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一年生・冬の章
友人よ幸せに②
しおりを挟む「俺も全力でサポートする!」
と、レイに誠心誠意言われても、リルはあまり頼もしく思えなかった。
でも、目の前の闇に呑み込まれそうな久居は、なんとかしなきゃと思う。
(どうしよう……。久居を焼かないように、闇だけ焼くなんて、ボクに出来るかな……)
久居の呼吸は苦しそうな音だけど、整えようとしてるのか、少しずつ少しずつ、ゆっくり落ち着いてきてる。
これなら、待ってれば、久居が自分でなんとかできるんじゃないのかな……?
ほんの少し首を傾げたリルに、レイが提案してくる。
「まずは、あのはみ出てる、久居から遠い部分から火球で焼いてみるか?」
「久居! ボクの声聞こえる?」
レイを無視したリルの言葉に、闇の塊がゆらりと揺れる。
「……リル……っ」
小さな小さな声が、リルの耳にだけ届いた。
「ボクが闇を焼いた方がいい? このまま待っとくほうがいい?」
「……焼いて、くださ……っ」
途切れ途切れに、それでも久居から手助けを求められたのが、リルには分かった。
久居に助けてって言われた。
その事実が、リルに力を与える。
「分かった。ボク頑張るね!!」
にっこり笑って元気に答えて、リルは指をまっすぐ久居に向けると、いつものように、ふわりと柔らかく炎で包んだ。
「リル! 久居まで焼く気か!!」
レイが焦って叫ぶので、リルは煩そうにレイ側の耳をパタパタさせながら答える。
「これは、久居を守る炎だから大丈夫だよ。あと、レイ声が大きすぎるよぅ……」
「そ、そうか、すまない……」
レイがしゅんとする。
非常識な程の音量では無かったつもりのレイだが、リルの耳には煩すぎたのだろうと素直に反省している様だ。
炎は、闇をも優しく包み込んでいる。
(この炎では、闇も一緒に包んでしまうけど。
闇だけ。闇だけ溶かしたい……。
久居は溶かさないように、闇だけ、そうっと溶かす……)
リルが炎に集中する。
白っぽかった炎が、徐々に水色に近付いてくる。
久居は、全身を暗い闇に重く絡み付かれていたが、その外から、何かふわりと温かいものに包まれたような感覚を受ける。
(これは、リルの炎ですね)
炎のおかげか闇の締め付けがじわりと緩む。
その隙に久居は呼吸を整える。
菰野の姿を、ひたすらに眼裏へ映しながら。
一瞬でも気を抜くと、自分への怒りで我を忘れてしまいそうだった。
冷静である事すら出来ない。
己の不甲斐なさ、情けなさに、またじわりと怒りが湧く。
それをまた、必死で封じ込める。
こんな事をもう何度繰り返しただろうか。
久居は、どうしようもない徒労感に苛まれる。
こんな無様な自分を許す事など、到底出来そうにもない。
だとすれば、この状況はどうすれば良いと言うのか。
じりじりと、しかし確実に、気力も体力も削られてゆく。
足元から這い寄る絶望は、既に久居の足首を掴んでいた。
リルの耳に、呼吸を落ち着かせかけては、また激しく乱される、久居の絶え間ない苦しみの音が届く。
「ねぇレイ、久居はもしかして、怒ってるの?」
リルに尋ねられて、レイが努めて静かに答える。
「あ、ああ。久居は、自分が母親と弟を殺したと言っていた。
おそらく、守れなかった自分が許せないんじゃないか?」
「そうなんだ……」
(久居にも、どうにもならなかった事があるんだ……)
リルは、つられて悲しくならないよう、慎重に心を調え、炎に込めてゆく。
炎は、うっすらとした水色から、秋の空よりも深く美しい澄みきった青へと、輝きながら少しずつ色を変える。
「何してるんだ?」
尋ねるレイに「ちょっと黙っててね」とリルが答える。
いつの間にかリルの額には汗が浮かんでいた。
レイが、リルの集中を邪魔してしまった事に気付いてまたしゅんとなる。
(久居、ボクは……)
リルが目を閉じる。
(久居が居てくれたから、ボクはここにいるよ)
ついに、久居を包む炎の全てが、空よりもずっと鮮やかな青に染まる。
(いつだって、久居が助けてくれた)
限りなく力を注ぎ続けるリルの指先が、冷え切って震えだす。
指先から全てが炎に溶けてゆきそうな感覚に、怯えてしまいそうな自分の心をリルは必死で支える。
きっと、自分よりもずっと、久居の方が今は苦しい。
ボクも返したい。久居にもらった温かい物を。
(……ボクの心も命も、ずっと、全部、久居が守ってくれてたよ)
リルはそっと目を開く。
涙が一粒、零れて落ちた。
(久居、届いてる……?)
