はるよ こい。

たみやえる

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「何? 好きな子にあげたってやつ? それ、卒業の時にするやつじゃん。気ィ早すぎ」
と、少し意地悪くいうと、ようやく振り返った。
「あー……。よくわからない」
 自分の胸元を確認したカゲは眉をギュッと八の字にしながら、ボタン穴に自分の人差し指を出入ではいりさせた。
 まるで苦手な数式を目の前にしたかのよう。至極真面目な、悩まし顔。
「アヤは好きなやつ、いんの?」
 ぴょんと心臓が跳ね上がる。
 下の名前しか教えていないから当たり前なのだけど、アヤと呼ばれたことに不快感より嬉しさがまさる。クラスの誰ひとり、苗字は知っていてもアヤの下の名前を覚えている奴なんていないだろうから。
 嬉しいから、つい答えた。
「いる」
 クラスでは閉じ込めている本心、あれこれを(この人の前なら喋ってもいいかなー)と思えてしまったのだ。
 だって、この上級生は、
「会話」
「何?」
「なんか、あんたと話すのは、ぬるぬる、ヌメヌメしていない。……いいね」
ということだ。
「一緒にいると落ち着く、というか閑かな心になれる」
「なんだそりゃ? 悟りの境地か?」
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