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一年生・冬の章

クリスマスプレゼント②

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「いいかノエル、にんむはかならずせいこうさせるぞ」

「らじゃー、フィンはぼくたちが守る!」


 “フィンを守る”というリヒトから授かった任務を胸に刻む双子。一等地を歩く道中、危険がないかきょろきょろと辺りを見回していた。


「二人とも、そんなにきょろきょろしてどうしたの?」


 フィンはそんな双子に気付き首を傾げたため、双子はハッとした表情をした。


「「なんでもない」」

「そっかあ。よそ見して転ばないようにね?」


 フィン自身も、まだ幼い双子を守らなければならないという意識がある様子でふわっと笑いながら注意を促す。その瞬間、フィンのお腹がぐぅーっと鳴った。


「あっ」


 フィンは顔を赤くする。


「フィンおなかすいた?」
「すいた?」

「えへへ、もうお昼時だから空いちゃった」


 照れ笑いを浮かべるフィン。


「ぼくもすいた」
「すいたね」

「二人とも、何食べたい?」


 フィンの問いかけに、双子は同時に答える。


「おさかな!」
「おにく!」


 意見の分かれた双子は、フィン越しに目を合わせムッとする。


「おさかながいいー!」

「やだやだ!おにくがいいー!」

「おさかな!」

「おにくー!!!」

「「フィンはどっちー!?」」

「えぇ!?」


 シエルは魚料理を所望するが、ノエルは肉料理を所望している様子。意見が割れ喧嘩ムードの二人に対し、フィンは困ったように笑った。


「喧嘩しないでよーふたりとも。ああそうだ、どっちも食べられるお店にいこうか?」


 色々な料理を揃えているレストランを目指す三人だが、“本日臨時休暇”という貼り紙を見た三人はキョトンとする。


「ありゃりゃあ、お休みだ」


 こうなると専門店のお店しか周辺にないと困ったフィンは悩む。


「おさかなー!」

「おにくー!」


 未だに意見が割れる双子。フィンは「困ったな」と呟くと、何かを思いついた様子で方向転換する。


「二人とも、三等地は行ったことある?」


 貴族だらけの一等地に対し(図書館は例外)、三等地は中流階級も足を運ぶようなエリア。


「んーん、なあーい」

「ないよねえ」


 普段一等地にしか足を運んだことがない二人は同時に首を傾げた。


「そっかあ。三等地にも美味しいレストランがあるんだけどどうかな……?リヒトとは行ったことないんだけど、友達とはたまに行くんだぁ」


 ルイとセオドアと遊ぶ際に一緒に行くレストランを勧めるフィン。一等地のレストランよりも気軽に楽しめる雰囲気と、比較的安くて量も多く、なおかつ美味しい料理を気に入ってるため、ルイとセオドアとたまに行く場所だった。
 ガヤガヤとした大衆的な雰囲気的に合わないかもと今までリヒトを誘ったことはないフィン。双子をそこに連れて行くのは少し抵抗があったが、魚料理も肉料理もあること思い出し何気なく誘った。


「にいさまが行ったことないおみせ!?」

「え?う、うん。三等地だしね」

「行く!そこいくー!」


 リヒトが行ったことのない場所にフィンと行くことに喜ぶ双子。


「うふふ、よかった。じゃあ、ちょっと距離あるから馬車を借りようか」


 三人は一等地の始まりまで歩き、常駐している馬車の御者を見つける。馬の手入れをしている様子で三人には気づかない御者に、フィンはそっと声をかける。


「あの、すみません」


 声だけを聞き振り返る御者。


「どうかされました?(上等なコートを着ているが、貴族の証であるブローチはしていないな)」


 品定めをするようにフィンを見た御者に、フィンは何も感じず通常通りにこっと笑みを浮かべた。しかし、背後の双子はそんな御者のちょっとした違和感に気付き眉を顰める。


「三等地まで行きたいのですが、お願いできませんか?」

「(三等地ぃ?おいおい、三等地から来たのかこのガキは)」


 御者は髭を触りながら眉を顰める。


「三等地ねぇ。すまないが、この馬車は貴族専用だから。歩けば30分ぐらいで着くんじゃないか?」


 冷たく突き放す御者に、フィンはしゅんとした表情を浮かべた。


「あ……そ、そうですか。ごめんなさい(僕は歩いてもいいんだけど、二人を歩かせるのはちょっと)」


 フィンは困ったように双子に目を向けると、双子は幼いながらも溢れ出る怒りの魔力を漏らし御者を睨みつけていた。ここでようやく御者は双子の姿を目にしてハッとした表情を浮かべる。


「ヒッ……!!!!」


 銀色の髪の双子といえばシュヴァリエ家。そして何より、双子の胸元にある光り輝く天秤の形をしたブローチが、シュヴァリエ家の一族だということを裏付けていた。
 そして過ぎるのは大魔法師のリヒト・シュヴァリエ。御者はゴクリと唾を飲み冷や汗を垂らす。公爵家の双子が野良の馬車に乗るなど思いもしなかったため、膝をガクガク振るわせ自身の行動を振り返り青ざめていた。


「ということは、も、もしかして貴方様は、ミネルウァの……!」


 そういえば、リヒト・シュヴァリエの後見人のフィン・ステラと特徴が一致していると今更ながら気付いた御者は慌てて態度を改める。ミネルウァに通う天才で、あのリヒトを後見人にするくらいの実力者だと噂されている彼を敵に回せば命はない。
 しかし時すでに遅し、双子はムッとした表情でフィンの前に躍り出た。


「フィンをいじめたなー!!??」


 シエルは御者を指差し大声で叫ぶ。


「にいさまに言ってやるぞー!!!」


 ノエルも御者を指差し頬を膨らませる。


「ヒィィィィ!!!お許しください!!!申し訳ありませんでしたァァァァァ!!!」


 御者は涙ながらに土下座をすると、フィンは慌てて双子を宥めた。


「ちょ、こらこら二人とも、僕は大丈夫だよ!?」


 周辺にいた人々は、ヒソヒソと遠巻きに眺めながら御者に対し“公爵家を敵に回した”と哀れな目で見ている。


「あの、大丈夫ですからどうか立ってくださいっ!三等地まで行きたかっただけなんです……!僕は貴族じゃないので乗れませんが、この二人は乗せてあげてもらえませんか?この子達はシュヴァリエ家の子なので」


 フィンはあくまでも双子を歩かせるわけにはいかないと御者に訴えかける。最悪自分は箒で飛べばいいだけの話なので、馬車に乗れなくとも全く気にしていなかった。
 そんなフィンの無意識な言動が周囲の同情を煽り、より御者の立場が悪くなっていく。


「あ、でも離れちゃうと心配だなあ……別々になっちゃうのはだめだね」


 フィンはしょぼんとした表情で双子を見つめる。公爵家の双子を預かっている身としては、二人に万が一のことがあれば大変だとフィンは二人の手を握った。











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