はるよ こい。

はるよ こい。

６

 滲みそうになった涙を、すん、と鼻をすすり寒さのせいと紛らわせる。白い息を吐きながら軽く足踏みしていると、両側からサクサクと土を踏む音が聞こえてきた。
 こういう時、どちらに先に顔を向けるべきか。迷っているうちに、足音は二つともアヤの前で止まっていた。
「た、高藤さん？」
　我ながら小さいと自負する両目が限界まで見開かれる。
「ぇ……桂木くんも……？」
　見目良い二人が何やらばちばちっと視線を交わし、互いが手にしたものを確認するのをぼんやりと見る。
　彼らが手にしているのは……。
　蝶々結び、ラズベリーピンクの幅広のリボンが可愛い焦げ茶の紙袋。
　濃紺にピントかけられた細い水色のリボンが清々しい長方形の紙包み。
「こっ……今年こそ、自分の気持ちに正直になろうと思ったのっ」
「卒業前の今、キメるしかないって決めてたっ」
と、交互に言われても戸惑いが勝ってしまう。何を言っていいのか分からないから黙っていると、
「「だから他の子からのチョコは全部断ってきた」」
二人同時に叫んでくる。びっくりした。その勢いに後ろの蝋梅にもたれそうになって慌ててたたらを踏んだ。