五月六日は西條冬木の誕生日

たみやえる

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叫んでしまってから、(とんでもないことを言ってしまった!)と気づいた様子で元カノは赤くなったり青くなったりしたけど、もう遅い。
オレの怒りは頂点に達していた。
少し言い訳させてもらえば、オレは冬木のことが絡まない限り女性には優しいほうなのだが。
でも……、でも、だ。
勃つ勃たないってそんな冬木の超プライベートを公衆の面前で言われてオレが黙っていられるわけがない。

「っまえなぁ! あいつのがギンギンだってのは、このオレが確認してんの! お前に対してそうならなかったってことは、その時点でお前に望みはないってことなんだよッ」

ぷっつんしたあまり、余計なことを言ったような気もしたが、ここは冬木の誇りを回復してやらねばならない。
サァッと青ざめた彼女の後ろから近づく冬木に気がついたのはその時だった。

「洸夜、そこにいたんだ……」

冬木の様子がおかしい。彼はそうそう感情を表に出さないタイプだから傍目にはわからないかもしれないが、長い付き合いのオレにはピンと感じるものがあった。
普段は鋭く他人を威嚇しているようにすら見える冬木の孤高の瞳が細かく振動している。もう目の前の彼女のことはそっちのけで、冬木の二の腕をとって顔を覗き込む。

「どうした? 冬木」

冬木の手がオレの手に重なってぎゅっと握りしめてきた。すると彼の瞳にいつもの鋭くてでもホッとするような優しい光が戻ってきた。

「よかったぁ……、俺、洸夜が帰ってたのって夢だったかもって不安になってた……あ、れ? なんで洸夜と一緒にいんの?」

最後の一言はオレの隣に立つ元カノに向けたものだ。

「さ、西條君、あのね……ッ」

大きな目いっぱいに涙を溜めて冬木の三十センチ下から見上げる彼女はまぁ、確かに世の中で言う可愛らしさに満ちていた。
オレに食ってかかるくらいだからさ、彼女の冬木への〈好き〉はまだ失われていなくて、〈別れたくない〉ってのも事実だったんだろうな。だから多分、オレなんかにああだこうだ言うより、冬木の情に訴えて寄りを戻そうと思ったのかもしれない。
優しい冬木のことだから、女の涙にコロッとほだされて復縁するかもしれない。目の前でそんな光景見せられるんじゃないかと一瞬マジで絶望しかけて目の前が真っ白になったオレの耳に、

「俺と別れたからって、洸夜は駄目だ。洸夜のことは悪いけど諦めてくれないか」

と言う冬木の声が聞こえてきた。
冬木はオレの手を握りしめたまま、彼女にそう言ったんだ。
空いていたもう一方の手を冬木の手の甲にそっと重ねる。
やばい。泣きたくなるくらいに嬉しい。
そして……何か勘違いしてるぞ、ばか冬木め。

「なっ、何言ってるの西条君。私は西条君に謝りたくてっ。昨日ひどい事言っちゃったけど私たちまだ付き合ってるよね? いいよね?」

「あれ? 俺、石渡さんが俺をフって今度は洸夜に告白してるんだと思って……違うのか?」

「「違う!」」

とオレと彼女が同時に答えると。数回瞬きしてから彼女……石渡さんに向き合った冬木が、

「そうなんだ。じゃ、さよなら」

と、びっくりするほどの無表情で別れを告げた。

なんと言うそっけなさ。あっけないことと言ったら!

ショックを受けた表情で立ちすくむ彼女を残してオレたちは家路についた、と言うわけ……。





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