五月六日は西條冬木の誕生日

たみやえる

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(冬木はまだ高校生。
洸夜、大学一年のお話です)


**

五月六日は冬木の誕生日だからさ。


もともとサプライズで帰省しよとは思っていたんだ。


なのに。
……なのに。


冬木の様子をこっそり横流しするよう頼んでいた生徒会の後輩からトンデモナイ連絡が来た。


曰く、冬木に彼女ができた、と。

オンナの方が、〈あの冬木を、オトした〉と学校内でふれまわっているらしい。
〈あの冬木〉というのは、アイツがこれまでどんな女子に告白されようと首を縦に振らなかった……というのもあるが、凄まじい動物的な感覚で女子との接触を可能な限り避けてきたということがある。

まず、待ち伏せに引っかからない。

いつもここを通る、あそこのコンビニをよく使っていると何人もの女子生徒が炎天下、または寒空の下立っていようと、なぜかそれをすり抜けてしまう。

寄ってくる女子にその都度断りを入れることに疲ていたオレとは大違いだ。

ちなみに。だったら学内で捕まえれば良いと考えるかもしれない。学校内だと女子同士の牽制の掛け合いで冬木の前にたどり着くまでが大変なのだとか。

オレの在学中は、冬木にたかりたがるハエのような輩は全てはたき落としていたので、冬木は自分がモテるとは意識していなかったようだ。

探知機並みの精度で女子の告白を回避していた冬木が誰かと付き合うなんて……。
もしかして、オレという重石がなくなってようやく羽が伸ばせるようになったということなのか。

……とそこまで考えたら、落ち込んだ。


もぉ、大学の講義どころではない。


不思議と人に好かれるというか崇拝されるオレの特技のおかげで、一週間ほどの代返(出欠を取る時、代わりに返事をしてもらうこと)要員は確保できた。



--さぁ、帰るぞ!


数ヶ月ぶりに地元の駅に降り立ったオレは駅のトイレでとりあえず着替えという名の変装をすることにした。

見つかるのはまずい。

女と付き合うことが冬木自身の意志によるものならば、冬木にとって俺は敵ということになってしまう。

オンナの方にだけ会って、なんとかして冬木を諦めさせよう、と思った。


サングラスと普段なら恥ずかしくて着ない柄柄なポロシャツとダメージジーンズを着る。
首には明らかにメッキとわかる喜平チェーンのネックレス。

鏡に映して自分を見る。

日本映画で、登場三秒くらいで死んでしまうチンピラみたいだ……。
チャラくてダサい。
この格好を見られて冬木に幻滅されるのももってのほかだ。

火球的速やかに女を確保したのち、冬木と別れるよう説得してオレは東京に帰らなければならない。


と拳を握りしめ、駅のコンコースに出た俺の前方から、ひときわ背の高い目つきの鋭さが目につく高校生が歩いてきた。

(げぇっ! 冬木?)

慌てて柱の影に隠れる。

オレが身を寄せる柱の反対側で彼が立ち止まるのがわかった。


「ごめん、待たせたかな」
「ううん。ヒナもちょうど来たとこ」

二人で仲良く歩き出す。

腕、絡めるんじゃねぇよ。
くっつきすぎだろ。

心の中で悪態をつきながら尾行した。

そして行き着いたその、場所……。

おいおい! 制服でラブホ入るのかよ!?

あの女……。

選択権は今日の俺にはない。
後に続いてラブホに入ることにした。

ひとりで入れるのか? と疑問に思ったが、タッチパネル式で特に一人でいることを咎められることはなかった。

冬木たちが選んだ部屋の隣に入る。

もっさりとしたベッドの上にあぐらする。
ベッドボードにもたれて天井を見上げると、逆さまに映る自分と目が合った。天井には一面鏡が貼られていた。
ラブホは初体験だ、とその時気がついた。

背中の後ろ、壁の向こうに冬木がいるのか……。

何をしているんだろう。

もうキスは済んだのか。
あの女のスカートの下に冬木の手が差し込まれる想像をしてしまった。

オレの頭の中の冬木はその女の着ている制服を一枚一枚剥いでゆく。
スカートをすとんと床に落として。ジャケットにベスト。
そしてシャツのボタンを下から上に。
あぁ。
冬木の指が。
女の顔に……。


ーー胸が痛い。


女の顔は、いつの間にかオレに入れ替わっていた。




〈ひとり遊び〉に夢中になって、空しく二時間が過ぎた。

(馬鹿か。オレ……)

自分の妄想に夢中になるしか平静ている方法がなかったのだ。
どうしようもない涙が出た。


悔しいから、電話してやる。


ピロートークを邪魔するくらい、可愛いもんだろ。



ワンコールで、冬木は出た。


「冬木、今何してる?」
挨拶もなしに話しかけた。
『あ、ちょうどラーメン頼んどこで。腹減って』
「へぇ、どこの店?」
『駅前の〈にぼし〉ですね。洸夜お気に入りの。にぼしラーメン』
(うそつきめ)
あそこは行列店なんだ。
だろ?
オレが隣の部屋で冬木のことを想像して……してる間に二人はホテルをでてラーメン食ってますって?
時間的に余裕がなさすぎなんだよ。
抱いた。終わった。じゃ、出よか……なんて無味乾燥すぎる。
余韻てものがない。
そこは大事だろー……。

女とヤってたって認めないつもりかよ。

別にいちいち女とシたことをオレに報告する義務など冬木にはないのだが、(嘘をつかれた)と怒りで目がくらんだ。

下唇を痛いくらい噛む。

その時、耳にあてたスマホの向こうから、
『……ず、ずずず……』
と聞こえたんだ。

(……ん?)
「おい、なんだその音」
『ぅお、あっち……え? だからラーメンです』

出かけてた涙が引っ込んだ。

「そっこーで、そっち行くから待ってろ」

『……洸夜、帰省してるんですか?』

「まぁ、な……。おごる。追加で何注文してもいーから」

『ん。待ってます。ちょうど会いたかったし』

オレのこと待つって言うお前は、俺に会ったら何を言いたいんだ?

オレは何を確認したくてお前に会いに行くんだよ?

なんて色々、どうでもよくて。
シャワーを速攻で浴び精算を済ませて、ラブホを出た。















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