上 下
288 / 318
一年生・冬の章

クリスマスプレゼント⑩

しおりを挟む


「アルヴィス様とジャンヌ様が到着されました」


 本邸の使用人のトップである執事・ライオスが現れ、リヒトの前に立つと片膝をついてから落ち着いた様子でそう報告する。


「(動じるなライオス。私はこの誇り高きシュヴァリエ家に仕える忠実な執事であろう。こんなことで動揺していてはダメだ)」


 ライオスはクールな表情を浮かべてはいるものの、内心リヒトのサンタ帽姿を見て動揺を隠せずにいた。それをなんとなく感じ取ったリヒトは、ジトっとした目でライオスを見下ろす。


「おいライオス。声が少し震えていたが何か問題でもあったか?」


 脅しのような問いかけにライオスが少し目を引くつかせ、頭を上げることなくそのまま口を開く。


「いえ、滅相もございません。準備は滞りなく」


 ライオスは毅然とした声色でそう答えると、正面の扉が勢い良く開かれ一同はそちらに顔を向けた。


「メリークリスマァァァァァァァァァァス!!!」


 本物のトナカイが引く木製の大型のそりに乗った、サンタコスプレをする男女二人。そりに取り付けられたベルがけたたましく鳴り響くと、パーティー会場は一気に騒がしくなる。
 フィンは突然の光景に目を見開き動揺を隠せずにいた。


「パパ!」
「ママ!」


 双子がそう叫んだところで、フィンはその二人がアルヴィスとジャンヌだと気付いた。二人はそりから降りると、アルヴィスはシエルを、ジャンヌはノエルを抱き上げてはしゃぎ出す。


「ただいま帰ったぞ!また大きくなったなお前達」

「ついこの間まで赤ちゃんだったと思ったのにねぇ」

「「赤ちゃんじゃないっ」」

「はっはっはっ」


 二人は双子を愛でた後、エヴァンジェリンの方へ駆け寄る。


「おお、エヴァンジェリン。私達に最初の福音を授けた愛おしい子よ。どんどんジャンヌに似てきたな、瓜二つじゃないか」

「あらほんと、若い時の私にそーっくりね」


 アルヴィスがそう声をかけると、ジャンヌも驚いた表情でエヴァンジェリンを見る。
 エヴァンジェリンはクスクスと笑いカーテシー作法でスカート部分を摘み膝を曲げて身体を沈め挨拶をした。


「お久しぶりです、お父様、お母様」


 天真爛漫なエヴァンジェリンだが、この時ばかりは少し畏まった様子で挨拶をした。


「おいでエヴァンジェリン」


 ジャンヌがそう声をかけると、エヴァンジェリンはうっすら涙を浮かべジャンヌに飛びつく。


「お母様~!」


 いつもの天真爛漫な様子に戻り、満面の笑みを浮かべるエヴァンジェリン。


「もう立派なレディなのに、甘えん坊なのは変わらないわねぇ。誰に似たのかしらぁ」

「私かな」


 アルヴィスはそう言ってクスッと笑い、ジャンヌもそれを聞くとクスクスと笑いながらエヴァンジェリンの頭を撫でる。


「……さて」


 そして二人は、リヒトを見ると表情を一気に固い表情を浮かべた。一気に雰囲気が変わり、フィンは緊張した面持ちで固まる。


「お前……」


 アルヴィスはリヒトに近付き、目を疑うような様子で首を傾げた。


「リヒト、だよな?」


 なぜか疑問系で問いかけるアルヴィス。


「……はい。お久しぶりです父上」


 リヒトはそう言って一礼すると、アルヴィスは少しの間の後口元を抑え笑いを堪える。


「なんだその格好は!ふざけているのか?お前が?あのお前が?」


 リヒトがサンタ帽を被っている事がよほどおかしいのか、震えた声でそう言って笑う。一気に雰囲気が明るくなり、ジャンヌも同じように笑った。


「父上にだけは言われたくないです」


 サンタのヒゲまでつけてはしゃぐアルヴィスに馬鹿にされた事が腹立たしいのか、リヒトは口元を引くつかせる。


「それはそうと、少し見ない間に随分雰囲気が変わったのねぇ」


 ジャンヌは柔らかな声でそう言ってリヒトを見上げると、そっと頬に触れ愛おしそうに見つめる。


「そうでしょうか」


 久しぶりに触れた母親の体温に、リヒトは一瞬懐かしい気持ちが込み上げた。


「ええ。貴方を産んだときにね、“ああ、この子はリヒト。全てを照らす光になる”って思ったの。思った通りだわ。優しい光ね」


 ジャンヌはそう言ってリヒトを抱き締める。


「っ」


 リヒトは少し動揺した様子で目を見開くも、遠慮がちに、されど優しく抱き締め返し目を細めた。


「お帰りなさい、母上」


 リヒトは小さくそう言うと、ジャンヌはうっすら涙を浮かべ小さく頷く。その様子を見たアルヴィスは、サンタ帽を脱いで付け髭を取りフィンに近付いて優しく見下ろした。


「っ!」


 間近で見るアルヴィスは、写真よりもリヒトに似ており驚くフィン。


「君がフィンくん、だね?噂は予々。思ったよりも小さくて可愛い子だね」


 アルヴィスはフィンの手を取って手の甲にキスをする。


「あ、あの、はじめましてっ……」


 驚いたフィンは顔を真っ赤にしながらぎこちなく挨拶をする。


「おやおや、照れ屋なのかな。可愛い表情をする」


 アルヴィスは目を丸くした後軽く笑ってフィンの頭を撫でると、ジャンヌの方へ目を向ける。二人は目を合わせ頷くと、ジャンヌはリヒトの背中を何度か撫でてから離れフィンの方へ駆け寄った。


「初めまして、フィンさん」


 ジャンヌは上品な笑みを浮かべフィンを見下ろし挨拶をする。フィンは慌てて畏まった様子で挨拶をした。


「初めまして!あの、フィン・ステラです」


 フィンは自身なさげな表情で続けた。


「きょ、今日はお邪魔してしまって、申し訳ありませんっ」


 俯き加減でそう言うフィンに、二人は目を合わせ軽く息を吐いた。アルヴィスはフィンの手を掴む。


「少し、別の部屋で話せないか?私達夫婦と三人で」

「え……?」


 動揺するフィン。


「どういうつもりですか」


 自分の目の届かない所に連れていこうとする二人に、リヒトは怪訝な表情を浮かべ躊躇った。そんなリヒトに、ジャンヌは宥めるように耳打ちをする。


「何も悪いことなんて言わないわ。アルヴィスは貴方に聞かれると恥ずかしいのよ、きっと」


 ジャンヌはそう言ってリヒトの肩を撫でる。


「悪いが少し借りていくぞ。悪いようにはしない」

「いいですけど、あまりベタベタ触らないでもらえます」


 実の父親、それに自分によく似た男だとより不快なのか、リヒトはフィンの手を掴むアルヴィスをじとっとした目で見る。


「おっとすまない。それじゃあ行こうかフィンくん」

「はい……」


 フィンはチラッとリヒトを見る。リヒトは小さく頷き、安心させるように軽く笑った。フィンはそれを見ると安心した様子で目を細める。
 三人はそのまま近くの談話室に場所を移した。
しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

処理中です...