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一年生・冬の章
王族特務集結③
しおりを挟む「さて。今日は何故集まることになったか察しはついているだろうが、我が弟が例の事件で負傷したこともあって予定よりも会議の開催が遅れた。すまない」
アレクサンダーの言葉に、最年長のケイネスが口を開く。
「何を謝ることがあるんですかアレクサンダー王子。ライトニング王子が無事で本当に良かった。王族は国の光。失うわけにはいかない」
ケイネスは強めの声量でそう言い放つと、アレクサンダーは申し訳なさそうに笑みを浮かべる。
「ああ、お前の言う通りだな。なんにせよ無事に生きて帰ってきたことが1番だ」
アレクサンダーはリヒトに目線を移す。
「その節は助かったぞリヒト。お前がいなかったらどうなっていたことやら」
「当然のことをしたまでです」
王族特務の正式な会議のため、リヒトはアレクサンダーに対し敬語で話をする。相変わらず表情を変えることなくクールに言い放つと、その間に入るようにしてジェラルドは嬉しそうに口を開いた。
「いや~!ライトニング王子は随分立派だと聞きましたよ!なんでも幼子を守り抜いたと!私の知るライトニング王子は、少し抜けたところがありましたがそれが可愛くもあり、時に心配でもありました。だが、それは私の杞憂だったようですな。立派な王子になられた!ワッハッハ!」
ジェラルドは大きくはつらつとした声でそう言うと、アレクサンダーもつられて笑みを浮かべた。
「ライトはお前によく懐いていたな。それを直接言ってあげたら喜ぶぞ、ジェラルド」
アレクサンダーはそう言って指を鳴らすと、テーブルの上に金で出来たコップが出現し、魔法によってワインが注がれていく。アレクサンダーは真面目な表情で続け様に口を開いた。
「ライトニングの件もそうだが、最近いくつもの事件が頻繁に発生している。そもそもの始まりは、ケイネス、お前の学院での出来事だな」
「はい。帝国の大魔法師補佐官・通称“闇魔法のクラウス”が私の学院の生徒に憑依して潜伏し、あろうことか生徒に怪我を負わせております。
学院としてはすぐに監視体制の強化を行っておりますが、正直あの手の魔術は防ぎようがない。魔力が弱く、心に隙があれば憑依されてしまうような特殊な魔法です。それに、学院外で生徒の行動を制限するのも難しい。
救いとしては、シュヴァリエ公爵がギュンター・ヴァーグナーの魂に傷を付けず、クラウスの魂にダメージを負わせて憑依を解除させたことですな。魂にダメージを負えば暫くは憑依術は使えないとは思うが……手の内が分からない以上は警戒を続けなければなりません」
頭を悩ませながら語るケイネス。リヒトはワインを一口飲んでから口を開いた。
「クラウスの憑依術を見るのは何も初めてではないですから、理論は心得ているつもりです。大魔法師という位を冠している特権で、私自身は闇魔法の知識を得ることを許されている。まだ解明しきれていない部分は多くあるにしても、防衛をする意味で私は研究を続けなければならない」
「ということは、憑依を防ぐ魔法を開発しているのか」
ケイネスは目を見開きリヒトを見る。新規の魔法を開発するにはリスクも大きく、ましてや闇魔法という未知の領域はよほどの知識がなければダメージが大きい。
闇魔法を防御するには、光魔法の理論の理解も必要であり、それは複雑な工程となるはず。
「理論上は可能かと。個人的に使用する魔法というよりは、半永久的な装置を作ることを目指している。ミネルウァ公爵、それに関しては私も知識不足なところがあるので少し協力を得たい」
「!?」
リヒトの言葉に一同が驚き固まったため、リヒトは訝しげな表情を浮かべ続ける。
「……何か問題でも?」
眉を顰めるリヒト。
アレクサンダーは口元を手で抑え笑いを堪える中、シルフィーが両手を合わせて口を開いた。
「驚いた。貴方が誰かに協力を求めるなんて」
「は?」
リヒトはシルフィーの言葉に眉を顰める。
「だってほらリヒト、貴方ってば、誰かが手伝おうとしても“結構”って言って断ったりするし、命令をすることはあっても、自分から“協力をしてくれ”なんて言わなかったじゃない?」
シルフィーがにっこりと笑みを浮かべそう言うと、周囲もシルフィーの言葉に頷き一斉にリヒトを見た。リヒトは一瞬目をひくつかせてから軽く溜息を吐き、気まずそうな表情を浮かべる。
「……それがどうした。あくまで効率の問題だ。手段を選んでいる場合ではないからな。とにかくこれに関してはまだ開発に時間がかかる。ミネルウァ公爵、返事を頂けますか」
「無論、構わない。協力をしよう」
ケイネスは咳払いをしてから快諾すると、リヒトは王国式の着席時略礼をする。
「感謝します」
リヒトはさらに続けた。
「装置はまだ時間がかかるが、憑依が解けた後の後遺症の方の治療も問題ですね」
リヒトはソラルの方を見てそう言うと、ソラルは重たい口を開いた。
「ご推察の通りですよシュヴァリエ公爵。憑依の被害者であるギュンター・ヴァーグナーは未だ後遺症が続いていることから定期的に薬を処方していますが、完全な回復には至ってません」
「回復の見込みは?」
アレクサンダーの問いかけにソラルは頭を悩ませる。
「後遺症は不定期に起こる激しい頭痛や眩暈、そして動悸。いずれも起こる回数は減ってはきてますが、特効薬がまだ開発できてません。
ギュンター・ヴァーグナーには症状を緩和させる薬でなんとか耐えてもらってます。徹夜で研究を重ねてはいますが、薬の安定性が課題になっていてなかなか思うように進まないんです。こちらも少し時間をください」
「……そうか。すまないが引き続き頼む」
アレクサンダーは、未だ復学出来ずにいるギュンターを哀れみ真顔でソラルに命じると、ソラルは大きく頷く。
「勿論です。この件はうちの甥も絡んでいて結構な怪我をしていたので、かなり頭にもきていたところですし。
何が何でもギュンター少年の後遺症は消し去る。これは私のプライドでもあります。大魔法薬師としてのね」
ソラルは甥であるセオドアが巻き込まれていたことに対し憤りを感じながら、柔らかくされど決意がみられる声色でギュンターの回復を約束した。
続いてアリスが控えめな表情で口を開く。
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