280 / 318
一年生・冬の章
クリスマスプレゼント②
しおりを挟む「いいかノエル、にんむはかならずせいこうさせるぞ」
「らじゃー、フィンはぼくたちが守る!」
“フィンを守る”というリヒトから授かった任務を胸に刻む双子。一等地を歩く道中、危険がないかきょろきょろと辺りを見回していた。
「二人とも、そんなにきょろきょろしてどうしたの?」
フィンはそんな双子に気付き首を傾げたため、双子はハッとした表情をした。
「「なんでもない」」
「そっかあ。よそ見して転ばないようにね?」
フィン自身も、まだ幼い双子を守らなければならないという意識がある様子でふわっと笑いながら注意を促す。その瞬間、フィンのお腹がぐぅーっと鳴った。
「あっ」
フィンは顔を赤くする。
「フィンおなかすいた?」
「すいた?」
「えへへ、もうお昼時だから空いちゃった」
照れ笑いを浮かべるフィン。
「ぼくもすいた」
「すいたね」
「二人とも、何食べたい?」
フィンの問いかけに、双子は同時に答える。
「おさかな!」
「おにく!」
意見の分かれた双子は、フィン越しに目を合わせムッとする。
「おさかながいいー!」
「やだやだ!おにくがいいー!」
「おさかな!」
「おにくー!!!」
「「フィンはどっちー!?」」
「えぇ!?」
シエルは魚料理を所望するが、ノエルは肉料理を所望している様子。意見が割れ喧嘩ムードの二人に対し、フィンは困ったように笑った。
「喧嘩しないでよーふたりとも。ああそうだ、どっちも食べられるお店にいこうか?」
色々な料理を揃えているレストランを目指す三人だが、“本日臨時休暇”という貼り紙を見た三人はキョトンとする。
「ありゃりゃあ、お休みだ」
こうなると専門店のお店しか周辺にないと困ったフィンは悩む。
「おさかなー!」
「おにくー!」
未だに意見が割れる双子。フィンは「困ったな」と呟くと、何かを思いついた様子で方向転換する。
「二人とも、三等地は行ったことある?」
貴族だらけの一等地に対し(図書館は例外)、三等地は中流階級も足を運ぶようなエリア。
「んーん、なあーい」
「ないよねえ」
普段一等地にしか足を運んだことがない二人は同時に首を傾げた。
「そっかあ。三等地にも美味しいレストランがあるんだけどどうかな……?リヒトとは行ったことないんだけど、友達とはたまに行くんだぁ」
ルイとセオドアと遊ぶ際に一緒に行くレストランを勧めるフィン。一等地のレストランよりも気軽に楽しめる雰囲気と、比較的安くて量も多く、なおかつ美味しい料理を気に入ってるため、ルイとセオドアとたまに行く場所だった。
ガヤガヤとした大衆的な雰囲気的に合わないかもと今までリヒトを誘ったことはないフィン。双子をそこに連れて行くのは少し抵抗があったが、魚料理も肉料理もあること思い出し何気なく誘った。
「にいさまが行ったことないおみせ!?」
「え?う、うん。三等地だしね」
「行く!そこいくー!」
リヒトが行ったことのない場所にフィンと行くことに喜ぶ双子。
「うふふ、よかった。じゃあ、ちょっと距離あるから馬車を借りようか」
三人は一等地の始まりまで歩き、常駐している馬車の御者を見つける。馬の手入れをしている様子で三人には気づかない御者に、フィンはそっと声をかける。
「あの、すみません」
声だけを聞き振り返る御者。
「どうかされました?(上等なコートを着ているが、貴族の証であるブローチはしていないな)」
品定めをするようにフィンを見た御者に、フィンは何も感じず通常通りにこっと笑みを浮かべた。しかし、背後の双子はそんな御者のちょっとした違和感に気付き眉を顰める。
「三等地まで行きたいのですが、お願いできませんか?」
「(三等地ぃ?おいおい、三等地から来たのかこのガキは)」
御者は髭を触りながら眉を顰める。
「三等地ねぇ。すまないが、この馬車は貴族専用だから。歩けば30分ぐらいで着くんじゃないか?」
冷たく突き放す御者に、フィンはしゅんとした表情を浮かべた。
「あ……そ、そうですか。ごめんなさい(僕は歩いてもいいんだけど、二人を歩かせるのはちょっと)」
フィンは困ったように双子に目を向けると、双子は幼いながらも溢れ出る怒りの魔力を漏らし御者を睨みつけていた。ここでようやく御者は双子の姿を目にしてハッとした表情を浮かべる。
「ヒッ……!!!!」
銀色の髪の双子といえばシュヴァリエ家。そして何より、双子の胸元にある光り輝く天秤の形をしたブローチが、シュヴァリエ家の一族だということを裏付けていた。
そして過ぎるのは大魔法師のリヒト・シュヴァリエ。御者はゴクリと唾を飲み冷や汗を垂らす。公爵家の双子が野良の馬車に乗るなど思いもしなかったため、膝をガクガク振るわせ自身の行動を振り返り青ざめていた。
「ということは、も、もしかして貴方様は、ミネルウァの……!」
そういえば、リヒト・シュヴァリエの後見人のフィン・ステラと特徴が一致していると今更ながら気付いた御者は慌てて態度を改める。ミネルウァに通う天才で、あのリヒトを後見人にするくらいの実力者だと噂されている彼を敵に回せば命はない。
しかし時すでに遅し、双子はムッとした表情でフィンの前に躍り出た。
「フィンをいじめたなー!!??」
シエルは御者を指差し大声で叫ぶ。
「にいさまに言ってやるぞー!!!」
ノエルも御者を指差し頬を膨らませる。
「ヒィィィィ!!!お許しください!!!申し訳ありませんでしたァァァァァ!!!」
御者は涙ながらに土下座をすると、フィンは慌てて双子を宥めた。
「ちょ、こらこら二人とも、僕は大丈夫だよ!?」
周辺にいた人々は、ヒソヒソと遠巻きに眺めながら御者に対し“公爵家を敵に回した”と哀れな目で見ている。
「あの、大丈夫ですからどうか立ってくださいっ!三等地まで行きたかっただけなんです……!僕は貴族じゃないので乗れませんが、この二人は乗せてあげてもらえませんか?この子達はシュヴァリエ家の子なので」
フィンはあくまでも双子を歩かせるわけにはいかないと御者に訴えかける。最悪自分は箒で飛べばいいだけの話なので、馬車に乗れなくとも全く気にしていなかった。
そんなフィンの無意識な言動が周囲の同情を煽り、より御者の立場が悪くなっていく。
「あ、でも離れちゃうと心配だなあ……別々になっちゃうのはだめだね」
フィンはしょぼんとした表情で双子を見つめる。公爵家の双子を預かっている身としては、二人に万が一のことがあれば大変だとフィンは二人の手を握った。
105
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる