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一年生・冬の章
クリスマスプレゼント⑧
しおりを挟む「ただいまーっ!」
別邸に到着したフィンは大きな声で帰宅を知らせると、それを聞いたリヒトが執務室から姿を表し小さく笑いながら出迎える。外は夜になりかけてはいたものの、夕陽が残っていたためまだ少し明るさが残っていた。
「暗くなってから帰ってくると思ったけど、約束通りだね。おかえり(遅れたことを言い訳にお仕置きできなかった……)」
リヒトは内心思い描いていたお仕置きプレイをそっと胸の中にしまい、涼しい顔で声をかけた。
「よかったー、間に合ったあ」
フィンはホッとした表情を浮かべリヒトを見上げる。
「にいさまのまけ」
「あはは。まけー」
リヒトを笑う双子。
「フィンとのデートは楽しかったか?生意気な俺の弟達」
デートを強調して問いかけるリヒトは、双子の頬をむにっと摘んで口角を上げる。
「たのひかった」
「またいひたい」
双子はそんなリヒトに怯えることなく、頬をつけられながらも手をあげて満足そうに笑った。
「しばらくお預けだ。今日は特別にフィンを貸しただけであって、そう易々と取られてたまるか」
リヒトはツーンとした表情でそう言い放つと、双子は口を尖らせる。
「えー」
「にいさまけち」
「けち」
フィンはそんな三人の会話を見て微笑み、リヒトの背中を宥めるように撫でる。
「もーリヒト、あんまり意地悪いっちゃだめ。夕飯は一緒に食べようね?明日もずっと一緒」
フィンはにこーっと笑みを浮かべ甘えた声でそう言うと、リヒトは機嫌が治ったのか表情が柔らかくなった。
「……ああ」
リヒトはフィンの頬をすりすり撫でながら頷く。
「フィンだいすきー」
「すきすきー」
双子は負けじと躊躇なくフィンにベッタリと甘えると、フィンはふにゃっと蕩けそうな笑みで双子を見た。
「ふふ、かわいぃ。またいこうね」
フィンはそう言って双子をぎゅうっと抱き締めたため、リヒトは大人げなくそれをじとっと見下ろし口を開いた。
「フィン、上着を置いて着替えておいで。俺は二人を本邸に送ってすぐに戻るから」
「はーい。それじゃあシエル、ノエル。また遊ぼうね!」
フィンは優しく双子の手を握ってから手を振って見送る。
「「フィンまたねーっ」」
双子も大きく手を振り、リヒトが開いた扉から本邸へと戻っていった。
本邸に足を踏み入れるやいなや、リヒトは二人を抱え椅子に座らせる。その目の前で双子を見下ろすように立ったリヒトはそのまま口を開いた。
「さて、俺の体質で身内にアカシックレコードを使うと不快な頭痛が暫く続くのはわかってるな?」
シュヴァリエ家内では、様々なアカシックレコードを発現させる中、祖先であるイザックと同様に強力なアカシックレコードを継いだリヒトは様々な制約もある。そのうちの一つが身内に対してアカシックレコードを使うことで頭痛に苛まれるという特殊な制約があった。
ちなみに姉のエヴァンジェリンは“見た光景を他人にも見せることができる”アカシックレコードの持ち主だが、エヴァンジェリンの場合は1日に使える回数以外の制約はない。
「「はい」」
双子はコクリと頷き返事をすると、リヒトは小さく笑みを浮かべる。
「では、分かりやすく説明しろ。お金は持たせているが、フィンは案の定ほとんど使わなかっただろう。気になっていたものはあったか?」
フィンは食事代以外にお金を使っている素振りはなく、双子が欲しがったものを買い与えているだけ。双子は顔を見合わせてから笑みを浮かべた。
「いっぱいあった」
「あったー」
双子の回答にリヒトは目を見開く。
「全部言え」
リヒトは仁王立ちでそう命ずると、シエルは考えながら口を開いた。
「えーと、うさぎ!」
続いてノエルが口を開く。
「にじいろのたま!」
「おんなのこのふくー」
「しゃしんいっぱい」
シエルとノエルが交互に発表するも、リヒトはそのほとんどが理解に及ばず眉を顰めた。
「シエル。ウサギは食用か?」
「ちがう!おっきいぬいぐるみ」
シエルはぶんぶんと首を振ってから説明をする。フィンはウサギ肉のシチューを美味しそうに食べていたことがあったため、リヒトはシエルの思いがけない回答に目を丸くした。
「ぬいぐるみ……?そんなのはいくらでも買うが、フィンがぬいぐるみを欲しがるとはな」
本当にフィンはそんなものが欲しいのか?とリヒトは一瞬考えたが口にはせずノエルを見る。
「ノエル。虹色の玉とは」
「フィンがさわったらとうめいなキラキラになるやつ」
「なんだそれは。魔法具か?」
「わかんない。おばあちゃんがさわるとむらさきになった」
「……(まるで謎解きだな)」
リヒトはまたもや眉を顰め、諦めたように溜息を吐いてからシエルを見た。
「シエル。フィンは女の服はさすがに欲しがらないだろう」
「お店でフィンがきてた」
「着てただと?」
リヒトの眉がピクッと動く。
「おんなのこにまちがえられて、きてた」
「にあってたね」
双子は顔を見合わせ笑う。
「……なるほどな(店員に勧められて断れずに着たか?)」
状況を推測し答えを導いたリヒトはノエルを見る。
「最後、写真だな。カメラの間違いか?」
カメラは高級品のため、庶民はまず写真を撮る機会すらない貴族の文化。カメラであればプレゼントにはうってつけだと考えたリヒトだが、ノエルは首を横に振る。
「しゃしんだった」
「何のだ」
リヒトは不可解そうに問いかけた。
「にいさまの」
「は?」
「にいさまのしゃしん、おみせでうれしそうに見てた」
ノエルがわかりやすく言い直すと、リヒトは少し目を見開く。シエルは手を広げ嬉しそうに笑った。
「フィン、いちばんうれしそうだった。あげたらいちばんよろこぶなー」
「フィンは、にいさまがいちばんなー」
双子は顔を見合わせながらくすくすと小さく笑った。
「……そうか」
リヒトは少しの間の後、双子の頭を撫でる。
「そう言えば、クリスマスの日は父上と母上が戻ってくると正式に連絡があった。いい子で待っていればプレゼントをあげる、と母上が」
リヒトがそう言うと、双子はすくっと立ち上がり嬉しそうに走り回った。
「わーい!」
「ママに会えるー!」
「パパに会えるー!」
双子は興奮した様子で奥へと走っていったため、リヒトは軽く息を吐く。
「まったく、姉様はむやみやたらに走るなと教えていないのか」
リヒトは少し笑いながらそう呟き別邸に戻っていった。
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