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クローバーをあげたかったんだ 1

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 さすがに頭を撫でられるのはちょっと恥ずかしい。
「歳下扱いしないでください」
「タメ語使えよ」
 すかさず返された。絶妙な間合いにプッと吹き出したのはどちらの方からだったのか。顔を見合わせたふたりはクスクス笑い合った。
「そういえば冬木、あの河川敷……どうして一人であんなところに来たんだ?」
 斜め上の虚空に視線をやった洸夜が冬木に問いかける。
 小学生の時の自然教室のことを思い出して言っていると、冬木ならわかると疑ってもいない鮮やかな話の方向転換。
 冬木の目の端がほんのり赤くなった。
「それは……うぅん、内緒にしたままじゃだめかな」
「何? それ、俺に隠さなきゃいけないこと?」
 洸夜が食らいついてきて、冬木は視線をさまよわせた。
「いや、結局達成できなかったんで。今更……っていうか」
「なんだよ、それ」
と、唇を尖らせてくるので仕方なく白状することにする。
「俺ね、小学校入学当初から憧れてたんです。かっこよくて綺麗な上級生がいるって。でも、あの頃の俺、口下手でガリで背もたいして高くなかった。パッとしないヤツだったから。洸夜の学年と一緒に自然教室に行けるってなった時すごく嬉しかった。せめて俺のこと知ってもらうだけでも……って。洸夜に近づく口実に何かプレゼントをしようと……」
「えぇっ? オレは何ももらってない!」
と喚くから、冬木は慌てて洸夜の口を手で覆う。しかし、
「そりゃそうだ。あげられなかったんだから」
 手のひらをカプッと甘噛みされて結局離す。
「なんだよ。くれればよかったのに」
「見つけられなかったんです」
 洸夜がじっと見つめてくるから、話を適当なところで切り上げられない。仕方なく冬木は続けて言った。
「……ガキの俺には洸夜に何をあげたらいいかなんて思いつかなくて。俺からしたらあなたはなんでももっていたから。顔が良くて頭が良くてみんなから信頼されていて……カノジョだっていたよね? 小学生のくせに」
「……くせに、って何」
「目の前でキスシーンを見せられたときはちょっぴり傷ついたんで。幼心にも」
 そう言われて、冬木から若干恨みがましくツルッとした流し目を送られて。洸夜は「うー」と「あー」の間のうなり声をあげた。
「で? 何をくれようとしたんだ。教えてよ」
「……四葉のクローバーを」
「葉っぱだな」
「そう言ったら身も蓋もないんで。言い方……」
「あー、それじゃあ。……ロマンチックだな」
「・・・・・・」
 黙ったまま踵を返してどこかへ行こうとする冬木の腕を洸夜が慌てて引き戻す。
「ごめんって」
「茶化してます?」
「ちょっと照れてる」
 ふーっとため息をついた冬木が不貞腐れた表情で洸夜と繋いだままになっている右手をコートのポケットに突っ込んだ。
 下に引っ張られた勢いで洸夜の肩が冬木の二の腕にぶつかる。
 洸夜がびっくりした顔で見上げるのに畳み掛けるように、
「なんでももっているように見えたけど、俺にはあなたがしんどそうに見えたから。いつも遠目からしか見てなかったけど……学年が違うし。四葉のクローバーを持ったら幸せになれるって、小学生の頃の俺は本気で信じてたんだ。で、俺は、クローバーを探すのに草が生えてるところ……って考えたすえに河川敷に行ったってわけで」
と、冬木が一気に言った。




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