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一年生・冬の章

リヒトの欲しいもの④

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「リヒトが僕にずっと一緒にいて欲しいって思ってくれてるの、すごく幸せ。ここにいていいんだぁって安心できるから」


 フィンは今までのことを思い出し、その全てに幸せな気持ちしかなかったことを振り返る。裏にどんな理由があったにせよ、どれも根底には愛情しかない。
 あのままリヒトと出会っていなければ、自分はきっとこんな幸せに過ごすことは出来なかった。リヒトから何かを享受するたびに居場所が出来ていく気がして心地が良かった。


「リヒトが選んでくれるお洋服も、ご褒美で買ってくれるチョコレートも、僕のために作ってくれた世界に一つしかない魔法の杖も、僕を守るためにくれたこのブレスレットも嬉しくて」


 フィンは身振り手振りで話をする。


「あとね、おやすみとおはようのキスも、寂しそうに言う“いってきます”と“いってらっしゃい”も、嬉しそうに言う“ただいま”と“おかえり”も」


 フィンはリヒトの声や表情を思い出し、出会いから今までのリヒトとの思い出を振り返りながら溢れ出るシーンを切り取って言葉にした。


「僕が“好き”って言ったら、たまに泣きそうになりながら抱き締めてくれるリヒトが僕は大好きで、それでっ」

「リヒトが意外と寒がりで僕のこと湯たんぽにしちゃうところとかも可愛くてっ」

「僕の帰りがちょっとでも遅かったら心配して玄関にいたりとかっ」

「っ……フィン、わかった、わかったから」


 リヒトはいい加減恥ずかしいと顔を少し赤らめフィンの口を手で覆うと、フィンはピタッと話すのをやめて瞬きを繰り返す。


「それ以上は恥ずかしいからやめてくれ」


 自らが吐露した支配欲を受け入れて貰えるか、という不安は杞憂に過ぎなかった。リヒトは降参だと言いたげな表情で目を逸らしながら小さく笑う。


「捨てるなんて価値観、俺は持っていないって分かってもらえたらそれでいい」


 口を塞がれたフィンはそのまま小さく頷いた。
 少し考えて振り返れば分かることを、くよくよと悩んでしまった自分が恥ずかしいとフィンは眉を下げる。


「……ごめん、責めている訳ではなくて。不安になる気持ちは俺にも分かる」


 リヒトはそっとフィンの口を塞ぐ手を下ろした。


「俺は、フィンから物が欲しいわけじゃない」

「……?」


 宝石のようにキラキラした瞳をでリヒトを見つめ次の言葉を待つフィン。


「俺の欲しい物は、もう手に入ってるんだ」


 リヒトの話にフィンが首を傾げていると、リヒトはクスッと笑いながらフィンを抱き上げ向かい合うように自身の膝に乗せた。
 座り慣れたリヒトの膝だが、突然のことにフィンは驚きつつもじっと大人しくリヒトを見つめる。


「勿体ないくらいフィンから毎日貰ってる」

「僕がリヒトに……?」


 フィンは自分が何かを与えている自覚がないため、リヒトの言葉を聞いてもピンとこない様子だった。


「うん。なんだと思う?」


 リヒトが問いかけると、フィンは頭上に「?」を撒き散らせながら必死に目を閉じて考える。


「毎日僕があげているもの……?えー?」


 フィンが本気で悩んでいる様子が可愛かったのか、リヒトはニヤニヤと笑ってそれを眺めていた。


「あ!わかった!」

「ん、なに?」

「リヒトが残した朝ご飯を僕が食べてることー?」

「それじゃあフィンが貰ってるってことになるけど」


 リヒトの的確な突っ込みにフィンは照れ笑いを浮かべる。


「そ、そうだった、ちがった……」

「(頭はすこぶる良いのに、なぜ普段こんなに抜けてるんだ。可愛い)」


 リヒトが笑いを堪えていると、フィンはまたもや思い付いたのか口を開く。


「ねんねする前のぎゅー?」

「んー、ニュアンスはそんな感じかな」


 リヒトはフィンの腰を支えつつ答える。フィンは再び考えると、またもや思い付いたように表情を明るくさせた。


「リヒトが寝てる時にしてるちゅー?」

「俺が寝てる間、そんなことしてるの?」

「あっ」

「ふーん……寝てる間にねぇ」


 フィンは指摘されると次第に顔を赤くし自身の顔を手で覆う。


「た、たまにだもん」

「ふーん?(寝たふりしてるが)」


 眠ったフリをするとよくフィンがこっそりキスをしてくれるため、リヒトは時々眠ったフリをすることがあった。
 それにまんまと騙されたフィンは、本人が起きているとは知らず額や唇によくキスをしている。自分でバラしてしまったため、フィンはやり場のない羞恥心に耐えながら手をバタつかせた。


「リヒトだってするくせにっ」


 フィンの放った言葉に、リヒトは少し驚いた表情を浮かべる。


「あれ、起きてたの?気付いてたんだ」

「ええ!?本当にしてるの!?」


 意図せず鎌をかけたようになってしまったフィンは顔を赤くする。


「うん。そりゃあ通算何百回も」

「うそーっ!?」

「フィン爆睡したら全然起きないから、し放題」


 リヒトはそう言ってフィンの唇を親指で撫でながら不適な笑みを浮かべる。


「むー。ねぇ、僕があげてるものってなに?教えてよっ」

「……内緒」


 リヒトは口角を上げて人差し指を自身の唇に当てた。


「えー!気になるー!」

「ははっ、寒い中上着着ないで外に出ちゃうフィンには教えない」


 リヒトはそう言って確かめるようにフィンの背中を服の上から撫でると、裾のスリットから手を滑り込ませて体温を確かめる。


「ほら、まだちょっと冷えてる。何時間も上着なしで外にいたんだね」

「……北部より暖かいから、つい」


 北部出身のフィンは、王都の冬が比較的厳しくないことを肌で感じ上着を着るという行動に出なかったと言い訳をする。


「この間上着を渡しただろう?これからは出かける時はそれを羽織ってって言ったけど?」

「うう……ごめんなさい」


 フィンは両手の人差し指を合わせておずおずとリヒトを見ながら謝罪した。


「学校も、冬服になっているんだから間違えないようにね」

「はい……間違えないように秋服はしまいましたっ」


 フィンは必死にそう伝えると、リヒトは満足そうに笑った。


「ん、良い子。一緒にお風呂入ろうか」

「うん!」


 冷えた体を温めようとリヒトはフィンをお姫様抱っこし浴室へ向かっていく。





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