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一年生・冬の章

ルイの特別授業②

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「……そうか。あまり無理はするなよ。困ったことがあったら言ってくれ」

「はい!ありがとうございます!」


 ギュンターは思わぬ相手からに激励に心底嬉しそうに頷いた。ルイはその笑顔を見てからその場を立ち去ろうとしたが、
ふと机の方へ目を落とすと、ギュンターが途中まで解いていた問題が目に入る。
 一学期に習った応用問題をすぐさま思い出し、ギュンターの解き方のミスに一瞬で気付いたルイはノートに向かって指をさした。


「なぁ、その問題。解き方間違ってるぞ」

「へ!?」

「回復薬の調合に使う材料は合ってるが、ミントの必要グラム数が少し違う。こっちに関してはそもそも使う魔法式が違うし」

「え、あ、通りでずっと解けないと思ってました」

「あれ、こっちも違うな」


 ルイはそれからものめり込むように、ギュンターが間違えていたり分からない問題文を指差しては簡潔に分かりやすく教えた。ギュンターはなんとか理解し笑みを浮かべる。


 こうしてルイの特別授業は幕を閉じ、気付けば外は暗くなっていた。



「ありがとうございます!すごく分かりやすかったです」


 ギュンターの満面の笑みを見て安心したのか、ルイは小さく笑みを浮かべた。そして同時にとある提案を思いつく。


「期末試験まで、オレが勉強見てやるよ」

「え!?そんな、悪いです」


 ルイの突然の提案に、ギュンターは目を丸くした後激しく首を横に振った。


「週に一回ぐらいはこれそうか?ここに」


 しかし、本人はそれを無視して話を進めるため、ギュンターが慌てた表情を浮かべた。


「え!?あ、あの」

「決まりだな。いなかったら調子が悪いと思っておく。無理して来なくたっていい。なんだったら寄宿先まで出向くぞ」

「えぇ!?でもそんな、」

「フィンとセオドアにも伝えておく。アイツらなら喜んで教師役を買って出るぞ」

「えっ!?そ、それはちょっと」


 ギュンターは目を回しながら首を大きく横に振った。





~次の週~




「おお、いたか」


 再び自由登校日に顔を出したルイは、同じ場所で勉強をするギュンターを見つけると躊躇いもなく横に座った。


「お、お願いします……(同じ生徒とは言え、ルイ様にこんなことさせて良いのかなぁ)」


 ギュンターはぺこりと頭を下げつつも、内心侯爵家の貴族相手にこんなに良くしてもらうことに罪悪感を覚えた。自らの意思ではないとは言え、加害者側の自分に勉強を教えてもらえるなんて。申し訳なさいっぱいの気持ちだった。


「お前、その前髪見づらくないのか?切ったほうがいい」

「っえ、あの、でも、目が……」


 左目の失明した濁る瞳を見られるのが嫌なのか、ギュンターはしゅんと落ち込んだ様子で前髪を触った。


「……悪い、余計なこと言ったな。そりゃ気になるか」

「この目を見たらみなさんびっくりするかと思いますし……でも、また普通に登校できるようになったら、見える方の目だけでも見えるように切ろうかと思います。いつまでもくよくよしてるわけにもいかないですもんね」


 ギュンターは控えめな笑みを浮かべた。


「……ああ。アシンメトリーな前髪もオシャレでいいと思うぞ。似合うんじゃないのか?お前なら」


 ルイが目を細め笑みを浮かべると、ギュンターは恥ずかしそうに俯いた。思えば、侯爵家の嫡子が自分のような没落寸前の貴族に笑みを浮かべること自体贅沢すぎるのでは、と混乱した表情を浮かべる。
 ましてや友達でもないのに、フィンとセオドアあの二人のような距離感で、こんなに親切にしてもらえるなんて。


「で、お前そこ、論理が矛盾してるぞ。やり直し」


 ギュンターの考えはよそに、ルイは早速間違いを指摘しあっという間に現実に引き戻す。


「あっ!はい……!」

「予習復習は無理のない範囲でしておくといい。お前は苦手な分野だと、物覚えが若干悪いからな。おかげで苦手な分野が分かりやすい」

「はい……すみません」

「別に責めてる訳じゃないぞ。ほら、次解いてみろ」


 それからも容赦ないルイのスパルタ授業を受けヘトヘトになったギュンター。するとそこに、大きな箱を抱えた小さな生徒がやってくる。その生徒は箱の所為で顔が見えないが、徐々にギュンターに近づき、やがて目の前で箱を机に置いた。謎の人物は、箱の横からちょこんと顔を出す。その顔を見たギュンターは目を見開いた。


「フィ、フィン様!?」


 なんとそこに立っていたのは、フィン・ステラ。ギュンターは胸が締め付けられるような感覚になり、瞳を震わせた。


「そして俺様も登場⭐︎」


 どこからともなく、セオドアが愉快な表情でウインクをしながら登場した。ギュンターは声がする背後に目を向けると、そこにはセオドア・フルニエが立っており目を見開く。


「初めまして!で良いのかな…?ルイくんから話を聞いたから早速きました!この箱はおやつです」


 驚くギュンターをよそに、フィンは積み重なった箱の1つを目の前で開ける。ほのかに香るドーナツの甘い香りが、ギュンターの気持ちを落ち着かせた。



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