251 / 318
一年生・冬の章
王族特務集結⑥
しおりを挟む「シャルロット、簡単に説明をしてくれ」
アレクサンダーの命令にシャルロットは頷く。
「えっと……アリエ嬢の心臓には、心臓を動かすための“魔法具”が埋め込まれているのです。定期的に取り替えなければアリエ嬢の心臓は動かないような仕組みになってるのかと……魔法具の中には特殊な魔法が組み込まれたオーロラのような色合いの液体が入ってますです。
帝国はこれを“パワード・オーロラ”と名付けているです」
シャルロットは詳細を確認するため資料を捲り次の内容を確認する様子を全員が見守る。
「あの、シャルロット様、そのパワード・オーロラは再現可能なのでしょうか」
シルフィーが質問するも、シャルロットは何も答えず眉を顰めた。
「…………」
シャルロットが何も言わず固まりしばらくその状態が続いたため、シルフィーは目を点にさせて再度声をかける。
「あ、あの、シャルロット様……?どうしました?」
「よ」
「よ?」
「読めないのです……」
シャルロットは青ざめた表情をしながらそう発言すると、リヒト以外の全員が驚きの表情を浮かべる。
「よーく見ると、肝心なところばかり“帝国式古代語”になっていますのです」
シャルロットは資料を全員に見えるように魔法で浮かせテーブルの上に広げた。
「セキュリティの問題で、重要な部分は帝国式古代語にする規則があるのかも知れないですね。実際、うちでも未発表の新薬のレシピを王国式古代語にする規則があるので」
ソラルは困った表情でそう言うと、シャルロットはがっくり項垂れる。
「帝国古代語は難しい言語の一つでもありますです。解釈を間違えて作り誤作動を起こせば、アリエ嬢の命に関わるのです……」
シャルロットは涙目で訴えると、リヒトの方へ視線を向ける。
「今保護をしているアリエ嬢の延命措置まで残り何日です……?」
「前回の延命措置から推測するに、残り一ヶ月かと」
リヒトは淡々とそう言い放つと、シャルロットはさらに青ざめた表情を浮かべた。
「ああっ、時間が足りないのです~!」
まずはレシピの翻訳をしてからではないと装置の理解と再現の可能性については考察すらできない。外枠の素材も重要で、それが王国内で製造できる物なのか。そして中身の“オーロラ”と称される液体が何で出来ているのか。どんな魔法を施しているのか。材料を見るに治癒魔法に使う素材が一部見受けられるが、説明を読むことができなければ確証を得ることができなかった。
通常ならば一年は開発に時間をかけてもいいぐらいだが、残された時間はあと一ヶ月。
シャルロットが頭を抱えていると、リヒトが資料を眺め少し悩んだ後に口を開く。
「時間を貰えますか」
「はぇ!?」
シャルロットは突然のリヒトの申し出に目を見開く。
「三日……いや、二日で翻訳します」
リヒトは真顔でパワード・オーロラの資料を指差しそう言い放つと、一同は騒つく。
「おいリヒト、お前帝国古代語が分かるのか?」
アレクサンダーは少し驚いた表情で問いかけると、リヒトは小さく頷く。
「十二の時に勉強してます。正直言語学の中でも最も難解で手を焼きましたが、その文字数なら二日ででどうにかなりそうです」
涼しい顔をして言って退けるリヒトに、シャルロットは笑みを浮かべた。
「シュヴァリエ公爵!!!助かりますですーっ!任せました!!!翻訳が終わった暁には、私がこの治癒魔法具の仕組みをすぐに解明しますです!」
シャルロットは杖を高らかに持ち上げて気合いを入れ、アレクサンダーは安心したように息を吐いた。
「では本件、リヒトとシャルロットに一旦は任せることにする。何かあればすぐに申し出よ」
「承知」
「承知ですっ」
リヒトとシャルロットはそれぞれ了承すると、アレクサンダーは頷き、次にジェラルドに視線を向ける。
「ジェラルド。リュドウィックが捕まった後、他の内通者が警戒をして帝国に逃げていないかを懸念しすぐに国境付近にて怪しい動きをする者がいないか、その調査を頼んでいたな。進捗はあるか?」
ジェラルドは一度手を叩き、魔法水晶を出現させる。その水晶から映像が浮かび上がり、現時点での警備体制を全員に提示した。
「厳戒態勢を発令し国境付近の警備を固めましたが、現時点では怪しい動きをする者はいませんでした。帝国との貿易には一つの門しか解放していないので、そちらには変身魔法を見破るための装置を設置していますが、これまで怪しい反応を見せていないですね」
ジェラルドは首を横に振って息を吐く。
「つまり、ネズミは現段階で潜んでいないか、自由に動き回ることを控えているのか……。もしローザリオン内で肩書きを持つ者が内通者の場合は、そう易々と逃げることも出来ないだろうな」
ケイネスは顎髭を触りながらそう発言した。
「にしても、一連の出来事は複雑に絡み合っていると思いきや、噛み合っていない部分も多いですね。クラウスの狙いと帝国の狙いが一致していないようにも思えるのですが」
ローランドはシムカと同じ淡い桃色の髪を耳にかけると、これまでの一連の事件を脳内で整理し続ける。
67
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる