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一年生・冬の章

王族特務集結⑥

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「シャルロット、簡単に説明をしてくれ」


 アレクサンダーの命令にシャルロットは頷く。


「えっと……アリエ嬢の心臓には、心臓を動かすための“魔法具”が埋め込まれているのです。定期的に取り替えなければアリエ嬢の心臓は動かないような仕組みになってるのかと……魔法具の中には特殊な魔法が組み込まれたオーロラのような色合いの液体が入ってますです。
 帝国はこれを“パワード・オーロラ”と名付けているです」


 シャルロットは詳細を確認するため資料を捲り次の内容を確認する様子を全員が見守る。


「あの、シャルロット様、そのパワード・オーロラは再現可能なのでしょうか」


 シルフィーが質問するも、シャルロットは何も答えず眉を顰めた。


「…………」


 シャルロットが何も言わず固まりしばらくその状態が続いたため、シルフィーは目を点にさせて再度声をかける。


「あ、あの、シャルロット様……?どうしました?」

「よ」

「よ?」

「読めないのです……」


 シャルロットは青ざめた表情をしながらそう発言すると、リヒト以外の全員が驚きの表情を浮かべる。


「よーく見ると、肝心なところばかり“帝国式古代語”になっていますのです」


 シャルロットは資料を全員に見えるように魔法で浮かせテーブルの上に広げた。
 

「セキュリティの問題で、重要な部分は帝国式古代語にする規則があるのかも知れないですね。実際、うちでも未発表の新薬のレシピを王国式古代語にする規則があるので」


 ソラルは困った表情でそう言うと、シャルロットはがっくり項垂れる。


「帝国古代語は難しい言語の一つでもありますです。解釈を間違えて作り誤作動を起こせば、アリエ嬢の命に関わるのです……」


 シャルロットは涙目で訴えると、リヒトの方へ視線を向ける。


「今保護をしているアリエ嬢の延命措置まで残り何日です……?」

「前回の延命措置から推測するに、残り一ヶ月かと」


 リヒトは淡々とそう言い放つと、シャルロットはさらに青ざめた表情を浮かべた。


「ああっ、時間が足りないのです~!」


 まずはレシピの翻訳をしてからではないと装置の理解と再現の可能性については考察すらできない。外枠の素材も重要で、それが王国内で製造できる物なのか。そして中身の“オーロラ”と称される液体が何で出来ているのか。どんな魔法を施しているのか。材料を見るに治癒魔法に使う素材が一部見受けられるが、説明を読むことができなければ確証を得ることができなかった。
 通常ならば一年は開発に時間をかけてもいいぐらいだが、残された時間はあと一ヶ月。
 シャルロットが頭を抱えていると、リヒトが資料を眺め少し悩んだ後に口を開く。


「時間を貰えますか」

「はぇ!?」


 シャルロットは突然のリヒトの申し出に目を見開く。


「三日……いや、二日で翻訳します」


 リヒトは真顔でパワード・オーロラの資料を指差しそう言い放つと、一同は騒つく。


「おいリヒト、お前帝国古代語が分かるのか?」


 アレクサンダーは少し驚いた表情で問いかけると、リヒトは小さく頷く。


「十二の時に勉強してます。正直言語学の中でも最も難解で手を焼きましたが、その文字数なら二日ででどうにかなりそうです」


 涼しい顔をして言って退けるリヒトに、シャルロットは笑みを浮かべた。


「シュヴァリエ公爵!!!助かりますですーっ!任せました!!!翻訳が終わった暁には、私がこの治癒魔法具の仕組みをすぐに解明しますです!」


 シャルロットは杖を高らかに持ち上げて気合いを入れ、アレクサンダーは安心したように息を吐いた。


「では本件、リヒトとシャルロットに一旦は任せることにする。何かあればすぐに申し出よ」

「承知」

「承知ですっ」


 リヒトとシャルロットはそれぞれ了承すると、アレクサンダーは頷き、次にジェラルドに視線を向ける。


「ジェラルド。リュドウィックが捕まった後、他の内通者が警戒をして帝国に逃げていないかを懸念しすぐに国境付近にて怪しい動きをする者がいないか、その調査を頼んでいたな。進捗はあるか?」


 ジェラルドは一度手を叩き、魔法水晶を出現させる。その水晶から映像が浮かび上がり、現時点での警備体制を全員に提示した。


「厳戒態勢を発令し国境付近の警備を固めましたが、現時点では怪しい動きをする者はいませんでした。帝国との貿易には一つの門しか解放していないので、そちらには変身魔法を見破るための装置を設置していますが、これまで怪しい反応を見せていないですね」


 ジェラルドは首を横に振って息を吐く。


「つまり、ネズミは現段階で潜んでいないか、自由に動き回ることを控えているのか……。もしローザリオン内で肩書きを持つ者が内通者の場合は、そう易々と逃げることも出来ないだろうな」


 ケイネスは顎髭を触りながらそう発言した。


「にしても、一連の出来事は複雑に絡み合っていると思いきや、噛み合っていない部分も多いですね。クラウスの狙いと帝国の狙いが一致していないようにも思えるのですが」


 ローランドはシムカと同じ淡い桃色の髪を耳にかけると、これまでの一連の事件を脳内で整理し続ける。

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