良いのか……)


 考えようと他の黒猫が提案すれば、また別の黒猫がこれ以上考える事がないと言う……難しいな。
 そうして話が堂々巡りをしていると、マスターが焦って私の周りに集まっていた黒猫達に向かって言った。


「お話中に申し訳ありません。食糧の在庫がここ最近減っていたのですが、今ほとんど残っていなくて食べ物を用意出来ません」


(何だってマスター!!こんな事は今迄一度も無かったじゃないか!!)

「ええ。いつも貯蔵室から食糧を持ち出すと自動的に補充されているのですが補充されていないのです」

(何だって!!)
(!!!)
(もしかしてエドの力が無くなっているのか?)


 黒猫達の中で急に予想外の事が起こった様で皆かなりニャーニャー語が飛び交っている。
 それならば私もその貯蔵庫を確認したくなった。

(マスター!!その貯蔵庫に私を案内して貰えませんか?)

 私がマスターにお願いすると、マスターは直ぐに反応してくれて頷いてくれた。

「エドワード分かりました。案内します。こちらです」

(私も行く!!)
(私も!!!)

 マスターは自分のテリトリーであるカウンターの奥を案内するので私も付いて行くと、他の黒猫達もこぞってマスターの後ろをついて歩いた。

 そして貯蔵庫らしく薄暗く冷えた場所には少しの飲料物と調味料やお菓子なんかは積まれているが、食糧は確かに僅かにしか置いていない。

「いつも此処から食糧を持っていけば、また新しい物が現れるのですが……」

(一体どうやって現れているんだろうか?)

(食糧が現れる力がエドに繋がっているんじゃないのか!!)

(それも何度も調べたじゃないか!!でも手がかりは無かっただろう?)

 黒猫達はこの場所でもニャーニャー語で議論を始めている。

(ご先祖の皆さん!!この場所も何度も調べられたと思います。ですか、今迄にない変化は何かがあると思いますので再度この場所を隅々まで確認しましょう)

(分かった)

(エドワードのいう通りだ)

 誰かがまたそう言うと黒猫達は部屋を確かめるようにウロウロし出し、置いてある物をずらしたりして確認し始めた。
 私もこの薄暗くて寒い部屋をぐるっと見渡してみるが、普通の小さな部屋にしか見えないな……

 天井には古い木の板を材料にしているのか木の板からツル状の枝が何本か生えていた。

(天井の板って生きているんだなぁ。あんな枝が生えるなんて)

 そう一言呟いたら、他の黒猫達にも聞こえたのか天井を見て驚いている!!

(おい!!天井がおかしいぞ!!木の枝が生えているドアがあるじゃないか!!皆んな天井を見ろ!!)

 私の隣にいた黒猫が興奮してそう言うと他の黒猫達が一斉に天井を見てニャーニャーとザワザワしだした

 えっ?……あれドアだったのか……全くそうは見えなかったが、ご先祖様が気づいてくれて良かった。

 しかし天井は高い……私達黒猫もちょっとした台があれば登れるがこの場所には酒場の方に黒猫用の小さなテーブルセットならいくつもが、それを重ねても天井までは届きそうにない……。


「私がテーブルセットを台にして登り、手を伸ばしますから黒猫様達は私を登って天井の扉を開いて下さい。お願いします」


 マスターがそう言って、黒猫達が使っているテーブルセットを取りに行った。確かに人間のままのマスターなら天井には届くかもしれない。


 テーブルセットを持って戻って来たマスターはテーブルの上に椅子を重ねて、その上に自分が立ち上がって腕まで伸ばして見せた。
 するとピッタリと天井に手の平がついた。


(おおーー!!)
(マスターやるじゃないか!!)


 黒猫達が珍しくマスターを褒めていたのでマスターはとても嬉しそうだった。それにしてもマスターは意外と背も高かった事に驚いた。普段から黒猫達に罵倒され続けてかなり猫背になっていたんだな。

「さっ!!黒猫の皆様!!どうか私を登って私が発端になった呪いを断ち切って下さい!!」


(はあ?天井のドアを見つけただけで呪いを断ち切れるかどうかも分からないのに都合の良い事言ってるんじゃないぞマスター!!)

(そうだそうだ!!)


 黒猫達はまたマスターを罵倒しながらもマスターの体を登りながら天井に向かって行くので私も登らせて貰う。

 すると先に登った黒猫がドアの枝を掴んだようだ。

(押してみたけどこのドア開かないぞ!!今度は引いてみるか!!うわっーー!!)

(おいっ!!ドアが開いたぞっ!!)

 上から突然黒猫と小枝が何本か降ってきて下の方でドダンッっと落ちてしまった。下の方では(大丈夫か?)と声がして
 他の黒猫達に手当を受けているようだ。

 そして、天井では引いてみたドアがブラブラと天井を揺らしていた。

(ドアの向こうには何が見えます?)

(今の所ドアの向こうは真っ暗だ)

(おい、上にいる黒猫!!天井の上って登れるか?)

(ドアの先は真っ暗だが行ってみる!!)

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