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一年生・冬の章
クリスマスプレゼント⑨
しおりを挟むクリスマス当日。
本邸では盛大なクリスマスのパーティーが行われることもあってか、フィンは朝からそわそわしていた。
それもそのはず、今日はリヒトの両親であるアルヴィスとジャンヌが束の間の帰省を果たす日。フィンとしては初めてその二人と対面することになる。
「り、リヒト、あの」
「どうした?」
「本当に僕も行っていいの……?」
家族水入らずのところに自分が行ってしまうのは心苦しいと思っているのか、フィンは気まずそうに俯いた。
「当たり前だ。……嫌か?」
リヒトは即答しつつ、間を開けて不安げに問いかける。
「ちがうの。嫌とかじゃなくて、その」
フィンはぶんぶんと首を横に振った。
「クリスマスでせっかく久しぶりにご両親が帰ってくるのに、その、僕がいちゃ台無しな気がして」
「そんなことない。元々両親には姉様がすでにフィンのことを説明していたみたいだ。俺に対する手紙に、”フィンさんに会えるのを楽しみにしている“と書いていた」
リヒトはフィンを安心させるようにぽんぽんと頭を撫でる。
「そうなの!?」
フィンは目を丸くし口に手を当て驚きを見せる。口に出せばリヒトから怒られるから言わないが、自分のような“元奴隷の庶民”に会いたいと言ってもらえるとは思わなかったフィンは少し目を潤ませる。
「ああ。本当だよ」
「そっかあ……よかった」
付き合うことに反対されるかもしれないと内心不安に思っていたフィンは、少し安心したように小さく笑みを浮かべた。
「両親は、俺からは想像出来ないほど人たらしだ。それに明るくて朗らかで、優しい人達だよ」
両親のことを語るリヒトを初めて見たフィンは、少し目を見開く。二人を思うリヒトの姿はどこか穏やかで、そしてその瞳の奥に少し宿る後悔と複雑な感情を見つけたフィンは、そっとリヒトの手を握った。
「だからリヒトも優しいんだね」
フィンはその手を自身の頬に持っていき優しく微笑む。
「……俺は優しくないよ。あんなによくしてくれた両親だったが、俺は歯向かってばかりだった。呆れられていたと思う」
「ふふ。それはほら、いわゆる反抗期ってやつじゃないのかな……?」
フィンは嬉しそうにそう言ってリヒトを見上げると、リヒトは絆されたように目を細め軽く息を吐いた。
「なら俺は、長いこと反抗期とやらをしていたんだな。未だに顔を合わせるのが少し気まずい」
「リヒトの反抗期、僕も見てみたかったなぁ」
「……絶対ダメだ」
リヒトにとっては黒歴史なのか、眉を顰め首を左右に振って嫌そうに顔を歪める。
「そろそろ本邸に行こう。双子たちも待ってるよ」
「うん!」
「……その前に充電」
リヒトは扉の前でぎゅうっと強くフィンを抱き締め、大きく深呼吸をするように匂いを嗅ぐ。フィンは微笑みながら抱き締め返し同じように匂いを嗅ぎ返した。
「「(落ち着く)」」
フィンもリヒトも同じ事を考え、しばらくの間抱き合った後、二人は本邸へと足を踏み入れていった。
大きなパーティーに使用される舞踏場はクリスマス一色の飾りつけが行われており、クリスマスツリーが真ん中に配置されている。頂点には星の形の魔法石が規則正しく光り続け、そこから放たれる光の粉が辺りを飛び回り煌めく光景を演出していた。
「わぁぁぁ……」
フィンはその瞳に光を宿し感動した様子で見惚れている。
「フィンだー!」
「フィンー!」
フィンに気付いた双子。頭にはトナカイのカチューシャが付けられており、緑色のショートローブを羽織った姿でフィンの元へと駆け寄った。
「トナカイさんのコスプレ!?」
フィンは驚きつつも嬉しそうにカチューシャを触る。
「ツノがかっこいい」
「強そう」
「(強そうと言うより、ただただ可愛いっ)」
フィンは双子を無言で抱き締め愛おしそうな表情を浮かべる。
「にいさまこれかぶって」
シエルはリヒトにサンタの帽子を手渡すと、リヒトはそれを暫く睨み付けてから双子を見下ろす。気が進まないのか、眉を顰めていたが双子の圧に押されて渋々それを被る。
どう考えても似合っていないのが面白いのか、双子は口を手で抑えて笑いを堪えていた。
「お前らな……」
リヒトが何かを言いかけた瞬間、吹き抜け2階の扉から大荷物を背負ったエヴァンジェリンが勢いよく飛び降りる。
「プレゼントを置いて準備完了ね~っ!!!」
「!?」
赤と緑のドレス姿のエヴァンジェリンは大声でそう叫びながら、細腕に似合わない大量の荷物を抱え登場した。その後ろからすぐエヴァンジェリン付きのメイド達が血相を変えて追いかけて来ていたが、リヒトや双子は見慣れている様子で特に驚かない。
「いけませんエヴァンジェリン様!それは私共の仕事です!」
天真爛漫なエヴァンジェリンは率先して手伝っている様子だが、メイド達はそれを慌てて止めに入り困り顔を浮かべている。
「姉様、楽しみなのは分かりますが少し落ち着いてください」
サンタの帽子を持ったリヒトがそう嗜めると、エヴァンジェリンは遠慮無しにそれを見て大笑いした。
「ぶっひゃっひゃひゃっ!リヒト、あなたそれっ」
よっぽど面白かったのか、貴族らしからぬ笑い声を上げたエヴァンジェリンにリヒトは目を引くつかせる。
「仕方ないでしょう……シエルとノエルがしつこいんです」
「あっはっっはっは!傑作ね!そんな姿が見れるなんてっ」
エヴァンジェリンが笑っている隙に、メイド達は慌てて最後の仕上げの仕事に取り掛かる。
「り、リヒト……かわいいよ?」
フィンは笑い転げるエヴァンジェリンを見ると、リヒトに気を遣いそう言って宥めた。しかしリヒトは顰めっ面のままエヴァンジェリンをじとーっと睨む。
「あ!そうだ、ほら、僕も被ろうかな?ほらお揃い」
フィンはそう言って同じようにサンタ帽を被り、にこーっとリヒトを見上げる。
「……フィンは何をしても可愛いな」
リヒトはそんなフィンに癒されたのか、クスッと優しい笑みを浮かべフィンの頬を撫でる。
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