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一年生・冬の章
クリスマスプレゼント①
しおりを挟む「フィンとおでかけー」
冬の装いで手を上げて喜ぶシエル。
「やったー」
同じく、冬の装いで手を上げて喜ぶノエル。二人はハイタッチしてからリヒトを見上げる。
「にいさまはおるすばーん」
ノエルはニヤニヤしながらリヒトを見る。
「おるすばーん」
シエルも同じようにニヤニヤしながらリヒトを見た。
「…………」
リヒトは腕を組み複雑そうに双子を見下ろす。
激務続きのリヒトの仕事も落ち着き、丁度冬休みに突入したフィンと久しぶりにゆっくりしようと思った矢先のこと。双子がフィンと出かけたいと姉のエヴァンジェリンに訴え、三人でランチに行くことになった様子。
もちろんフィンは快諾したが、ゆっくりフィンと過ごせると思っていたリヒトは不満げな表情で双子を見下ろし続けた。
「にいさまおこってる」
「すねてる」
「いっつもひとりじめしてるのに」
「ねー」
双子はこそこそと耳打ちしながらニヤニヤと笑みを浮かべる。
「聞こえてるぞ」
「!」
リヒトの低い声にビクッと肩を震わせる双子。
「まぁいい。フィンも久しぶりにお前たちと出かけられるのが嬉しそうだからな」
リヒトは諦めたように溜息を吐くと、ぽんぽんと双子の頭を撫でてから片膝をつき目線を合わせ真剣な眼差しを向けた。双子はそんなリヒトの姿に不思議そうな表情を浮かべる。
「いいか、フィンはよく転びそうになる。お前たちが手を繋いでさりげなく支えてやれ」
「「!?」」
何を言い出すかと思えば、フィンの取り扱い説明を始めるリヒト。双子は一気に真剣な表情になり頷く。
「それと、不審者に気を付けろ。分かっていると思うがフィンは世界で一番可愛い。拐かされぬよう最新の注意を払え」
「かどわかされるってなあに?」
シエルが問いかける。
「誘拐、といえば分かるか?フィンが知らない奴に連れて行かれることだ。フィンは強いがたまに抜けているところもあるから、子供のお前たちに頼むのもおかしな話しだが注意してくれ」
「フィンはぼくたちがまもる!」
「まもるー!」
双子はそれぞれ片手をあげ真剣な表情でリヒトを見上げた。
「ああ。頼んだぞ」
リヒトは小さく笑ってから立ち上がり、何かを思い出したような顔で口を開く。
「そうだ。……もしフィンが何か気になる物を見つけていたら、こっそり教えてくれないか。いつも遠慮して何も欲しがらないんだ。そろそろクリスマスだから、プレゼントは何を送ろうか迷っていてな」
フィンのことになると柔らかい表情で話すリヒトに、双子はほわんとした表情を浮かべた。
フィンと出会ってからのリヒトは不思議と壁を感じず関わりを持つことが多くなったため、双子は兄という存在を畏怖対象ではなく“フィンのことが大好きな兄”として捉えている節がある。前は氷のような冷たい印象の瞳も、温かみを含むようになったからか怖いと思わなくなった。
「わかった、がんばる」
「がんばる」
「このことは内緒だぞ」
「「はい、にいさま」」
双子は頷いてから顔を見合わせてにぱっと笑みを浮かべる。するとそこに、支度を終えたフィンがやってきた。
「おまたせー!えへへ、この間リヒトが買ってくれたコート着てみたよー」
リヒトから貰った暖かそうな真っ白なコートと手袋を身に付けたフィンは、嬉しそうに笑って一回転する。柔らかく愛おしい表情を見たリヒトは、目を細め思わず無意識に笑みが溢れていた。
「あの、似合ってるかな……?」
何も言わないリヒトにおずおずと問いかけるフィン。
「ああ。すごく似合ってる、可愛い。今年はよく冷えるから防寒性の高いものを着た方がいい。いくら北部出身でも、体は冷やさない方がいいからね」
リヒトがフィンの頬を撫でそう言うと、照れながらも嬉しそうに顔を赤らめるフィン。
「あ、ありがとうっ……!んー、こんな暖かいコート初めて」
おそらく庶民では手に入らないような高級コートなのであろう。驚くほど肌触りが良く尚且つ暖かいのに、重量はそこまで重くない。フィンはファーの部分に頬を寄せて感触を楽しみながら満面の笑みを浮かべた。
「フィンかわいいねえー」
「かわいいねえー!」
双子は顔を見合わせて嬉しそうに笑い、フィンに思いきり抱き着いた。フィンはそれを受け止めじーんと目を潤ませる。
「ううううっ。シエルとノエルもかわいいよおー」
双子を溺愛するフィンは思わず二人に抱き着いて愛情を表現すると、リフトは少し羨ましそうな表情を浮かべた。血を分けた弟でも、フィンの愛情が分けられるのが不満の様子でじとーっとフィンを見る。
その視線に気付いたフィンは、ハッとして慌ててリヒトにも抱きついた。
「あのっ、暗くなる前には帰ってくるからねっ!?」
フィンはリヒトを強く抱き締めながら見上げる。リヒトは双子に聞こえないよう、フィンの耳に唇を寄せ耳打ちをし始めた。
「……寂しい」
リヒトから囁かれたシンプルな感情の吐露に、フィンは目を見開き顔を赤くする。少し甘さの含む切なげな声色を聞いたフィンは、胸に突き刺さるような切なさを感じ瞳を震わせた。リヒトはすぐに離れ、小さく笑って頭を撫でる。
「いってらっしゃい。気を付けて」
これ以上引き留めると離したくなくなる、という本音を隠したリヒトは、何事もなかったかのように見送る。
「っあ……い、行ってきます!」
「「いってきまーす!」」
フィンは少し動揺しつつも、双子に連れられるようにしてその場を後にした。
「(びっくりした……リヒト、あんな声で“寂しい”なんて言うから、心臓が)」
フィンは頬が火照るのを感じながら振り返り、閉まる扉の隙間から見えたリヒトの顔を確認する。小さく笑ってはいるものの、その瞳は寂しげで、フィンはまたもや切ない気持ちに襲われた。
「(リヒト……帰ったらいっぱいぎゅうってしよ)」
「「ふぃんー!いこー!」」
シエルは右手、ノエルは左手の方に回りフィンを間に挟む形で手を繋いだ。元気な双子の声を聞いたフィンは、とりあえず今は双子達との時間を楽しもうと手を握り返し歩き出す。
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