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#1-②

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「随分クルートの名前で好き勝手していたようですね」

 グリアの表情が固まる。額やその手に汗が流れ、明らかに動揺していた。

「な、な、んのことかな…」
「あら、しらばっくれますの? 早く認めた方が身の安全のためにもよろしいと思いますけれど…」
「ち、違う! 俺じゃない!」
「そう興奮なさらないで。こちらが証拠ですわ」

 分厚い調査書類をテーブルに置く。数人にわたるグリアの浮気相手、アーシェンには一度も贈り物をしたことがないくせに、クルート公爵令嬢へのプレゼントだからとクルートの名前でツケにされたあまたの宝石やアクセサリー。浮気相手の中にはアーシェンのアクセサリ―を着けていた女性もいたと調査班は言っていた。なくしてしまったと思っていたエメラルドのネックレスだった。

 これだけでも、婚約中の不貞、クルート公爵家の乗っ取り未遂、窃盗が挙げられる。しかも浮気相手の女性にはいずれ自分は公爵になるから愛人として囲ってやると約束していたらしい。その女性たちがすべて商売女であることをグリアは知らない。

「さて、グリア様。あなたの罪はいくつかしら?」
「ひっ」
「お嬢」シュートが耳元で言う。「アメリア夫人が来られております」
「お通しして」

 侍女の案内で部屋に入ってきたアメリア夫人は静かにカーテシーをした。継母が、義娘に頭を下げるなど普通に考えればありえない。しかし、元平民のアメリア夫人は根っからの貴族であるアーシェンを尊重し、驕った態度であったことは一度もない。その姿を見ていたアリエルもしかり、だからアーシェンは彼女たちを受け入れようと思ったのだ。平民であったなら、クルート公爵に抵抗することもできなかっただろう。そこに互いの愛情があろうとなかろうとアーシェンには関係のない話だ。

「グリア様、今はアリエルにご執心のようで?」
「い、いや、そ…そんなことはない。アーシェンだけだ」
「およしになって。口先だけの言葉ほど耳障りなことはありませんわ。なんでもアリエルを本当の妻に、わたくしを表向きの妻にすることで公爵になるとか」
「違うっ!」
「わたくしの調査班は優秀ですの。皇帝陛下にお褒めいただくほどに。それを疑いますの? まあ、そんなことはどうでもいいですわ。アメリア夫人。この前話してくださったこと、もう一度聞かせてくださいますか」
「はい。…グリア様はアリエルの私物をたびたび盗んでいかれました。わたくしが稼いでアリエルに渡したものならいざ知らず、今わたくしたちが持っているものはすべて公爵様にいただいたものです。それを盗まれるなど、監督不行き届きもいいところだと、恥ずかしく思います。申し訳ありません」
「もういいのですよ。それはアメリア夫人の責任ではありませんわ」
「もったいないお言葉です」

 ありがとう、とアーシェンは言い、アメリア夫人は会場に戻っていった。「さて、そろそろ終わりにしましょうか」

 にこりと外交用の笑顔を貼り付け、アーシェンは指を二本立てる。

「今のところグリア様の選択肢はふたつにひとつですわ。ひとつ目、婚約破棄せずこのまま結婚し、これまでの罪を全て不問とする。ただし、次期公爵にはなりますが仕事は一切必要ありません」
「え…」
「わたくしがしますもの。グリア様はこの邸か別邸にいてくださるだけで結構ですわ。ただ、世間体もございますので愛人は許可できませんわね。ただ生活には困らないと思いますわ」
「それ、は…」

 歴史上、女公爵は存在してはいるが、今では認められるまで時間がかかる。女だからというだけで承認が降りにくく、降りても条件付きだ。その条件が結婚なのである。つまり、グリアにアーシェンが公爵になるための道具になれと言っているも同然の選択肢だった。常識は少し欠如しているとはいえ、腐っても貴族のグリアにそれがわからないわけがない。

「ふたつ目、このまま破棄して憲兵に身柄を渡しますわ。もちろん、余罪も余すところなくお伝えするつもりです。よくて強制労働、最悪処刑でしょうか」
「…」
「どちらになさいますか?」

 罪を不問にし、保証された生活の中でただあることだけを求められ生きるか、罪を償い苦しい中で生きるか。究極の二択だ。

「俺、は…」
「全員、動くな!」
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