と、レイに誠心誠意言われても、リルはあまり頼もしく思えなかった。
でも、目の前の闇に呑み込まれそうな久居は、なんとかしなきゃと思う。
(どうしよう……。久居を焼かないように、闇だけ焼くなんて、ボクに出来るかな……)
久居の呼吸は苦しそうな音だけど、整えようとしてるのか、少しずつ少しずつ、ゆっくり落ち着いてきてる。
これなら、待ってれば、久居が自分でなんとかできるんじゃないのかな……?
ほんの少し首を傾げたリルに、レイが提案してくる。
「まずは、あのはみ出てる、久居から遠い部分から火球で焼いてみるか?」
「久居! ボクの声聞こえる?」
レイを無視したリルの言葉に、闇の塊がゆらりと揺れる。
「……リル……っ」
小さな小さな声が、リルの耳にだけ届いた。
「ボクが闇を焼いた方がいい? このまま待っとくほうがいい?」
「……焼いて、くださ……っ」
途切れ途切れに、それでも久居から手助けを求められたのが、リルには分かった。
久居に助けてって言われた。
その事実が、リルに力を与える。
「分かった。ボク頑張るね!!」
にっこり笑って元気に答えて、リルは指をまっすぐ久居に向けると、いつものように、ふわりと柔らかく炎で包んだ。
「リル! 久居まで焼く気か!!」
レイが焦って叫ぶので、リルは煩そうにレイ側の耳をパタパタさせながら答える。
「これは、久居を守る炎だから大丈夫だよ。あと、レイ声が大きすぎるよぅ……」
「そ、そうか、すまない……」
レイがしゅんとする。
非常識な程の音量では無かったつもりのレイだが、リルの耳には煩すぎたのだろうと素直に反省している様だ。
炎は、闇をも優しく包み込んでいる。
(この炎では、闇も一緒に包んでしまうけど。
闇だけ。闇だけ溶かしたい……。
久居は溶かさないように、闇だけ、そうっと溶かす……)
リルが炎に集中する。
白っぽかった炎が、徐々に水色に近付いてくる。
久居は、全身を暗い闇に重く絡み付かれていたが、その外から、何かふわりと温かいものに包まれたような感覚を受ける。
(これは、リルの炎ですね)
炎のおかげか闇の締め付けがじわりと緩む。
その隙に久居は呼吸を整える。
菰野の姿を、ひたすらに眼裏へ映しながら。
一瞬でも気を抜くと、自分への怒りで我を忘れてしまいそうだった。
冷静である事すら出来ない。
己の不甲斐なさ、情けなさに、またじわりと怒りが湧く。
それをまた、必死で封じ込める。
こんな事をもう何度繰り返しただろうか。
久居は、どうしようもない徒労感に苛まれる。
こんな無様な自分を許す事など、到底出来そうにもない。
だとすれば、この状況はどうすれば良いと言うのか。
じりじりと、しかし確実に、気力も体力も削られてゆく。
足元から這い寄る絶望は、既に久居の足首を掴んでいた。
リルの耳に、呼吸を落ち着かせかけては、また激しく乱される、久居の絶え間ない苦しみの音が届く。
「ねぇレイ、久居はもしかして、怒ってるの?」
リルに尋ねられて、レイが努めて静かに答える。
「あ、ああ。久居は、自分が母親と弟を殺したと言っていた。
おそらく、守れなかった自分が許せないんじゃないか?」
「そうなんだ……」
(久居にも、どうにもならなかった事があるんだ……)
リルは、つられて悲しくならないよう、慎重に心を調え、炎に込めてゆく。
炎は、うっすらとした水色から、秋の空よりも深く美しい澄みきった青へと、輝きながら少しずつ色を変える。
「何してるんだ?」
尋ねるレイに「ちょっと黙っててね」とリルが答える。
いつの間にかリルの額には汗が浮かんでいた。
レイが、リルの集中を邪魔してしまった事に気付いてまたしゅんとなる。
(久居、ボクは……)
リルが目を閉じる。
(久居が居てくれたから、ボクはここにいるよ)
ついに、久居を包む炎の全てが、空よりもずっと鮮やかな青に染まる。
(いつだって、久居が助けてくれた)
限りなく力を注ぎ続けるリルの指先が、冷え切って震えだす。
指先から全てが炎に溶けてゆきそうな感覚に、怯えてしまいそうな自分の心をリルは必死で支える。
きっと、自分よりもずっと、久居の方が今は苦しい。
ボクも返したい。久居にもらった温かい物を。
(……ボクの心も命も、ずっと、全部、久居が守ってくれてたよ)
リルはそっと目を開く。
涙が一粒、零れて落ちた。
(久居、届いてる……?)
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