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大学教授と花屋のバイト 3

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 何故って?


 目の前でイチゴミルクの紙パック片手に立ち尽くす馬鹿でかい男は確かに、前を歩いてゆく残念ホモイケメンの頭の中でオカズにされていた奴だったからだ!


……怒るに怒れないじゃん。


 俺はなんとも言えない、喉にタイの小骨が刺さったような気分で目の前の男を見上げた。


 最初の印象はやっぱ背が高い。多分俺より三十センチは高いぞ、こいつ。黒髪短髪。端の切れ上がった日本刀を思わせる一重の眼。
 男が男に惚れる(恋愛対象としてじゃなく尊敬ってこと)ってタイプのイケメンだな、こりゃ。


「すみません。大丈夫ですか」


 ……ただ、若干表情に乏しいというか、誤ってるのに無表情っていうのは減点だな。


 差し出されたハンカチに、我に帰って受け取ると、彼はもう一度「すみません」と言って俺に頭を下げた。


 それを見た俺は思わず心の中で(おぉっ!)と唸っていた。


 伸びた背筋で腰からザ・直角って感じ。されて小気味いいおじぎ。(やるな!)って感動したんだ。


 花屋って、接客業だからさ。
 ほら、花って生モノじゃん。
 こっちはベストで出してもお客さんのところの環境とか取り扱いで花の状態が悪くなっちゃって、叱られることってあるんよ。
 そんな時にお客さんが怒りをぶつけられるのは配達してきた俺に、なんだよね。
 何度、謝り方が悪いって怒られたことか。
 だから、このオカズくんの完璧なおじぎに俺はグッときてしまったってわけ。


 さっきは無表情で減点とか考えたけど、コイツ良い奴だ。


 そう思ったら、フツフツと……こう怒りが湧いてきた。それは、前を歩いてゆく残念ホモイケメンに対しての怒りだ。


 いくら人には見えない頭の中でもだよ? 知らない間にあんなことやこんなことさせられてるなんてさ……酷くね?


 俺、視えちゃったからさ。


 オカズくんがそういう趣味嗜好だとしてもそうでなかったとしてもさぁ。


(同情するぜっ)
となった俺はお人好しにも、

「いや、ダイジョーブ」

と答えた……の、だが。


「俺飲んでたのいちごミルクですよ? ベタベタするでしょ。気持ち悪くないですか。すぐ洗えば落ちますから脱ぎましょう」


 オカズくんが何故かグイグイ迫ってきて俺の服を脱がしにかかる。


 そりゃ、そうだけど人の目ってもんが。ここ、大学構内よ?


 周りを行く学生たちがギョッとしながら目を逸らす様が胸に痛い。


 オカズくんが善意のつもりで言ってくれてるのはすごくわかるんだけどさっ。


 どうせ脱がせるなら人目につかないところにしてほしい!

と心の中で叫んだ時、

「アンタ、誰?」

急に頭上に差した影にギョッと顔を上げれば、先を歩いていたはずの……、

「うわっ、残念ホモイケメン」

が、いつの間にか目の前に立っていた。





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