はるよ こい。

たみやえる

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はるよ こい。

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 人気のない校舎を歩きながら、アヤはふぅとため息を吐く。窓の外には蝋梅ろうばいが黄色い花をちらつかせている。
 あれから一年たった。
 あれからというのはもちろん、桜庭のやっていたことが明らかになったあの事件からということである。
 去年のバレンタインなんてどこかへ吹っ飛んでしまった。
 今年だってどうなることやら。
(相変わらず、チョコを渡すアテなんかないし)
 受験を控えているために、二月から自由登校だから、去年のように好きな相手をチラ見しながらモヤモヤする、なんて機会もめっきり減った。
(去年の今頃は桂木くんのこと好きだったんだよなぁ)
と、ぼんやり考える。
 今もまだその気持ちが続いているのかと自分に問えば、定かではない。
 好きなようなそうでもないような……。
 だいたい去年だって、自分の好きは、富士山みたいなものだった、と思う。
 遠くから見る分にはいいけれど、実際登ろうとは思わない、というようなたぐいの……。
 理科準備室に来たのはもはや習慣のようなものだった。
 カゲはいないと、確信していたのに。
——いた。
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