307 / 318
一年生・冬の章
みんなの特別授業②
しおりを挟む「どうして……そこまで……」
ギュンターは震えた声で俯きながらそう言うと、ルイは少し考えてから口を開く。
「少なくとも、この学校に入る前のオレはそこまでお人よしじゃなかったかもな」
ルイはそう言って笑うと、フィンを見る。
「1人で突っ走るのも一興。でも、自分を過信せず誰かに頼ることも大事だとオレはこの一年で気付いた。そして、お節介をかけるのも悪くないなと思ってる」
セオドアはルイの言葉を聞いてけたけたと笑いながら頷く。
「俺なんてさぁ、めちゃくちゃ2人に勉強教えてもらっちゃってるよ?やっぱ成績が目に見えて上がると嬉しいし、ルイとフィンちゃんに追いつけてると思うと嬉しいワケよー」
「教えるのもとっても勉強になるよねっ」
フィンは嬉しそうに笑いながら、朗らかに続けた。
「それに」
「ギュンターくんのこと、ずっと心配だったんです。学校に来られてないってことも知ってたんですけど……ルイくんからギュンターくんが進級のために一生懸命勉強してるってことを聞いて、じっとしてられなかったんです」
フィンはひと呼吸置き、無垢な瞳でギュンターを見つめた。吸い込まれそうな、飛び込んでしまいたいような透き通る色素の薄い薄茶の瞳に、ギュンターはハッとする。
突き刺さるような頭痛が一瞬過ぎった後、“とある記憶”を思い出したのだ。
----------------------------------
場面は、リヒトがギュンターからクラウスの魂を引き剥がしたところに戻る。
憑き物が落ちたように楽になった体。
激しい頭の痛みと、意志に反して動かぬ手足。
押し寄せる罪悪感。
寒くて、暑くて、苦しい。呼吸がうまくできない。
このまま死んでしまうんじゃないか……?
そう思った時、誰かが自分の手を握った。
「ギュンターくん、しっかり……!」
瞳はぼやけているが、声で分かった。この人は憧れているフィン・ステラだ……。
手の温かさがやけに心に滲んで、言葉に出来ない感情が渦巻いた。真っ暗な闇の中で、一筋の光が差し込む。しかしそれと同時に、死を予感させる闇が芽吹く。
怖い。
助けて。
唇を動かす。声が出ているかは分からない。
意識が朦朧としていて、これも夢なのかもしれない。
“憧れ”はそんな辛い感情を汲み取るように、自分の冷たい手をしっかりと握ってくれた。
「大丈夫。もうすぐ王族特務の救護隊が駆け付けてくれるんだって……!絶対に大丈夫だからね!?君は死なない!」
涙声で必死に僕なんかを励ましてくれる。
本当にこの人は、どうしようもなくいい人だ。
そして何故か、この温もりで幼い兄弟達の笑顔を思い出した。
僕が頑張らないといけないのに、こんなところで僕は終わってしまうのかもしれないという不安が拭えない。
気付けば僕の目からは冷たいものがどんどんと溢れた。
「……ごめ、なさ」
声帯を動かすのはこんなにも難しかったのか。
謝罪すらも言わせてもらえないのか。
両親に、兄弟に、
そして怪我を負わせてしまったあなたに。
いつしか憧れになっていた君に、ひどいことをしてしまって本当にごめんなさい。君に強い憧れを持ってしまった僕の心に、アイツが棲みついてしまった。
君にようになりたいと思ってしまった、浅はかで恥ずかしい僕にバチが当たったのだろう。
でも、それでも。
「……とも、だ、ち」
”もし僕が生きて戻ってこれたら、友達になってもらえますか“
ずっとあなたに言いたかった言葉。
届けたくても、伝えられなかった言葉。
こんな状況で言うなんて、卑怯かもしれない。
でも死んでからじゃ遅い。
「な、って、……く……ますか」
喉を振り絞ってそう伝えた僕。
「うん……友達になるよ……絶対に友達になるよ!」
温かい声がじんわりと心に広がり光が強く差す。
見えなかったはずの目が、この時だけはっきりと、あの透き通る綺麗な薄茶の瞳を映した。
----------------------------------
ギュンターはその記憶を思い出すと、無意識に涙が溢れた。
「おい、大丈夫か」
ルイが驚き声をかけると、ギュンターは慌てて制服で涙を拭った。
「ご、ごめんなさい、忘れていた記憶を思い出してて」
ギュンターはフィンを見る。
「あ、あの日、フィンさんが手を握ってくれて、僕の戯言に付き合ってくれたことを思い出したのです」
「!」
フィンは慌てて首を横に振る。
「戯言なんかじゃないよ!?ともだち!僕たち友達になるって約束した!ルイくんもセオくんも見てたでしょ!?」
「ああ」
「見てた見てた」
「……!」
ギュンターの顔はみるみると赤くなる。血色が悪かった顔が少し色を取り戻し、ルイは小さく笑った。
「で、その友達とやらにオレとセオドアは入ってんのか?」
「ぶーぶー、ギュンターくん、まさかフィンちゃんだけとか言わないよねぇ?」
揶揄うような視線を送る二人に、ギュンターは慌てた表情を浮かべた。
「ぁっあのっ、えっと、こここんな僕でよろしければ、というか烏滸がましいとは思いますが、皆様よろしくお願いします!!!」
ギュンターはそう言って深々と頭を下げると、ルイとセオドアはクスクス笑いながらギュンターの背中を軽く叩いた。そしてフィンは愛らしい笑みを浮かべてからギュンターの手を握る。
「えへへ、よろしくね」
「……はい!」
ギュンターは大きく強く頷き、有り余る多幸感を胸に噛み締め嬉しそうに微笑んだ。
フィンは思い出したように早速ドーナツを並べると、それを満面の笑みでギュンターに勧める。
「まずは甘いものを補給しよう!」
「はい!」
「たくさん食べてね!」
「はい!!」
ギュンターはドーナツを頬張り、微笑みながら頷いた。
553
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる