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一年生・冬の章
クリスマスプレゼント③
しおりを挟む「先ほどはとんだご無礼を!!お代はいいので、皆様お乗りください。むしろ乗っていただきたい……!」
御者は慌てて馬車の扉を開けて涙ながらにそう言うと、フィンは目を見開く。
「え、あの、僕も乗っていいんですかっ……?」
貴族じゃない自分が乗ってもいいのかと遠慮がちになるフィン。
「もちろんですとも……!さあさあどうぞ」
「ありがとうございます!でも、ちゃんとお代は払いますからっ。どうか泣かないでください」
フィンは嬉しそうに笑みを浮かべぺこりと御者に頭を下げると、申し訳なさそうに御者にハンカチを渡す。
御者はそのハンカチを受け取るとさらに涙を流し、フィンの心の綺麗さに胸を打たれた。
「(あんな態度を取ってしまったのに、この子はなんて優しいんだ。なるほど、冷徹なシュヴァリエ公爵に大事にされる理由が分かったぞ)」
心優しきフィンの裏で、双子はじとっとした目線を御者に送る。
「フィンにめんじてここはゆるしてやろう」
「でもにいさまには言おう」
「うん、そうしよう」
「フィンやさしすぎるな」
「だな」
こそこそと話す双子に冷や汗が止まらない御者は、三等地までの道中生きた心地がしなかった。
馬車を降り目的地に着いた三人。開放的なお店はテラス席も盛り上がっており、賑わう店内の様子に双子は初めての雰囲気を感じ取って目を輝かせる。
「いいにおい」
「にぎやか」
明るく賑わう声と、食欲をそそる匂いに双子はうずうずと体を動かした。
「(よかった、喜んでる)」
フィンは小さく笑みをこぼす。三等地が肌に合わなかったらどうしようと悩んでいたが、杞憂に終わりほっとした。
「あらフィンちゃん!きてくれたのねー!」
「セルナさん、こんにちはー」
ウェイトレスのセルナは、入店したフィンを見ると嬉しそうに駆け寄り声をかける。店によく来るフィンと顔馴染みなのか、嬉しそうな様子のセルナを双子はじーっと見上げた。
「あらっ!?あれれ!?今日は珍しいお客様をお連れしてるわね!?」
普段ルイとセオドアを連れてくるだけでも驚いていたが、まさかシュヴァリエ家の双子を連れてくるとは思わなかったセルナは目をギョッとさせる。
「しかもシュヴァリエ家の双子!お噂はかねがね、とても可愛い……」
セルナはほわわんと嬉しそうに笑いおさげを揺らしながら双子を見つめるも、途端にハッとした表情を浮かべる。
「いけない私ったら!貴族のおぼっちゃまにとんだご無礼を!フィンちゃん、一応奥の半個室も空いてるけどどっちがいいかしら!?」
「えと……いつも通りでいいですよ!この子達もそっちの方が嬉しそう。でもテラスはちょっと寒いから、中にしてもらえますか?」
双子は普段来ないような店にワクワクしながら周辺を見回していたため、フィンはそれを見て賑わう店内の中心の席を選んだ。
「こちらメニューですっ」
セルナはメニューを1つ手渡すと、三人で一緒にメニューを眺める。その様子をセルナはほんわかした表情で見守った。
「そういえば、ルイ様とセオドア様と来た時もあんな風に三人でメニューを覗き込んでたなぁ。貴族はあんまり三等地に来ないから、珍しそうにしてたし」
セルナは初来店した三人を思い出しほのぼのする。
「おにくあったー」
「おさかなあったー」
「僕はグラタンにしよっと」
豊富なメニューの中から食べたいものを決めた三人は、注文を終えて料理を待つ。賑わっている店内だが、さすがにシュヴァリエ家の双子がいるとギョッとした表情をしている人も多かった。するとそこに、常連客のジョアシャンが食事を終えたところでフィンを見かけ近くまでやってきた。
「フィン坊!」
「ジョアシャンさん!偶然ですね」
爽やかな青年が突如現れ、警戒心を表す双子。ジッと睨み付ける様子にジョアシャンは目を見開いた。
「おおっと、そのナリはシュヴァリエ家の双子か?こりゃ失礼しました」
ジョアシャンは礼節を弁え挨拶をする。
「三人で遊びがてらご飯を食べに来たんです。シエル、ノエル。この方は三等地の警備をする憲兵団のリーダーだよ。何度かお店で会ううちに覚えてもらえたんだぁ」
「フィンのみかた?」
正直、双子にとっては仕事は役職などはどうでもよく、フィンに危害を及ぼさないかどうかが重要。シエルは首を傾げ問いかけると、フィンは大きく頷く。
「もちろん……!とてもいい方だよ」
フィンがふにゃっと笑みを浮かべると、シエルは安心したようにジョアシャンを見る。
「ジョアシャンは、フィンいじめない?」
ノエルは不安げにジョアシャンに問いかけた。
「いじめ……?もちろんいじめませんよ。道中なにかあったんですか?」
察しのいいジョアシャンは片膝をつき質問すると、ノエルはぷくーっと頬を膨らませた。
「フィンさっきいじめられた」
「お馬さんにのせてもらえなかった」
「きぞくじゃないからって」
「ふぃんはにいさまの“だいじ”なのに」
不満げに語る双子にフィンは慌てふためく。
「わわ、そんなこと言わなくていいよーっ!あの、気にしないでくださいジョアシャンさん。馬車にはシエルとノエルのおかげでちゃんと乗せてもらえたので」
ニコリと笑うフィンに、ジョアシャンは眉を顰めた。
「まったく、良い人ほど損をする。大方、一等地の御者だろう?あそこに常駐する御者は上流貴族の客が多い影響で、自分も偉くなったような気になってプライドが高い」
「そう、なんですね……でも、僕はそもそも本来一等地で過ごせるような身分じゃないので、仕方ないです」
フィンは困ったように眉を下げると、双子は納得がいかない様子で頬を膨らませた。
「フィンいじめるのゆるさない」
「フィンこまらせるの、めっ!」
フィン思いの双子を見たジョアシャンは、クスッと笑みを浮かべてからフィンを見る。
「帰りはいい御者を常駐させておく。ひとしきり楽しんだら奥の十字路にいる緑のリボンをつけた馬に乗って帰るといいよ。話は通しておくから」
ジョアシャンはそう言って立ち上がる。
「えっいいんですか!?助かります……!」
フィンは慌てて席を立ってぺこりと礼をした。
「それくらいさせておくれ。エスペランス祭でいいものを見せてもらったお礼さ。……二人とも、フィン坊を守ってあげてください。“頼もしい”お二人にお任せします」
ジョアシャンがそう言って双子に頭を下げると、二人は得意げに頷く。子供扱いせず頼もしいと言われ嬉しいのか、二人はジョアシャンに満面の笑みを浮かべた。
「フィン守る!」
「ジョアシャンいいやつ!」
ジョアシャンは双子の笑みにつられて同じように笑いかけた。
「ははっ、元気があっていい子だ。それでは失礼します。それじゃあフィン坊、仕事に戻るよ。またね」
「はい!またっ」
フィンはぶんぶんと手を振って見送る。同時に料理が来たため、三人はしばらくの間食事を楽しんだ。
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