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一年生・冬の章

贖罪のシスター②

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 扉を開いた先には、教会の中心に固まって身を寄せ合っていた幼い子供達と、修道服を纏ったシスターがいた。
 王族騎士団の登場に安堵したのか、全員の表情が緩み顔を見合わせる。


「王族騎士団が来てくれましたわ」

「!」

「きしだんー!!」


 一人の若いシスターがそう言うと、子供達は手を上げて喜ぶ。シルヴァンはその集団に近寄ると敬礼をした。


「王族騎士団の団長を務めるシルヴァンと申します。後ろにいるのが部下のハインリッヒ、そしてローエンです。修道院の皆様はご無事でしょうか?」


 ひとまずは安全確認をするシルヴァンの問いかけに、神妙な面持ちのシスターが口を開いた。


「私が説明しましょう。この修道院でシスターを務めるレイザと申します。ご存じの通りこの孤児院はローザリオンの中でも最も帝国領に近いのですが、国境付近の警備もありますのでこれまで何もなく過ごして参りました。ですが、ほんの数時間前に突然帝国兵と思わしき集団に襲われたのです」


 レイザは祈りのポーズで挨拶をすると、そのまま説明をする。


「幸い、新人のシスター・ローザが私達を庇ってくれたのですが、帝国兵の数名がまだ三歳の孤児“ロン”を人質にして逃走したのです。おそらく、帝国領の方まで逃げているのを追いかけているかと」

「……」


 シルヴァン達は顔を見合わせる。辺りを見回すもローザの姿が見当たらなく、シルヴァンは神妙な面持ちで口を開いた。


「状況は分かりました。ここからは我々にお任せください。ハインリッヒ、ローエン。この場を頼む。数名負傷者がいるようだから手当と本部に連絡を。私はローザを追いかける」


 シルヴァンはそう言ってその場を後にしようとするが、ハインリッヒはローエンを一瞥しシルヴァンの後ろをついていく。ローエンは「はいはい」と小さく呟き手を振った。


「団長。一人は危険ですのでお供します。負傷者の治癒と本部の連絡はローエンで事足りるでしょう」

「っ、お前はまた勝手に……まぁいい、分かった。ローエン、手が足りないようなら外に回ってる奴らを数名呼び戻しておけ」

「了解です」


 シルヴァンとハインリッヒはそのまま国境へ続く森の中へと侵入しローザの行方を追う。


「走っては間に合わん。私は飛ぶぞ」

「了解。それでは地上を注意深く見ながら、地面を走ります」


 シルヴァンは頷くと箒を召喚し、枝にぶつからないように国境を目指す。ハインリッヒは一呼吸置いてから目を光らせ、足に魔力を集中させると凄まじいスピードで木々の合間を移動し始めた。身体強化魔法が得意なハインリッヒは、箒で飛ぶよりも得意な移動方法。
 目を光らせる人の気配を探るハインリッヒは、道中に倒れている帝国兵を見つけると立ち止まる。


「おい、貴様」


 ハインリッヒは帝国兵の肩を揺らし様子を伺った。頭から出血しているが、息はしている。


「うぐっ……」


 うっすら目を開ける帝国兵。抵抗する気力もないのか、動く気配すらない。


「ローザがやったのか?」

「ひっ」


 ローザという名前を聞いた帝国兵は、ブルブルと震え始める。痛い目にあったのか、嫌な記憶が蘇った様子だった。


「知っているだろうが、あれはただのシスターではない。貴族落ちではあるが、名門の元伯爵家令嬢。一筋縄ではいかないぞ」


 ハインリッヒはそう言って帝国兵に拘束魔法をかけると、最新の通信魔法機“オルトリンク”を起動させる。


「こちらハインリッヒ。北西の位置に残党1名発見、捕獲しているので運搬は任せたぞ」


 小さな砂嵐の後、ローエンが反応を見せた。


「了解、ピクスを向かわせます」

「了解」


 通信を消したハインリッヒは、オルトリンクを眺める。


「試験的に導入されている最新鋭の通信魔法機とやら、半信半疑だったが結構便利だな」


 ハインリッヒはそう呟き、シルヴァンの後を追いかけた。
 一方のシルヴァンは、国境手前まで到着すると木々の隙間からローザと帝国の残党二人の姿を確認する。
 帝国兵の一人はロンを抱え首にナイフを当てており、いつでも殺せるぞと言いたげに表情を歪ませていた。ロンは恐怖のあまりガタガタ震え涙を流す。


「(これでは下手に動けないな)」


 シルヴァンは無闇に飛び出すことをせず、ハインリッヒにオルトリンクでこっそり位置を知らせ木陰に待機した。そして、周辺のネズミを操り話を盗聴することにする。


「どうだシスター・ローザ、いや、伯爵家令嬢、“ローザ・モリス”。我々の仲間にならないか」

「(やはり狙いはローザだったか)」


 シルヴァンは眉を顰める。


「お前は力を持つのにも関わらず、ちょっとした粗相で国に見捨てられた哀れなレディだ。聞けば君にはあのシュヴァリエ家の“アカシックレコード”が効かない血筋だそうだな?そんな重要な血筋の者をこんな辺境の地に追いやるなんて、この国は頭が悪いようだ」


 声高らかに笑う帝国兵に対し、ローザは冷静な様子で口を開く。


「……つまり、貴方達は私の力を目当てにいらっしゃったのですか?」

「そうとも。お前をここまで誘き寄せて交渉するのが目的だった。このガキは交渉材料、人質ってワケさ」


 シルヴァンはネズミの視界からローザの表情を確認する。終始真顔で、少し何かを考えているようだったローザは口を開いた。


「私が協力すれば、ロンは返していただけるの?」

「もちろんさ」

「そう。それならいいですわ。協力します。その子には何も罪はありませんもの、離してあげてくださいます?」


 ローザの問いかけに、帝国兵はニヤリと笑みを浮かべた。


「話が分かる奴でよかった。そうだなぁ……タダでこのガキを離すには勿体ない」


 帝国兵の一人はローザの豊満な胸を見るとニヤリと笑みを浮かべる。


「ここはひとまず、その修道服を脱いでもらおうか、シスター・ローザさんよぉ」


 帝国兵は下衆な笑みを浮かべそう指示すると、ローザは少し眉を顰める。


「(下衆が)」


 盗聴していたシルヴァンはギリリと歯を食いしばった。しかし、ローザは躊躇いもなく服を脱ごうと動き出す。



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