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一年生・冬の章
王子は大魔剣師を労いたい②
しおりを挟む「で、店員さん。ぶっちゃけどうなんです?面白いと思いますか?例の本」
タバサはシルフィーの問いかけに一瞬目を丸くした後、クスッと笑みを浮かべ口を開く。
「ふふふ。そうですね、小説というのはどんなものもファンとアンチがいるものです。”アイスクリームとフレンチトースト“をシルフィー様が面白いと思うかは私にも分かりませんが……これを読めば、当たり前の幸せが愛おしくなるかもしれませんね」
タバサは屈託のない笑みを見せてそう語ると、シルフィーは少しの間考えてから口を開く。
「……なるほど、当たり前の幸せかぁー。いいなあそういうの」
シルフィーはタバサの言葉にグッと来たのか、アレクサンダーの方を見て笑みを浮かべる。
「うん。決めた。アレク、買ってよ」
「!!!(シルフィーがおねだり)」
アレクサンダーは内心驚きつつも、王子の貫禄を失わないよう表情は冷静を装う。
「いいだろう。販売フロアに案内してもらおうか」
アレクサンダーは得意気にタバサに申し出ると、エリオットは少し笑いを堪えた。
「(嬉しそうだなーアレク)」
「承知しました。販売担当のスタッフを呼びます」
タバサが机の下のボタンを押すと別フロアに繋がる階段がどこからともなく出現する。その上にあった扉が開くと、そこにはバイト中のフィンの姿があった。
「お呼びですかエリア長!」
「販売のフロアにご案内してちょうだい」
「畏まりましたっ」
フィンは快諾し階段を降りると、三人の姿を見て目を見開く。
「ってあれぇっ!?」
「おー、フィンくん。今日シフトなんだね」
エリオットはヒラヒラと手を振る。アレクサンダーもそれに続いて手を振った。
「えー!?フィンちゃんってここで働いてたの!?……あ、でもそういえば報告書にそう書いてあったわね」
シルフィーはフィン見て驚くも、王族特務会議で見た資料を思い出しボソッと呟く。
「はい、そうなんです!いらっしゃいませ、ようこそミスティルティン図書館へ」
フィンはぺこりと挨拶をしてお決まりのセリフを言うと、三人を販売フロアに案内した。残されたタバサは、三人と仲が良さそうなフィンを見て「お知り合いなのね」と驚いた表情をしながら見送る。
フィンと共に販売フロアに移った三人は、ことの経緯をフィンに説明した。
二日酔いで目覚めた三人は、そのままシュヴァリエ本邸で我が家のようにシャワーを浴び着替え朝御飯までいただいてからでた様子。シルフィーが休暇に入るため何をしたいかという話になったところ、流行っている小説を読んでゆっくりしたいと言う話になってミスティルティンに訪れた、という流れだった。
「たまにはゆっくり読書もいいかなって」
「それじゃあ今日は、王子様がシルフィー様にプレゼントするんですねっ」
フィンはアイスクリームとフレンチトーストの置いてある棚まで案内する。
「これです。1番の最新作“蜂蜜の束縛”も人気ですけど、”アイフレ“もまだまだ人気なんですよ~」
フィンは人気小説家”エルム“の棚まで案内すると、にっこり笑みを浮かべさらに続ける。
「アイフレは戦闘シーンもカッコいいんです」
フィンは嬉しそうにそう語ると、一冊手に取り満面の笑みを浮かべた。シルフィーはその笑顔に心臓を射抜かれたように後ろにふらついた後目をハートにさせる。
「100冊買うわ。アレクがね」
「おい!!!!!」
アレクサンダーとエリオットは同時にシルフィーに突っ込む。フィンは「そんなに在庫ないですよう」と困ったように笑った。
「えー」
シルフィーは残念そうにアレクサンダーをじとっと見る。
「えーではないだろう。同じ本100冊とはどういうことだ。どうせならこの作者全種類の本を買うというのはどうだ?いやむしろここにある本全て一冊ずつというのは」
「アレク。さすがにシルフィーの部屋に置ききれない量だ。ココはこの国最大の量を誇ってるんだぞ!周りを見てみろ」
エリオットは途方もなく広い販売エリアを指差し精一杯説得すると、アレクサンダーは腕を組んで悩み始めた。
「ならば、この本達が入るような城をプレゼントするというのはどうだシルフィー」
アレクサンダーは明るい表情でそう提案するも、シルフィーは怪訝な表情を浮かべる。
「いやよ、アンタから城なんて貰ったら勘違いされるじゃない。婚約者でもないのに」
「っ」
「今絶賛婚活中なんだから」
「っっ」
「こういう恋愛小説を見て学ばないとね」
シルフィーはフィンから”アイフレ“を受け取って一人頷く。
「っっっ」
アレクサンダーは複雑な表情をして言葉に詰まり頭を抱えた。エリオットはやれやれと首を横に振る。
「(とっととプロポーズしたらいいのに)」
エリオットはアレクサンダーを見て苦笑すると、その場を収めるためフィンを見て笑みを浮かべた。
「とりあえず、この本一冊買うみたいだ。お会計頼む」
「はい!ありがとうございます!」
会計が終わった後、出口まで見送るフィン。アレクサンダーとエリオットが扉の向こうにシルフィーは一旦足を止めて振り返りフィンを見た。
「フィンちゃん」
「はいっ」
「貴方のお陰で、リヒトすごく幸せそう。あんな嬉しそうなリヒト見れてすごく安心した。本当にありがとう。これからもアイツをよろしくね」
「……っはい!」
フィンは少し驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに笑みを浮かべシルフィーを見送った。
その後のフィンは、アレクサンダーがシルフィーに本をプレゼントしたことを思い出しながら思いに耽る。
「(シルフィーさん、長い間重要任務してたから、王子からご褒美かぁ……。本以外もプレゼントするって言ってたなあ。僕はいっつもリヒトにもらってばっかりだし、何かあげたいな……)」
テストで満点とった時や、エスペランス祭で優勝した時、色々な出来事がある度フィンはリヒトからプレゼントを贈ってもらっていた。しかし逆はどうだろうか。手料理を振る舞ったりしたことがあれど、何か形に残るようなプレゼントをしたことがない。
フィンは暫く考えた後、やる気に満ちた表情を浮かべた。
「よし。僕もリヒトにご褒美わたそおー!」
掃除用の箒を持って高らかに腕を上げ意気込むフィン。その背後にはルークが立っていた。
「箒持ちながら何してんだ、フィン」
怪訝そうな表情を浮かべるルーク。フィンは慌てて振り返り顔を真っ赤にさせながら照れ隠しの笑みを浮かべた。
「えへへ、掃除がんばりま~す……!」
フィンは誤魔化すように箒で床を掃きながらそう言うと、ルークが持つ本に視線をずらす。
「ルーク先輩、それ販売図書じゃなくて貸出用ですよ」
「げっ!サンキューフィン。あぶねえー、エリア長に怒られるところだった」
ルークは冷や汗をかきながら慌てて貸出フロアに戻っていった。
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