上 下
281 / 318
一年生・冬の章

クリスマスプレゼント③

しおりを挟む

「先ほどはとんだご無礼を!!お代はいいので、皆様お乗りください。むしろ乗っていただきたい……!」


 御者は慌てて馬車の扉を開けて涙ながらにそう言うと、フィンは目を見開く。


「え、あの、僕も乗っていいんですかっ……?」


 貴族じゃない自分が乗ってもいいのかと遠慮がちになるフィン。


「もちろんですとも……!さあさあどうぞ」

「ありがとうございます!でも、ちゃんとお代は払いますからっ。どうか泣かないでください」


 フィンは嬉しそうに笑みを浮かべぺこりと御者に頭を下げると、申し訳なさそうに御者にハンカチを渡す。
 御者はそのハンカチを受け取るとさらに涙を流し、フィンの心の綺麗さに胸を打たれた。


「(あんな態度を取ってしまったのに、この子はなんて優しいんだ。なるほど、冷徹なシュヴァリエ公爵に大事にされる理由が分かったぞ)」


 心優しきフィンの裏で、双子はじとっとした目線を御者に送る。


「フィンにめんじてここはゆるしてやろう」
「でもにいさまには言おう」
「うん、そうしよう」
「フィンやさしすぎるな」
「だな」


 こそこそと話す双子に冷や汗が止まらない御者は、三等地までの道中生きた心地がしなかった。

 馬車を降り目的地に着いた三人。開放的なお店はテラス席も盛り上がっており、賑わう店内の様子に双子は初めての雰囲気を感じ取って目を輝かせる。


「いいにおい」
「にぎやか」


 明るく賑わう声と、食欲をそそる匂いに双子はうずうずと体を動かした。


「(よかった、喜んでる)」


 フィンは小さく笑みをこぼす。三等地が肌に合わなかったらどうしようと悩んでいたが、杞憂に終わりほっとした。


「あらフィンちゃん!きてくれたのねー!」

「セルナさん、こんにちはー」


 ウェイトレスのセルナは、入店したフィンを見ると嬉しそうに駆け寄り声をかける。店によく来るフィンと顔馴染みなのか、嬉しそうな様子のセルナを双子はじーっと見上げた。


「あらっ!?あれれ!?今日は珍しいお客様をお連れしてるわね!?」


 普段ルイとセオドアを連れてくるだけでも驚いていたが、まさかシュヴァリエ家の双子を連れてくるとは思わなかったセルナは目をギョッとさせる。


「しかもシュヴァリエ家の双子!お噂はかねがね、とても可愛い……」


 セルナはほわわんと嬉しそうに笑いおさげを揺らしながら双子を見つめるも、途端にハッとした表情を浮かべる。


「いけない私ったら!貴族のおぼっちゃまにとんだご無礼を!フィンちゃん、一応奥の半個室も空いてるけどどっちがいいかしら!?」

「えと……いつも通りでいいですよ!この子達もそっちの方が嬉しそう。でもテラスはちょっと寒いから、中にしてもらえますか?」


 双子は普段来ないような店にワクワクしながら周辺を見回していたため、フィンはそれを見て賑わう店内の中心の席を選んだ。


「こちらメニューですっ」


 セルナはメニューを1つ手渡すと、三人で一緒にメニューを眺める。その様子をセルナはほんわかした表情で見守った。


「そういえば、ルイ様とセオドア様と来た時もあんな風に三人でメニューを覗き込んでたなぁ。貴族はあんまり三等地に来ないから、珍しそうにしてたし」


 セルナは初来店した三人を思い出しほのぼのする。


「おにくあったー」
「おさかなあったー」
「僕はグラタンにしよっと」

 
 豊富なメニューの中から食べたいものを決めた三人は、注文を終えて料理を待つ。賑わっている店内だが、さすがにシュヴァリエ家の双子がいるとギョッとした表情をしている人も多かった。するとそこに、常連客のジョアシャンが食事を終えたところでフィンを見かけ近くまでやってきた。


「フィン坊!」

「ジョアシャンさん!偶然ですね」


 爽やかな青年が突如現れ、警戒心を表す双子。ジッと睨み付ける様子にジョアシャンは目を見開いた。


「おおっと、そのナリはシュヴァリエ家の双子か?こりゃ失礼しました」


 ジョアシャンは礼節を弁え挨拶をする。


「三人で遊びがてらご飯を食べに来たんです。シエル、ノエル。この方は三等地の警備をする憲兵団のリーダーだよ。何度かお店で会ううちに覚えてもらえたんだぁ」

「フィンのみかた?」


 正直、双子にとっては仕事は役職などはどうでもよく、フィンに危害を及ぼさないかどうかが重要。シエルは首を傾げ問いかけると、フィンは大きく頷く。


「もちろん……!とてもいい方だよ」


 フィンがふにゃっと笑みを浮かべると、シエルは安心したようにジョアシャンを見る。


「ジョアシャンは、フィンいじめない?」


 ノエルは不安げにジョアシャンに問いかけた。


「いじめ……?もちろんいじめませんよ。道中なにかあったんですか?」


 察しのいいジョアシャンは片膝をつき質問すると、ノエルはぷくーっと頬を膨らませた。


「フィンさっきいじめられた」
「お馬さんにのせてもらえなかった」
「きぞくじゃないからって」
「ふぃんはにいさまの“だいじ”なのに」


 不満げに語る双子にフィンは慌てふためく。


「わわ、そんなこと言わなくていいよーっ!あの、気にしないでくださいジョアシャンさん。馬車にはシエルとノエルのおかげでちゃんと乗せてもらえたので」


 ニコリと笑うフィンに、ジョアシャンは眉を顰めた。


「まったく、良い人ほど損をする。大方、一等地の御者だろう?あそこに常駐する御者は上流貴族の客が多い影響で、自分も偉くなったような気になってプライドが高い」

「そう、なんですね……でも、僕はそもそも本来一等地で過ごせるような身分じゃないので、仕方ないです」


 フィンは困ったように眉を下げると、双子は納得がいかない様子で頬を膨らませた。


「フィンいじめるのゆるさない」

「フィンこまらせるの、めっ!」


 フィン思いの双子を見たジョアシャンは、クスッと笑みを浮かべてからフィンを見る。


「帰りはいい御者を常駐させておく。ひとしきり楽しんだら奥の十字路にいる緑のリボンをつけた馬に乗って帰るといいよ。話は通しておくから」


 ジョアシャンはそう言って立ち上がる。


「えっいいんですか!?助かります……!」


 フィンは慌てて席を立ってぺこりと礼をした。


「それくらいさせておくれ。エスペランス祭でいいものを見せてもらったお礼さ。……二人とも、フィン坊を守ってあげてください。“頼もしい”お二人にお任せします」


 ジョアシャンがそう言って双子に頭を下げると、二人は得意げに頷く。子供扱いせず頼もしいと言われ嬉しいのか、二人はジョアシャンに満面の笑みを浮かべた。


「フィン守る!」
「ジョアシャンいいやつ!」


 ジョアシャンは双子の笑みにつられて同じように笑いかけた。


「ははっ、元気があっていい子だ。それでは失礼します。それじゃあフィン坊、仕事に戻るよ。またね」

「はい!またっ」


 フィンはぶんぶんと手を振って見送る。同時に料理が来たため、三人はしばらくの間食事を楽しんだ。










しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

処理中です...