最初のオトコ

たみやえる

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 一夜の過ちに付き合わせてしまったという気まずさから、学内で遭っても気づかないフリを続け……自然消滅した、というか、まぁ、そもそも付き合っていたわけでもない。
 だからこそ、こま子は彼との初体験の思い出を、記憶の底に封印していたというのに。
 
 こま子は大学を出た後地元に戻り、靴・サンダルの製造会社に営業で働いていた。その会社に商品の買付をしたいと飛び込みで現れたのは三年前の春だった。
 荒木は二十代の頃と同じ、いやそれ以上に洗練されていた。要するに相変わらずカッコ良かった。〈久しぶりに会う昔のオトコ〉というシチュエーションが余計に彼を煌めいて見せていたのかもしれないが。
 東京の空気を、ぷんぷんとまとわりつかせる荒木のことを、最初、会社の者たちは良い印象を持っていなかったようだ。
 それがこの三年のうちに、いつの間にかすっかりウチの社員扱いになっている。
 人懐こい。ニコニコと話を聞き時には茶々を入れ、相手の欲しい言葉をサラッと口にする術を荒木は身につけている。今も、昔も……。人を夢中にさせる魔法を知っている男だと思う。
 今日は荒木の勤める会社……結構有名なセレクトショップ……と共同開発したサンダルが定番商品に昇格したというのを祝う飲み会だった。それに荒木が東京からわざわざ参加しにくると聞いた若い子なんか、昼間から何度化粧直しに席を立ったことか。
 荒木はこま子と同じ四十二歳である。「もうオジサンじゃない」と言うと、
「えぇ、でも独身だそうですよ。さすがアパレル関係、若見えしてかっこいいし、仕事ができて素敵じゃないですか」
と返された。
 (ふうん、私だけじゃなくて他から見てもやっぱりかっこよく見えるのね)と感心するとともに呆れた。今の若い子は二十近く歳の違う男でも恋愛対象にできるのか。
 そこに女の四十代と男の四十代の差を見せつけられた気がして、妙にイライラした。

 こま子の住む地方都市は田舎だから、この年でまだ独身というのは、はっきり言って哀れみの対象でしかない。四十過ぎれば、大方の女性は結婚している。女がいい歳をとっくに過ぎても結婚できないのは、本人に何か問題(浮気症とか、酒癖が悪いとか、イビキがうるさ過ぎるとか…色々)があるのか、よっぽど男に縁がないのだろうとなる。わざわざ口に出して言う人はいないけれど。そういう街にこま子は住んでいる。
 
「この後さ、二人だけで延長戦しない?」
と囁かれ、こま子はギョッと荒木の顔を見入ってしまった。もはや聞こえないフリは使えない。目が合い、荒木がニッと笑いかけてくる。
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