五月六日は西條冬木の誕生日

たみやえる

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元カノとのその一件で、冬木との距離が幼馴染から恋人に昇格する、なんてミラクルはもちろん起きないまま……週末がきて。

もう、帰らなくちゃいけない。
また明日から大学の講義を受けてメシ食って寝る生活に戻るんだ。
そこに、冬木がいない物足りなさにくじけないようにしなくちゃな。

駅のコンコース。
絵が絵の入ったボストンバッグを肩に、一週間前オレとしてはちょっとありえない格好に変装してた自分を思い出してちょっと笑えた。

「? 急に笑って、どうした? 洸夜」

「いや、一週間前のオレのカッコ……」
となんともいえない笑いを堪えていると、

「あ、あれカッコ良かった……てか、なんで急にあんな格好してたんだ?」
と、冬木が真面目な顔で聞いてくる。

あれはなー、と説明しかけてやめた。

オンナと付き合い出したって聞いてわざわざ新幹線に飛び乗って別れさせにきました……って、重いっていうかコワイだろ。

結果、彼女とは別れたとしても……。

ほんと、オレはイカれてる。
冬木にイカれてるんだ!
と大声で叫びたくなった。

コイツに、ここに居る全員に知らしめてやれたらいいなぁ、って。

言えるわけないけど。


互いの肩がぶつからない、でも、離れすぎないギリギリの距離を探りながら、改札に向かって歩く。

「一週間、世話になったな。ありがと、冬木」

「こっちこそ。会えて嬉しかったです」

「じゃ」

「また」






握手はしなかった。
洸夜が改札を抜けて階段を登ってゆく。
あんまり見ていると泣けてきそうだったので、俺も踵を返した。

(寂しいよ……洸夜。次、いつ会える?)
とか、女々しくて言えないっつーの。

歩き出そうとしたら、後ろでガチャンッ! と何やら物音が……。

(なんだ?)
振り返ったら、自動改札機で止められて立ち往生している洸夜と目があった。
慌てて駆け戻ってきた様子だ。
(洸夜も俺との別れが惜しくて戻ってきてくれたのかな?)なんて、へんな期待を抱いてしまう。

まさか、な。

俺は慌てて洸夜のところへ走り寄った。
「え! な、何? 何か忘れ物?」

「あ? あぁ、忘れてた」
「時間、大丈夫かな。なんなら後で送るから、さ……」
と慌てる俺の頭に、ポン、と洸夜の手がのった。

洸夜の手が俺の後頭部にまわる。
クイっと彼の方に引き寄せられた。

「う? わっ」
体制を崩して冬木に抱きついてしまった。
息を飲んだ瞬間、洸夜の体臭を思い切り吸い込んでしまった。
俺の体温が上がる。
(やばい。やばい、やばい!)
ドキドキで、俺、爆発しちゃうかもしれない……。
すぐ離れたほうがいいかもだけど、洸夜の手が俺の後頭部を抑えたままだから動けずにいると、
「冬木、誕生日おめでとう」
ーーお前が居てくれて、俺の人生はめっちゃハッピーになったよ。
耳元で洸夜がそう囁いたんだ。

驚いた俺は、
「へ?」
なんて間抜けな返事しかできなくて。

クスリ、と笑う気配。

洸夜の唇が俺の頬を掠めた気がした。

「オレとしたことが、誕生日プレゼント、用意してなかった。嬉しすぎてはしゃいでた。ごめんな」

体を離した洸夜がにこりと笑って、俺の視線を感じたんだろう、自分の右手を見て、またふふっと笑う。

今、この時だって俺たちの周りにたくさんの人が行き交う駅の構内。
こんな場所で、思い出すとか、マジありえないっていうか、めっちゃ恥ずかしいんだけど……。

この手が俺のを握ったんだよな。
イかせてもらっちゃった……。
夢じゃ、ない。

また、もう一度、なんて絶対ないだろうけど。

ああいうことシても、洸夜は綺麗で気高くてちっとも下品じゃない。

俺よりオトナってことなのかなー……。

「も、もしかして。今回帰ってきてくれたのって、俺のため……だったりするのか?」
と聞いたけど、荒野はニコニコ笑うばかりで答えてくれない。

「それより、プレゼント、何にする? 今度帰ってくる時までに用意しとくから。あ、それとも送ろっか?」

……やっぱりオトナだ。

「いや、プレゼントはもらってる。これ以上もらったら俺苦しくなっちゃう。だから、いいよ」

「? オレ、何もあげてないよ?」

「もらった! ……これ以上もらったら、バチが当たるくらい……です」

突然、頭の中で洸夜にイかせてもらった時のことが鮮明に思い出されて俺は顔に身体中の血が集中したかと思った。
洸夜から見たら、俺は今真っ赤な顔してるんだろうなぁ……。

そのまま黙っていると、

「訳わかんないなー」

と、またクスリと笑われる。

ーーくっそぉ! やっぱ、洸夜が可愛い! 洸夜が一番だ!!

と、改めて確認させられてしまう。

もう、これはどうしようもないんだ……。


俺には〈普通〉は無理。
もし洸夜が嫌がっても、俺の居場所は洸夜のそばにしかない。

……そう、腹を括った瞬間だった。


だから、かな。思わずって感じで俺は言っていた。

「だ、大学! 洸夜と同じとこ、必ず行くから。その時は洸夜の部屋に転がり込ませてくださいっ。い、一緒にいたいから……いっ、いいだろ?」

「そんなの、大歓迎だよ。かならずオレのとこに来いよ」

「う、うん。必ず!」



あぁ、大好きだ。俺の洸夜。

この気持ちが片思いで終わるとしても。

ずっと、ずっと。

大好きだ。












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