241 / 318
一年生・秋の章<それぞれの一週間>
フィンとメイド服①
しおりを挟む普段なんとなく新聞を流し読みをするリヒトは、執務室でコーヒーを飲みながら新聞を捲る。
すると、そこには驚くほど可愛らしい女性の写真と共に、“王都に謎の美少女降臨”という見出し文が書かれた記事を見つけた。興味が全くなかったリヒトは、次のページに進もうと指を動かすが、写真に違和感を感じ再度じっくりと美少女の写真を見つめる。
「……これは」
既視感を覚えたリヒトは、さらにその写真を睨み付けるようにまじまじと見つめると、突然立ち上がった。
「フィン」
写真の美少女がフィンだと気付いたリヒトは、その新聞のページを持って慌ててベッドルームを目指す。その表情は焦燥が滲み出ていた。
部屋に入ると、昨晩リヒトに愛でられたフィンが裸で毛布に包まりながら眠っており、リヒトは部屋に入った瞬間音を立てないようにそっと歩く。
「……まだ寝てる、か」
すやすやと寝息を立てて眠る天使の姿に、リヒトは優しい表情を浮かべてそっとベッドの淵に腰掛けた。
「フィン……困ったな。そんな可愛い顔で寝られては起こしにくい」
この記事の美少女は間違いなくフィンだ。
確信を持っているリヒトだが、目の前の天使を無理矢理起こして問い詰めるようなことまでは出来ない。この寝顔をもっと見ていたい。
だが、なぜ女装をしたのかその理由を聞きたくて仕方がない。
リヒトは葛藤しながら、目を細めフィンを見つめ続ける。
「けど……俺に黙ってこんなことするなんて、いけない子だね」
リヒトはそっとフィンの頭を撫で、ミルクティーのような柔い色をした髪を掬うように掴むと、匂いを嗅いでから愛おしそうに見つめそっと額にキスをした。
「すー、すー」
フィンは少しも起きることなく気持ち良さそうに眠っているため、リヒトはクスッと笑みを浮かべ頬を撫でた後、首もすりすりと撫でて様子を伺う。
フィンはピクリとも反応せず、気持ちよさそうに寝息を立て続けた。
「今日は深い眠りだな」
フィンは寝付きが良く、時折どんなに揺すっても起きないぐらいに深く眠る時がある。今日がその日だと悟ったリヒトは、フィンがかけていた毛布をそっと捲った。
「起きないなら悪戯するよ」
リヒトは少し小さめの声でそう問いかける。しかしフィンは起きることなく、仰向けで寝続けていた。
いつもなら好きなだけ寝かせてあげているが、今はとにかくなぜこんな格好をしたのかが聞きたい。リヒトはそう考え小さく溜息を吐いてフィンの耳にキスをした。
無理矢理起こそうと思えば起こせるが、リヒトはあえて段階を踏むことにする。
「フィン」
リヒトは毛布を全て捲ると、フィンに覆いかぶさるような体勢になりキスをした。柔らかいフィンの唇を啄むと、舌を入れて吸ったり舐め回し、気付けばフィンの手首を強く握って押さえつけている状態になる。
「んんー」
フィンは少し声を出すが、それでも深い眠りについたまま目を醒さない。
リヒトは次に、フィンの鎖骨に舌を這わせる。
「んん、ゃー……っ」
フィンは眠ったままくすぐったそうに身を捩る。
「いや?」
リヒトは今度はフィンの乳首に舌を這わせ強く吸い付くと、今度は流石にビクッと反応を示しフィンは少し目を開いた。リヒトは薄ら笑みを浮かべフィンの視線を拾うように目を合わせにいくと、「フィン」と小さく呼ぶ。
「ん、ぇ……?」
寝ぼけ眼のフィンは、暫く状況を読み込めないままぼーっとリヒトを見上げた。
フィンの目が開いたことを確認したリヒトは、新聞を取り出すと、フィンの女装写真の載った記事をフィンに見せる。
「フィン。これ、説明してもらおうか?」
リヒトの低い声と、目に飛び込んだ自身の写る新聞記事を見てすぐに覚醒したフィンは、目を見開き慌てた様子で新聞を掴み飛び起きた。
「ななななんで僕が新聞にっ!?」
いつの間に写真を撮られたのだろう。以前、エスペランス祭の取材でルイやセオドア等と共に一面を飾ったことはあるが、こんなにすぐにまた新聞に取り上げられるとは。
しかし、これはフィンではな“ミシュリー”。今謎の美少女として新聞に取り上げられていることに狼狽えつつも、自分だと分かるのはリヒトだけだろう。
「やっぱりフィンなんだね」
リヒトは軽くため息を吐きながらもフィンから新聞を奪い取り再度押し倒す。
「わっ!あ、あのね……ごめんね?隠すつもりは全然無かったんだけど」
フィンは申し訳なさそうにそう話すと、リヒトはフィンの顔を掴んで目を細める。
「説明して?どうしてこんなことを?」
リヒトは相変わらずの美しい顔でじっと見下ろした。
「うんとね……」
フィンはルイ達と計画を立て、メイド長を追い出す計画を実行し成功させたことを話す。事の顛末まで聞き終えたリヒトは、表情を少し曇らせてベッドの端に腰掛けると溜息を吐いて俯いた。
「なるほどな……アイツらしいやり方だ」
ルイは他人に迷惑をかけることを躊躇うタイプであるため、こういった頼み事をするということは王城でよほどストレスを抱えた生活をしていたのであろう。
信頼のできるフィンとセオドアに、何としても被害が行かないように考え込まれた設定とシナリオ。フィンに至ってはメイクとヴィッグで完全に女性にしか見えないようになっており、この新聞だけでフィンと気付く人はおそらく自分以外にいない。
「……確かにルイの方法なら、セオドアとフィンが身バレもせず、やり返されるリスクは低い。メイド長が罪の意識を背負い戻ってくることにリスクがあると判断した以上は、もう王城に戻らないかもしれないしね」
それに何より、この計画の顛末を語るフィンの目が輝いていた。リヒトはチラッとフィンの方を見ると、フィンは毛布で肩まで身体を隠しながら起き上がり、怒られてしまうのかと目を潤ませている。
「フィン、楽しかったんだね」
「っ」
フィンは目を見開いたあと、小さく頷いて口を開いた。
「最初はびっくりしちゃったけど、でも、三人で協力して成功した時、なんかすごく楽しくて。ルイくんも、これで安心して過ごせるんだなって思うと嬉しかったの」
フィンは目を細め優しく微笑むと、リヒトは溜飲が下がったような感覚になったのかフィンを見てから頭を撫でた。
「気持ちはわかる。俺も昔、三人で色々やったから」
ミネルウァの黄金世代と言われた時代。リヒトはアレクサンダーとエリオットと結託しフィンには自慢できないような事をよくやっており、リヒトはそれが楽しかった記憶だったのか、少し思い出して軽く笑みを見せた。
フィンは安心したように表情を緩ませるも、リヒトは途端に目を鋭く光らせる。
「でも」
「!?」
「一つ許せないことがある」
「え……」
フィンは小動物のようにぷるぷる震えながら毛布を掴んでリヒトの様子を伺った。
131
お気に入りに追加
4,774
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる