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一年生・冬の章

クリスマスプレゼント⑦

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「本当ですね……!なんだか最近の方がリラックスしているような感じがします」


 僅かな違いを感じたフィンは大きく頷いてリザメルを見上げた。


「でしょお?それってキミのお陰だったりするんじゃないのかな」


 リザメルは人差し指を出してニッコリと笑いながらそう言うと、フィンは自信なさげな表情で目を逸らす。


「え、えっと、そうなんでしょうか」

「アハハッ。そうだよお。良い意味で鈍感なキミに教えてあげるけど、幸せであればあるほど、今に満足すればするほど、目の前のことだけで頭がいっぱいになっちゃうと思うのよねぇ。過去のことなんてどうでも良くなるぐらいに。
 過去より未来を一緒に生きることに心が向いてるって、良いことだと思うなあ。ウヒヒ」

「過去より未来……」


 フィンはそう呟くと、吹っ切れたような表情でリザメルを見る。


「なんか、一人で焦っちゃってごめんなさい。ありがとうございます!」


 リヒトを知ることはこれからいくらでも出来る。焦らなくても良いと自分の気持ちに折り合いをつけ、昔のリヒトが映る写真を再び眺めた。


「ふふ。でも昔のリヒトもやっぱりカッコいいです」


 アルバムを捲ると、アレクサンダーと闊歩する姿や王族特務就任式でローブを授かる姿など、全てが堂々とした姿で映っているリヒトを見てニコニコと優しい笑みを浮かべるフィン。
 リザメルはうんうんと頷いた後、今度は双子にアルバムを差し出した。


「さあさあ双子ちゃん。君たちはこれをとくとご覧あれ」

「「?」」


 双子は協力してアルバムを持ちページを捲ると、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「あー!ママとパパ」
「ママかわいいねえ」
「かわいいねえ」

「(リヒトのお父様とお母様、見たい……!)」


 双子はフィンのうずうずした視線に気付き、両親が映るアルバムをフィンに笑顔で差し出す二人。


「見せてくれるの?」

「「うん」」


 フィンは目を輝かせながらアルバムを受け取り確認した。


「わぁっ……」


 リヒトと同じ銀髪を後ろに纏め、クールな眼差しではあるものの小さく笑みを見せるアルヴィス。そして、エヴァンジェリンにそっくりな母親のジャンヌは、桃色の髪をハーフアップにしており愛らしい表情で笑みを浮かべていた。
 どうやら二人の結婚式の様子を撮った一枚なのか、幸せそうなオーラを放つ二人。


「これってエヴァ様もリヒトもまだ産まれる前ってことだよね!?リヒトはアルヴィス様にそっくり、エヴァ様はジャンヌ様にとっても似てる!シエルとノエルは、鼻と口がアルヴィス様で、目元がジャンヌ様かなぁ?」


 フィンは目を輝かせ興奮した様子で写真を眺めた。


「大貴族なんて政略結婚が多いけど、二人は当時では珍しく恋愛結婚でね。おしどり夫婦で有名だよ。ティタノマキアに行く前は、毎週末にお忍びでデートしていたくらいだし。ウヒヒ」

「そうなんですか!?(妙に詳しい……?)」


 二人の会話をよそに、双子はアルバムを見た影響からか少し寂しそうな表情をする。


「ママとパパにあいたいねー」

「ねー」


 幼い二人は、リヒトやエヴァンジェリンと違い両親に会う機会が極端に少ない。フィンはそんな二人を見て切ない気持ちになり思わず二人の手を握りながらしゃがむ。


「もうずっと会ってないの?」


 フィンの問いかけに双子は考える素振りを見せた。


「2ねんまえのクリスマスにちょっとだけ会った?」
「ちょっとだけ」


 フィンは双子の回答を聞いて寂しそうな表情に変わる。


「そっか……さみしい、ね」


 フィンはぎゅうーっと強く二人を抱き締める。


「でも、ことしのクリスマスにかえってくる」
「ちょっとだけ」

「え!?そうなの!?良かったね!ね!」


 フィンは嬉しそうに目を輝かせ、双子も嬉しそうに頷く。


「(そうなんだッ。写真撮らなきゃ。ウヒヒ)」


 リザメルは思いもよらない情報にひっそりと笑っていた。


「……あ!もうこんな時間。そろそろ帰ろうか」


 フィンは自身の懐中時計を確認すると、夕方になっていることに気付き目を見開く。


「おや。それじゃあ最後にお宝写真。ウヒヒ」

「へ?」


 リザメルは、リヒトの学生時代のエスペランス祭で活躍するシーンが収められたアルバムをフィンに差し出す。
 リヒトの横には同じく学生だった第一王子・アレクサンダーやエリオットの姿もあった。


「リヒトかっこいい……!わあ、これもしかしてシルフィーさんとの対決かな?それにこれは、王子と副学長とのスリーマンセル!すごい、すごい……!」


 涼しい顔で戦うリヒト以外にも、無邪気に笑い指を鳴らす瞬間のアレクサンダー、今は想像できない狂気の瞳で戦い狂うエリオットの姿もあり、フィンは目を輝かせながら夢中でアルバムを眺める。


「うわあー!今よりも髪短かったんだぁ。どのシーンも綺麗……僕なら絶対ふとした表情撮られたらマヌケだろうなあ」


 周囲に花びらを撒き散らしているようなほわんとした雰囲気を醸し出しながらアルバムを眺め、独り言を呟き続けるフィン。双子はそんな様子を見てコソコソと話をし始める。


「フィン、いままででいちばんうれしそう」
「ほしいのかな」
「たぶんいちばんよろこぶ」
「にいさまに言おう」
「うん」


 フィンはしばらくアルバムを眺めていたが、急にハッとした表情になり再び時計を確認する。


「暗くなっちゃう!あの、リザメルさん。今日は本当にありがとうございましたっ」


 フィンが深々と頭を下げながらアルバムを返すと、双子もそれを真似るように頭を下げる。


「あらやだ、頭なんて下げないでちょうだい。、寄っていってね」

「もちろんです。本当にお代は良いんですか?」

「いいのいいの。さあさ、暗くなる前に★またね。ウヒヒ」



 リザメルはそう言って手を振り個性的な笑い声を出して見送ると、フィンは再びぺこりと頭を下げてから双子を連れてお店を後にする。
 残されたリザメルは、ポケットからこっそり一枚の写真を取り出した。

 
「お代はもういただいちゃってるんでぇ」


 フィンがワンピースを試着したシーンや、双子が庶民の服を着て遊んでいるシーンを激写していたリザメルは、そっと秘蔵コレクションにしまい満足そうに笑みを浮かべる。


「(そういえば、あの子って誰かに似てるなー。誰だっけ?)」


 リザメルは首を傾げながらも奥へと戻っていき指を鳴らす。その瞬間、神出鬼没のコレクターショップは、ひっそりと存在を消すのであった。



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