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一年生・冬の章
王族特務集結⑦
しおりを挟む「確かにライトニング王子が負傷した事件に関しては、対雷・合成獣の存在から予想するに確実に王族を狙った帝国側の動きと見ていい。だがその他は違和感がありますな」
ジェラルドの発言に、リヒトは特に表情を変えず口を開いた。
「クラウスの狙いは間違いなくこの私です」
「む!?そうなのか!?通りで報告書を見る限り、リヒト、君が最終的に関わっているな」
ジェラルドは驚いた表情で問いかけると、資料をもう一度読み閃いたように顔を明るくさせた。リヒトは小さく頷きワインに口をつけ、そっとグラスを置く。
「クラウスの独断なのか帝国が仕向けているのかは不明ですが、明らかに私に対する攻撃です。第一の事件も第二の事件も、私に“間接的”にダメージを与えるため、身近な人物に攻撃をしている。クラウスらしい陰湿さです」
リヒトは鼻で笑った。
「なるほど。もしやリヒト、君が学生の頃に参加し大金星をあげた停戦前の戦争の件で恨まれているのか?まだ記憶に新しいにしてもそれなりに時間が経っているが。最近になって何故動き始めたのだろうか」
ジェラルドの問いかけにリヒトは口を噤む。
すると変わりにアレクサンダーがやれやれと笑いながら口を開いた。
「クラウスはリヒトの言う通り陰湿で、そして狡猾な男だ。一見無謀な事を仕掛ける命知らずにも見えるようなことをするが、自分が真っ向からリヒトに戦いを挑んでも負けると分かっている判断力もあるらしい。
だからだ。リヒトに対して“精神的なダメージ”を負わせようとしている。そうだろリヒト」
「……」
リヒトは肯定を意味するかのように無言で眉を顰める中、ジェラルドは未だよく分からないと首を傾げる。
アレクサンダーは苦笑しつつ話を続けた。
「第一の事件、そして第二の事件も被害者にフィン・ステラという名前が挙がっているだろう。この少年はリヒトが後見人を務める、ミネルウァの一年生だよ」
フィンの名前を聞いたアリスは、何かを思い出したように人差し指を立てて笑みを浮かべた。
「そういえば!確かそのお方、シルフクイーンを召喚出来る優秀な生徒でしたね。召喚士にとっては非常に誉れ、生きているうちにシルフクイーンにお会いできるなんて夢のようでした。私、あんな逸材がミネルウァにいたなんて驚きです。庶民と聞きましたが信じられないわ。貴族であればイデアルに欲しかったのですけど」
イデアル王都魔法学院の副学長アリスが悪気なく両手を合わせ残念そうな笑みを浮かべると、気に障ったケイネスがピクッと眉を動かし口を開く。
「彼は満点入学し、あのルイ・リシャールを抑えて第一位の座にいる一年生。シュヴァリエ公爵以来の秀才だと騒がれていますぞ。庶民が故に、魔力量はやはり貴族よりは劣るが……エスペランス祭で見ての通り、ハンデにもなっていない様子。イデアルの生徒を負かせているのだ、そちらにいても宝の持ち腐れだろう」
「知識があっても、それを実行できる程の魔力が無ければ意味がありません。きっと何かで補ったりしているのでしょうけど……。それにしてもあの地獄のような入試問題を満点……しかも庶民で第一位という肩書き。すごい新生が現れましたね。なんだか私、眩暈がしそうですわ」
アリスは頬を手で抑えいつものおっとりした様子でそう言い放つと、ケイネスは目をひくつかせ鼻で笑う。
「地獄のような入試問題とは失敬な。常識の範囲でしょう。うちは血筋だけでの選別はしませんよ」
嫌味のようなケイネスの発言と、天然で挑発をするアリスに、周囲は「始まった」と複雑な表情をし始める。二人の言い争いは最早名物と化しているのか、誰も止める素振りを見せなかった。
「あら、血筋も立派な才能ですよミネルウァ公爵。事実、この国の歴史を作ったのは貴族ではないですか」
アリスはにっこりと笑みを浮かべつつも反抗的な声色でそう言い放ち、そこからの二人は睨み合いしばらく膠着状態が続いたが、珍しくリヒトが呆れた表情で口を挟む。
「確かにミネルウァへの入学は厳しいですが、優秀の看板を掲げるミネルウァに入り箔をつけたがる貴族は多くいます。だが入学はそう簡単ではない。
結局ミネルウァの入試でふるい落とされた“血筋だけの凡人”は、お金と血筋があればイデアルが受け入れてくれる。それは悪い事ではなく、この国の教育機関はそうやって上手く仕組みが出来上がっていると感心してますが」
「っ……」
血筋も能力も最強を冠するリヒトの言葉に、アリスは言葉に詰まった様子ですっかり大人しくなった。アレクサンダーは溜息を吐き口を開く。
「おいリヒト、言い過ぎだ。なんにせよ内輪で言い争いをしている場合ではないぞ」
アレクサンダーはそう発言し「話を戻すが」と前置きしリヒトを見た。
「フィン・ステラを執拗に狙う理由、察しがついているだろうが、つまりはそういう事だ。クラウスはリヒトにとって“大事な存在”が出来るのを待っていたということ。大切な存在を壊し、リヒトが怒り狂うのを見たいのだろう」
「なんと酷い」
ローランドは眉を顰め動揺した様子で首を振った。
「いい度胸だ……後悔させてやる」
リヒトは資料に挟まれたフィンの写真を見ると、写真の中のフィンの頬を撫でて光のない瞳で怒りを表す。
その様子を見た一同は一瞬ゾクリと体を震わせ本能が恐怖を示したため、アレクサンダーが口を開いた。
「リヒト。殺気が出ているぞ」
「!」
リヒトはハッとした表情を浮かべ「申し訳ない」と一言謝り平静を取り戻す。シルフィーは驚いた様子でリヒトを見た。
「ちょ、ちょっと待ってリヒト。確認するんだけど、このフィン・ステラという子は貴方にとって大事な子……つまりその、そういう仲、ということでいいの?」
長らく仕事で国にいなかったシルフィーは、目を見開き慌てた様子で問いかける。後見人になっていることすら驚きだが、あの恋愛とは程遠いはずのリヒトが恋仲の存在を匂わせいることに驚きを隠せずにいた。
「そういう仲というのはどういう意味だ」
リヒトは首を傾げる。
「そ、その、つまりフィン・ステラは貴方の恋人ってことなのか聞いてるのよ」
シルフィーは少し顔を赤らめ核心をついた質問をすると、周囲は息を飲んで一斉にリヒトを見る。もちろん噂で聞くことはあったが、あの恋人も作らなさそう冷徹な大魔法師が直接それを認める現場を見たことがない。
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