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一年生・冬の章

王族特務集結②

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「それでは、恒例のアレをやるか」


 アレクサンダーは二度手を叩くと、王族特務達の表情が変わり厳かな雰囲気に変わる。真っ白で豪奢な刺繍がされた王族特務専用の正装を着た八名は、スッと目の色を変えた。
 アレクサンダーは目を細め小さく笑うと、最も左側の王族特務の椅子を指差す。


「ケイネス・ミネルウァ」


 エリオットの父ケイネス・ミネルウァ。最も偏差値の高いミネルウァ・エクラ高等魔法学院の学長を務めるこの国で最も有識者とされるハイエルフ。
 アレクサンダーが名前を呼ぶと、ケイネスは悠然とした様子で椅子の前に立つ。すると椅子はケイネスの魔力に反応して“知性を司る青色”の光を宿した。


「王族特務・大魔法学士、ミネルウァ・エクラ魔法学院学長兼務、ケイネス・ミネルウァ」


 ケイネスは自己紹介をし終えると、アレクサンダーは次に1番右の椅子を指差す。


「シルフィー・メルボア」


 リヒト、アレクサンダー、エリオットの同期で、スレクトゥ騎士団養成学院を主席で卒業したシルフィーは、三人との交流が深い人物でもある。
 名を呼ばれたシルフィーは、腰にレイピアを携え長いブロンドのポニーテールを揺らしながら優雅に歩き、1番右の椅子の前に立つと、椅子は“勇気を司る赤色”の光を宿した。


「王族特務・大魔剣士、王族騎士団“ローザリオン・ナイツ”司令官兼務、シルフィー・メルボア」


 シルフィーが自己紹介を終えると、アレクサンダーは次にケイネスの横の椅子を指差した。


「ソラル・フルニエ」


 セオドアはフルニエ家の分家に対し、ソラルは本家、つまりセオドア一族の当主。セオドアから見ればソラルは叔父にあたる存在だった。
 王都最大の魔法薬店“フルニエ・ファーマシー”のオーナーも務めるソラルは多忙だったのか、眠たい目を擦りながらも「ふぅ」と小さく息を吐いて気合を入れていた。多忙の理由を知るアレクサンダーは、それを優しく見守る。
 ソラルはふわっとした猫っ毛を無造作に放置した姿で猫背のまま椅子の前に立つと、椅子は“平和を司る緑色“の光を宿した。


「王族特務・大魔法薬師、魔法薬協会“ユニコメア”代表兼務、ソラル・フルニエ」


 アレクサンダーは次にシルフィーの横の椅子を指差す。


「シャルロット・オーヴェルニュ」


 タイニーエルフのシャルロットは、自身の背丈よりも大きな杖を抱えながら意気揚々と椅子の前まで歩くが、途中で躓きそうになるも持ち直して照れ隠しで咳払いをした。
 シャルロットが椅子の前に堂々と立つと、椅子は“救護を司る橙色”の光を宿す。


「コホンッ。王族特務・大魔法医学師、魔法医学協会“サザンクロス”代表兼務、シャルロット・オーヴェルニュ」


 シャルロットは愛らしくも堂々とした声色で名前を言ってニコッと笑みを浮かべると、アレクサンダーはシャルロットが転ばず良かったとほっとした笑みを浮かべ次の椅子を指差す。


「アリス・オルレアン」


 目をピンクの包帯で覆い、ピンクと赤を交互に重ねたようなドレスを纏う女性は、驚くほど高いヒールをカツカツ鳴らしながら自身の椅子の前に立つ。椅子は”神秘を司る紫色“を宿した。


「王族特務・大召喚士、イデアル王都魔法学院・副学長兼務、アリス・オルレアン」


 アレクサンダーは次の椅子を指差す。


「ローランド・アルテミス」


 ルークの護衛を務めるセインとシムカの生まれ“アルテミス伯爵家”の当主ローランドは、背に大きく黄色に輝いた豪奢な弓を背負いつつ、淡いクリーム色でセミロングの髪をかき上げながら颯爽と椅子の前に立つ。椅子は“躍動を司る黄色”を宿した。


「王族特務・大魔弓術士、“ローザリオン・ガーディアン” 弓術士司令官兼務、ローランド・アルテミス」


 徐々に埋まる空席。アレクサンダーは次の椅子を指差した。


「ジェラルド・ベイカー」


 ジェラルドは堀の深い顔をキリッとさせ小さく笑みを浮かべると、王族特務の中で最も体格の良いジェラルドがプレートアーマーの重たげな音を立てながら移動し、椅子の目の前に立つとそれは“勝利を司る紺色”の光を宿した。


「王族特務・大魔槍士、”ローザリオン・ガーディアン“門番守衛長兼務、ジェラルド・ベイカー」


 そしてアレクサンダーは残る最後、中心の空席を指差し小さく笑みを浮かべてから口を開く。


「リヒト・シュヴァリエ」


 ”これほどまでの天才はいない“と言われ、最年少で王族特務に就任した経歴を持つリヒト。相変わらずの冷徹そうな表情は変わることなく落ち着いた雰囲気で残った空席の前に立つと、椅子は”正義を司る白色“の光を宿した。


「王族特務・大魔法師、“ローザリオン・ガーディアン”総司令官兼務、リヒト・シュヴァリエ」


 リヒトの声がスイッチになったかのようみ、最後に王の椅子が“希望を司る黄金色”に煌めくと、全ての色が混ざり合いやがて弾けて煌めく。
 これこそが王族特務の会議を始める合図であり、昔からの慣例だった。


「久しぶりの集結だ、この輝きはいつ見ても飽きないな」


 アレクサンダーは得意げに笑みを浮かべ鼻を指で擦ると、シルフィーは苦笑しながら口を開いた。


「余韻に浸ってるところ悪いけど、傷が痛い。座っていいかしら王子。貴方の合図がないと座れないの」


 シルフィーが脇腹を抑えながらそう言うと、アレクサンダーはハッとした表情を浮かべ頭を掻いた。


「す、すまないシルフィー。大怪我を負っていたというのに。全員座れ」


 アレクサンダーの号令で一同は着席すると、アレクサンダーも品良く椅子に座った。すると椅子は魔法で動き、中心にテーブルが出現し、八名が向かい合うように椅子が動くと、中心にいたリヒトはアレクサンダーの右斜め前の配置となる。それはアレクサンダーの“右腕”を意味する位置であった。

 一つのテーブルを九人で囲み、王族特務の会議が始まった。
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