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一年生・冬の章

王族特務集結⑧

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「そうだが」


 リヒトがあっさりと事実を認めたため、アレクサンダー以外が驚きの表情を浮かべた。その中で一人、シルフィーは勢いよく立ち上がり俯く。


「嘘でしょ……?嘘って言ってリヒト」


 低く、暗いシルフィーの声が響く。
 周囲はシルフィーがもしかしてリヒトの事を好きだったのか?と目を合わせ動揺し始めた。修羅場好きのアリスはドキドキと胸を高鳴らせ、シャルロットは目を手で覆いそわそわとその様子を見ていた。


「事実だ。こんな嘘をつくと思うか」


 リヒトは呆れ顔でシルフィーにそう返答する。


「有り得ないわ!」


 シルフィーはそう言って机を叩くと、ワインを飲んでいたソラルはビクッと肩を震わせる。
 シルフィーはリヒトを俯き加減で睨みさらに続けた。


「なんだ、急に大声をだして」

「だって……」

「……」

「だって、こぉんな可愛い子がアンタなんか好きになるぅ!?」


 シルフィーはフィンの顔写真を指差しそう言い放つと、アレクサンダーが吹き出し思わず声を出して笑った。


「シ、シルフィー、おま、失礼にも程がっ……ぶふぉっ」


 アレクサンダーが笑う姿を見て苛ついた表情を見せるリヒト。


「だって、人の気持ちなんかどうでも良い~みたいな奴よコイツ!こんなのと恋人なんて、この子が気の毒すぎるじゃない!」

 
 シルフィーがリヒトに片思いをしていたという仮説はすぐに崩れ去り、あくまでもフィンを心配するシルフィーに対して一同は呆然とした表情を浮かべる。


「お前……久しぶりに会って言うことがそれか」


 リヒトは顔を引き攣らせ大きな溜息を吐いた。


「いやだって、どう見ても良い子でしょうこの子。あぁ分かった!良い子すぎて貴方を哀れに思いそう言う関係に!?かなり慈しみの深い子なのかしら……。
 いやでも、こんな冷徹で勉強馬鹿の根暗男、どうやったら好きになれるワケ!?顔だってよーく見たら怖いだけじゃない!」


 顔良し、血筋良し、才能良し。恋人など選び放題な存在のはずのリヒトに対し辛辣な言葉を浴びせるシルフィー。王族特務会議だと言う事を忘れた二人は言い合いを始める。


「根暗だと……?」

「事実でしょ。口を開けばボソボソと小さい声で嫌味ばっか言ってるじゃない!あぁ神様、どうかこの天使な子をお救いください!」


 シルフィーは祈るようなポーズをしながらそう言い放つ。
 同期である二人は、出身校は違えど学生の時から友人関係。シルフィーはアレクサンダー、エリオット、リヒトと混ざり交友することも多く、時にシルフィーは性格に難のあるリヒトに時折文句を言うこともあった。
 そしてそんなシルフィーに対しリヒトが素でいられることも事実。言い寄ってくる女とは違い、シルフィーは自分を好きになることはないと分かっているからこそ深く付き合っているうちの一人だった。


「言わせておけば……人聞きの悪い事を言うなこの猿女。可哀想だと思って言わなかったが、この程度の任務で大怪我を負うくらいなら大魔剣士など降りろ」

「さっ猿っ……!?というか話逸らさないでもらえる!?私薄々気付いてたけど、アンタみたいなタイプって恋愛しちゃうと重いのよ絶対。束縛しそうだし、執着心が凄そうだし?ねぇ、もしかして変な薬開発して惚れさせてるとかじゃないわよねぇ」


 あくまでもフィンが被害者なのではという疑念が拭いきれないシルフィーに対し、リヒトは舌打ちをして腕を組む。


「学生の時に“自分より強い人はちょっと”って言われてフラれたお前に言われたく無い」


 ツンっとした表情でそう言い放つリヒト。シルフィーの顔がみるみる赤くなっていく。


「なっ、ちょ、なんでそれ知ってんのよぉ!アレク、アンタが言ったのね!?」


 シルフィーがアレクサンダーの方を向いて涙目を浮かべると、リヒトは勝ち誇ったように鼻で笑った。


「言ったかな……そんな前のこと忘れた」


 アレクは困ったように笑い誤魔化す。


「シルフィーちゃん。あまり興奮すると傷が開くです。塞いでいても細胞はまだ弱っているです」


 シャルロットはぷくっと頬を膨らませながらそう発言すると、シルフィーは目を丸くし傷の部分を手で押さえた。


「あ、ごめんなさいシャルロット様」


 シルフィーは落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと椅子に座る。それでもリヒトを疑う気持ちは晴れず、ジロリと睨み付けていた。


「とにかく、この会議が終わったら会わせてもらうわよリヒト!この麗しい天使ちゃんにね!」


 シルフィーがフィンの写真を持ち鼻息を荒くしながらそう言い放つと、リヒトは心底嫌そうな表情を浮かべて舌打ちをした。


「何故そうなる……忙しいというのに余計な仕事を増やすな」

「シルフィーは言い出したらきかないぞ、残念だなーリヒト」


 アレクサンダーは他人事のように笑い心を躍らせていたため、リヒトはアレクサンダーを睨み付けた。


「観念しなさい。絶対に暴いてやるんだから」


 シルフィーはそう言って「ふんっ」と鼻を鳴らしたため、リヒトは眉を顰めたまま腕を組み目を逸らした。
 話が脱線したことで、ケイネスが気まずそうに口を開く。


「コホン。一区切りついたところで、話を戻してもらっても?王子」


 ケイネスの冷静な言葉で、低レベルな争いをしてしまったと内心思うリヒトとシルフィーは少し気まずそうな表情を浮かべた。


「ああすまない。さて、話の整理を付けていこうか。第一の事件は、リヒトが後見人を務めるフィン・ステラを執拗に狙った事件。最終的にはリヒトがクラウスの魔法を強制解除したことで解決したが、フィンの友人であるルイ・リシャール、セオドア・フルニエの健闘もあったため被害は最小限に抑えられた」


 指を鳴らすアレクサンダー。第一の事件に関する資料は一纏めにされ整理されていく。

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