歳上同居人のさよなら

たみやえる

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新堂洸夜の誕生会

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 兄は本心を言っているだけということは分かるのでいちいち怒る気にもならない。
 この人は昔からそういうところがある。
 感情とか思いとか、そういうちょっとセンチメンタルな要素を排除して会話しようとするところが。



「オレを動物園のパンダにする予定を変えたのは何故?」


「西條君が父さん達に挨拶に来たからだ」


 全く初耳だったオレは、

「え……」

と言葉を失ってしまうほどの衝撃を受けた。


 兄がワイングラスを持ち上げて、オレの前に置かれたグラスにカチンと触れ合わせる。


 跳ね飛んだワインがテーブルに張られた白いクロスに点々と赤いシミを作った。


……酔っているんだろうか、兄は。


「ウチの会社のトップになるんだと。お前と本気で一緒になりたいから跡を継がせてほしいってさ」



「ちょっと待って。訳がわからない……大体どうやって冬木があの忙しい両親のアポを取れたんだ?」



 会社のために一週間の半分は日本、残り半分は海外を飛び回っているようなウチの親二人に揃って会うなんて家族でも滅多にない。まして、単なる一学生の冬木がどんな伝手で……。財界に顔が効く、それも相当のわがままが効く有力者の知り合いがいなければ無理だ。サラリーマン家庭の冬木に……。



「……高藤か」


 同級生の高藤霧矢の祖父は日用品で国内トップの一流企業の会長だったな、と思い浮かべる。取り扱い品目が親の会社と多少バッティングしているが、関係は悪くない。しかしどうやって冬木は高藤を説得したのだろう。




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