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一年生・冬の章
王族特務集結④
しおりを挟む「王子。ローザ・モリスの闇堕ちの件ですが」
「ああ。次に起こった事件だな」
「はい。私の持つ騎士団とシュヴァリエ公爵の騎士団で共同捜査をし、現在も違法図書の捜索を続けてます。しかし、今のところ問題となったこの一冊のみしか見つかっておりません」
アリスは杖を振ってローザの所持していた黒魔術の図書を出現させると、それを全員に見せるようにテーブル上に浮かせた。アレクサンダーはケイネスに目線を向ける。
「ケイネス、その本の材質はどうだったか調べはついたか」
「ローザリオンで作られる紙の材質とは大きく異なっています。木の種類が全く違う。帝国で流通する書物を取り寄せて調べてみると、案の定それと大きく似た材質だということが分かってます」
ケイネスは指を鳴らし魔法で資料を取り出すと、テーブルの上にそれを浮かせ材木の種類をアレクサンダーに提示した。
「つまり、ローザリオンで製造されたものではない可能性が高いのか」
「そう信じたいですがね。わざわざ他国の材質の紙を取り寄せて作って帝国の仕業だと仕向けるのであれば、敵は国内にいるということになる。“帝国との戦争を望む誰か”がいるということになりますよ」
ケイネスの言葉に、王族特務達の目つきが変わる。そんな中でリヒトは口を開いた。
「ライトニング王子が重傷を負った事件については、報告の通り王城に反逆者が三名潜伏していました。他に仲間がいると疑うことは、なんらおかしい事ではない」
リヒトは指を鳴らしライトニングが負傷した事件で投獄された三人の資料を出現させる。
元・第一王女付きメイドのアウラ・ルー、元・王国騎士団の諜報部隊リーダー、ディディエ・ボネ、そして王城で様々な場所を転々とし従事していた主犯格のリュドウィック・クレマン。
一同がその資料を眺める中、シルフィーは自分の部下であるディディエの資料を見ると顔を顰めた。
「ディディエ……」
切なげなシルフィーに対し、アレクサンダーは憂いた表情で資料を見る。
「三人にはそれぞれ反逆者となった理由がある。リヒトがアカシックレコードで三人の記憶を読み取っているからな」
リヒトはアレクサンダーの合図を受け取ると、もう一つの資料を取り出す。厳重に紐を巻かれたそれは厳重保管書物であり、仕事で使用したアカシックレコードの内容を記載する機密アーカイブだった。
リヒトはそれを開くと目を閉じ、照会を始めたことでアーカイブが白く光りを帯びる。該当するページが開かれると、リヒトは小さく口を開き説明を始めた。
「アウラ・ルーは帝国騎士団の諜報部隊から来たスパイですが、元々は帝国が占領した小国・ミンフロッドの奴隷。ディディエとリュドウィックの行動を見張る役で、帝国側に状況の報告をする役目を担っていました。
他国の奴隷出身ということもあり騎士団の中でも最下層として蔑まれ、捨て駒のような扱いを受けていたが、ソフィア王女に仕えてからは王女がメイドであるアウラに対して優しく接する姿を見て、自分がスパイということに罪悪感が芽生えていたようです。
アウラに関しては、幽閉後に全ての罪を自分の口で自白しました」
「得体の知れない者を王城に招き入れるなどあってはならないが、なるほど。当時、採用を担っていたリュドウィックがアウラを引き入れた訳か……」
ケイネスは説明を聞きつつ反逆者の資料を睨み付けるように眺めながら呟く。
「リュドウィックは驚きましたです。彼は王城勤めが長い古参とも呼べる方でしたし……本当に残念なのです」
シャルロットは眉を下げ、心底残念そうな表情を浮かべてリュドウィックの資料を見つめた。
「仰る通り、リュドウィック・クレマンは王城の執事として就任しており、王城の中の様々な場所に移動しリーダー能力を発揮していました。経歴としては、元々は魔法科学研究員。しかし、様々な研究をする上で倫理観の欠如という理由で研究者として不適合の烙印を押されています。
過去に発表され破棄された論文を確認したが、命を愚弄するような研究ばかりで正直この国の理念に合うとは言えない。それでも非常に優秀なのは変わりはなく、執事にジョブチェンジをしてからは大きく目立たずとも有能さを発揮してます。
……いや、正確にはあえて目立たぬようにしていた、か」
リヒトはそう言って過去のクレマンの論文を捨てるようにテーブルに置くと、一同はその内容を見て驚愕の表情を浮かべる。
「うっ……リュドウィックは少し知っているが、こんな研究をしていたとは微塵も思えない爽やかな男だったぞ。なるほど、研究者として諦めきれない野心を秘めていたか」
ジェラルドは青ざめた顔でその資料を見て大きな溜息を吐く。アリスはあまりの研究内容に静かに目を閉じ資料から目を背けていた。
「リュドウィックは自身の論文が認められないことに憤りを感じ、次第に国に対する不信感を持つようになった。その結果が、帝国に論文を送るという行為。論文内容が対雷・合成獣」
リヒトはシルヴァンが入手した資料をテーブルに出現させると、アレクサンダーは表情を暗くした。
合成に使われた犬の詳細や個体数、そして被験者の名前。凄惨な現場の写真も時折添付されていたが、アレクサンダーは目を逸らすことなく事実を受け止めていった。
「一体どれだけの犠牲を払ったのだろうか。行方不明者の名前もここに含まれていると聞いてる。こんな下衆な研究で命を落とした者がいるという事実は、重く受け止めなければならない。
そしてこの研究内容。ローザリオンの王族を根絶やしにしたいという執念が見えるな」
弟であるライトニングを傷付けた獣。そして、ローザリオンの王族を脅かす生物兵器。
「この技術はすでに帝国に渡っている。リュドウィックを捕まえたところで、もう止めることは出来ない」
アレクサンダーはこめかみに青筋を立てながら怒りを表すと、リヒトは「落ち着け。雷を降ろす気か」と言い放ち、アレクサンダーはハッとした表情を浮かべる。
リヒトは落ち着いた表情で指を鳴らすと、自身の報告書を提示した。対雷・合成獣と戦った際の詳細のデータと、回収した獣の死骸を分析した結果などが記載された資料だ。
「確かにこの獣は雷に対する耐久が高く、足が速い。だが、治癒能力に関しては術者の裁量で変わり、またこの獣自体操縦はリュドウィックにしか上手く操縦が出来ないという欠点があります。
耐久性も特段強いとは言えない代物で、ローザリオンにとっての脅威には感じなかった。王族に対して牙を向く前に滅することが出来ると考えてます」
リヒトは指を鳴らし新たな資料を提出する。
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