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一年生・冬の章

贖罪のシスター①

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「これは……一体何が」


 ローザリオン王国最北端の地・ホワイトヘヴィサイドに到着したシルヴァンは、国境近くにある“ミセリコルデ修道院”に駆け付けると、その惨状を目にして冷や汗をかく。
 大雪の中炎上する修道院。入口は半壊状態でとても入ることが出来ずシルヴァン含めた隊員達は驚きを隠せずにいた。
 修道院にいるローザの行方もさながら、ここにいるシスター達は生きているのだろうか。シルヴァンは歯を食いしばりながら雪道を歩く。


「遅かったのか……?」


 騎士団の北部拠点まではリヒトが監修したテレポートスフィアという最近発明された転移装置が開通されているため、それを利用してかなり時間を短縮させている。かなり急ぎで向かったが、北部の領土はかなり広く最北端まで行くとなるとかなり時間がかかったのは事実。
 シルヴァンは凍った地面を眺めながら、入口から右に回って建物を確認した。


「あそこなら入れそうだな」


 損壊の影響で比較的中に入れそうな穴を見つけ、シルヴァンは意を決したように振り返り命令を下す。


「アルム、シーラ、コルトルクは水魔法で修道院の鎮火及び外周の状態調査を進めろ。イズミは入口前の見張り待機、ハナビは裏に回って見張り待機。リリアン、ピクスは修道院近くに異変がないか調査をしろ。残り、ハインリッヒとローエンは私と一緒に中を捜索する。いいな?」


 シルヴァン直結の部下総勢9名の精鋭達は一斉に敬礼をする。


「御意」


 シルヴァンは先頭に立ち、周囲に気を配りながら中へ侵入する。


「隊長、先頭は自分が行きますよ。万が一のことがあったら困るんで」


 無愛想な声色と、一重で三白眼の瞳が目付きの悪さを強調している隊長のハインリッヒが名乗りを上げたが、シルヴァンは眉を顰めそのまま歩いた。


「ハイン。不要な心配をするな、私が先頭じゃ不満な……」


 シルヴァンの話途中、頭上から瓦礫が一気に落下してきたため、ハインリッヒはいち早くそれに気付き全身を鋼に変えシルヴァンを守る。
 大柄なハインリッヒは、シルヴァンを覆うような体勢で重たい瓦礫を一身に受け、冷静な様子で片手で薙ぎ払っていくと仏頂面で先頭に出た。


「不満ではありませんが、こういうことがあるので自分が前を歩きます。自分の固有魔法ハイスキルは今の状況でならかなり生きるかと」


 シルヴァンはハインリッヒの申し出を断る理由が無く、気まずそうな表情で頷く。


「…………すまないが、任せる」

「御意」


 ハインリッヒはそれから先頭を歩き始めると、固有魔法“鋼鉄化フルメタル”を使用して時折崩れ落ちる柱を薙払い勇敢に進んでいった。
 シルヴァンの後ろでは、回復術を得意とする副隊長・タイニーエルフのローエンが注意深く後ろを警戒しつつ前に進んでいる。


「不気味なほど人の気配がありませんね」


 ローエンは眉を顰めながら集中した様子で周囲に目を配り気配を感じ取ろうとするが、帝国兵らしき人影も、修道院の者も見当たらない異様な光景に眉を顰めた。


「しかし、あの燃え上がる火の感じを見てもここ数時間以内に起こった襲撃だったのは間違いない。問題は、この付近で国境警備にあたっている兵士が沈黙していることだ。これだけの被害があれば報告が来てもおかしくないはずだが」


 シルヴァンは細かい瓦礫を足で払いながら訝しげにそう言うと、ハインリッヒは迷わずに口を開いた。


「おそらく、気絶しているか眠らされているか、あるいは殺られているか。この場所を狙うなら、国境付近の兵士を狙って最短ルートで来るはずですからね。そして、修道院をわざわざ狙うなんて思いませんからこちら側も手薄になっていました」

「……私がもっと早くに気付けば。ローザ・モリスをここまで送致する手配は全て私の管轄だった。迂闊だ。シュヴァリエ公爵の勘があたっているなら、最早ローザ・モリスは帝国側に連れ去られている」


 シルヴァンは眉間に皺を寄せた。


「帝国側に渡れば簡単には手を出せない」


 続け様に放たれたシルヴァンの一言に、二人は緊張感を露わにした。
 小さな聖堂の扉前まで辿り着いたところで、シルヴァンはある違和感に気付く。3人は横並びで大聖堂の扉前に立つと、異常なほどに綺麗に保たれた扉を見て顔を見合わせた。


「どうやら、こちらから奥は損傷が無いようですね。この扉周辺の壁も綺麗です」


 ローエンが扉周辺を見上げながらそう発言すると、シルヴァンは興味深そうに顎に手を当てて考える素振りを見せた。


「この教会から先は何かに護られている。触れれば弾かれるような強力なバリアを感じるな……」


 シルヴァンはこの先に誰かがいることを予想する。


「帝国兵が立て篭もっているとは考えにくいですね」


 ハインリッヒはそう言ってシルヴァンを見下ろした。


「声をかけてみましょうか」


 ハインリッヒがそう尋ねると、シルヴァンが小さく頷いたため口を開き扉の向こうへ声をかけ始めた。


「王族騎士団、第一部隊所属、隊長のハインリッヒ・フラウドです。生存者はいますか?中にいるのがこの修道院の者なら開けてください。我々は味方です」


 ハインリッヒの問いかけが届いたのか、バリアがふっと消え失せたため三人は目を見合わせる。
 シルヴァンが扉を開こうとすると、ハインリッヒがそれを阻止して再び先頭に躍り出た。


「開けます」


 ハインリッヒはゆっくりと扉を開ける。



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